第15回 関西クィア映画祭 2022 開催。 今年のミニ特集は「ノンバイナリー」
- プランナー
- 岡部友介
「クィア(Queer)」を切り口に、「性」をテーマにした映像作品を上映するお祭り、関西クィア映画祭。15回目となる今年は、9月に大阪と京都の2会場で開催します。
国内のセクシュアルマイノリティ系映画祭では最多の上映作品数で、今年は14の国・地域から集まった、合計28作品を上映。前後編の2回に分けて、見どころをご紹介します。
今回は、実行委員の西木久実さん、ひびのまことさん、渡邊祥子さんに、今年のミニ特集である「ノンバイナリー」についてお話を伺いました。
■今年のミニ特集は「ノンバイナリー」
─今回のミニ特集はどの様に企画されたのでしょうか?
西木:映画祭を作っていくにあたって、たくさんの海外作品を試写していきます。その中で『ここにある美しさ』という作品と、『アンバー、いつまでも』に出会いました。まず、『ここにある美しさ』を試写したときに、個人的にこの映画を見ることができて本当によかったと思ったんです。と言うのも、トランスジェンダーの映画はこれまでにも応募があり、自分たちでも探して見てきましたが、ノンバイナリーという性のあり方に特に焦点を当てた映画を見たのは初めてだったからです。
─『ここにある美しさ』と、『アンバー、いつまでも』はどんな映画ですか?
西木:『ここにある美しさ』には、たくさんの人が出てきて、それぞれが性のあり方を語っています。自分のことをノンバイナリーと言っている人も言っていない人も出ていて、一人一人が違うんだということが伝わってくる映画です。
もう一つの『アンバー、いつまでも』は、3、4年に渡ってアンバーさんを撮っている映画です。アンバーさん自身の性のあり方への気持ちの変化だったり、周りの人間関係の変化がドキュメンタリーで描かれています。自分の人生を楽しみつつ、一生懸命に生きている様子が伝わってくる映画です。
最初からテーマを決めて特集を組もうと動いていたわけではなかったのですが、今年は素敵なノンバイナリーの作品が2つ揃ったこともあり、ミニ特集にしました。でもそういった映画に今年出会えたのは偶然ではないと思っています。それは世界的な流れや、有名人の文脈で言いますと、ハリウッドでもノンバイナリーとカミングアウトする人がいたり、日本でも宇多田ヒカルさんが言っていたり。ノンバイナリーという言葉がマジョリティにも認知されるようになってきた中で、登場してきた映画でもあると思うんです。
■ノンバイナリーという言葉
西木:今回ミニ特集がノンバイナリーということで私たちもこの言葉を使っていますが、大切にしたいことは、ノンバイナリーという言葉が使われる前から性別二元論に当てはまらない性のあり方を生きている人はたくさん居たということです。それを描いた映画もたくさんありますし、映画祭でも上映してきています。たとえばトランスジェンダー映画の中でも、完全に男とか女という感じではなく、私の性は私なんだ、という語りも多くあります。
2016年に『アロハの心をうたい継ぐ者』というハワイの先住民族の映画を上映しました。先住民族の文化の中に「マフー」という存在がいて、英語圏の解釈でとても雑に説明すると、トランスジェンダーと言えてしまうのですが、でもそうではなくて、「マフー」とは女でも男でもなく「マフー」であり、女性と男性の両方の強さを持つ存在というニュアンスです。
マフーは古くからコミュニティの中で尊敬を集めてきた方々で、今もいらっしゃいます。この人たちはノンバイナリーなのか?というと、それは違うようにも思います。ノンバイナリーとはあくまで西洋の英語の言葉であり、概念です。それをハワイの先住民族の文化に押し付けるのは違って、だから、マフーのことをノンバイナリーと、勝手に言ってはいけないと思うんです。
─ノンバイナリーであるかどうかは、他人が決めることではないということですね
西木:そうですね、でも自分で名乗り、使うことは良いことだと思います。ノンバイナリーという言葉や概念を知ることで、今までシスジェンター(出生時に割り当てられた性と同じ性別を生きていく人)として生きてきた人の中でも、自分の性が揺らぐ人がこれから増えると思うんです。あれ私、ほんとに女なのかな?男なのかな?って。ノンバイナリーという言葉を使って元気になっていく人もきっと増える。
一方で、トランス差別がある社会の中で、昔からずっと権利を訴えてきて、たくさん我慢をさせられてきたトランスの人たちもいっぱいいます。そういった人たちの話が、忘れられたり、また周縁化されてしまうのではないかと不安にも思うんです。
その人たちが闘ってきたからこそ、これまでシスジェンダーとして生きてきた人の性が揺らいだ時に、それを受け入れる土台があるんだと思います。だから私たちは、今までずっと闘ってきて、その土台を作ってきてくれた人たちがいるということ、その存在の話もちゃんと大事にしていきたいです。
映画祭ではこれまでもたくさん性別二元論に当てはまらない人の映画を上映してきましたし、これからもノンバイナリーやトランスの映画も上映していきたいです。もちろん、最終的にバイナリーと自分のことを捉える人たちの映画も上映していきたいと思っています。
また、Xジェンダーという言葉の方が日本のセクシュアルマイノリティのコミュニティの中で長く使われてきた言葉で、Xジェンダーを名乗って生きてきた人も今までたくさんいましたし、今でもたくさんいます。その存在のことも、ちゃんと取り上げていきたいです。
■ミニ特集に合わせて作ったZINE
西木:ZINE「性別二元論に抗う私たちー関西クィア映画祭 ミニ特集『ノンバイナリー』に寄せてー」を作りました!ZINEとは何なのか、中で詳しく説明していますが、簡単にいうと、冊子のことです。総勢16人の方に寄稿いただきました。映画祭当日、物販ブースで購入できます。
今回、ノンバイナリーという言葉を切り口に、インタビューを通じてさまざまな知見を得ることができました。ノンバイナリーという性のあり方について、私も実際に会場で作品を鑑賞し、さらに理解を深めていきたいと思います。ZINEもぜひ読んでみてください。また、ノンバイナリーという言葉が使われる前から性別二元論に当てはまらない生き方をしてきた人たちがいること、長く権利を訴え闘ってきた人たちが土台をつくってきてくれたこと。そういったトランスジェンダーやXジェンダーの歴史についても改めて考えていきたいです。
記事の後編では、関西クィア映画祭のみなさんが大切にしている、「ミックス」の考え方について取材しました。こちらもあわせてご覧ください。
後編はこちら:第15回 関西クィア映画祭 2022 開催。「ミックスの場所」を目指して
記事内で紹介した作品のみならず注目の映画が盛りだくさんですので、詳しくは下記WEBサイトよりプログラムをチェックしてみてください!
【大阪】
期間:2022年9月2日(金)〜8日(木)
会場:シネマート心斎橋
大阪市中央区西心斎橋1丁目6−14 ビッグステップビル4階
【京都】
期間:2022年9月23日(休・金)〜25日(日)
会場:ゲーテ・インスティトゥート・ヴィラ鴨川
京都市左京区吉田河原町19-3
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