DEIな企業風土の耕し方 vol.3 日本航空株式会社の場合(前編)
- 編集長 / プロデューサー
- 半澤絵里奈
人的資本経営、社員のダイバーシティ、インクルーシブな価値提供…。企業にとって、対お客さま、対社員、対株主、さまざまな視点でダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン(以下DEI)の取り組みの重要性は増す一方。ただし、日本ではいまだ多くの企業がDEIを風土・文化として浸透させきれていない現状があるのも事実です。そこで、すでにDEIの取り組みを精力的に行い、インクルーシブな企業風土を育てている企業の皆様にお話を伺うことで、「DEIな企業風土の耕し方」のヒントを探る連載が7月からスタートしました。
今回その第3弾として、長年DEIの活動に積極的に取り組まれている、DEI老舗企業である日本航空株式会社の上野さんにお話を伺いたいと思います。前編・後編と分け、この前編では「JAL×DEIの現状」についてお伺いします。
お話を伺った人: 上野桃子さん(日本航空株式会社 人財本部人財戦略部DEI推進グループ)
聞き手:川口真実、楫西一公、鈴木陽子、半澤絵里奈
――日本航空株式会社(以下JAL) DEI推進グループの職務におけるミッションを教えてください。
上野さん:JALは2030年までになりたい姿として、JAL Vision2030というものを掲げており、全社員一丸となって、その実現に向けて取り組んでいます。
この中期経営戦略では、JALグループの中でESG戦略が最上位の戦略として位置付けられており、ESG戦略の推進には「多様な価値観を尊重し、新たな価値創造に挑戦し、変革を起こしていく人財が必要」という考えがあります。そのための一つとしてDEIを推進しています。
――JAL Vision2030や、JAL DEIラボなど、社内外で多様なアクションを実施されていると思いますが、主な取り組みを教えてください。
上野さん:私が所属している人財本部人財戦略部DEI推進グループは、JALグループのDEI推進の旗振り役をしている組織です。主な役割は5つあります。
①ジェンダーギャップのないキャリア推進
②育児・介護と仕事との両立支援
③LGBTQへの理解促進
④障がいのある社員の活躍推進(特例子会社との連携)
⑤シニア社員の働き方
また、JALグループは150社以上あり、グループ全体に意識を醸成させるのはハードルが高いです。そのため、トップダウンとボトムアップを組み合わせることで社内の意識を変えていこうとしています。
上記5つの領域において、経営層をはじめとするトップからのメッセージを社内外に発信したり、ボトムアップの取り組みである組織横断で成り立つJAL DEIラボでは、社員からの声を吸い上げて多様性を尊重する風土を醸成しています。DEIラボは業務として兼務発令が出され、グループ各社も参加可能な手上げ制で成り立っています。
JAL DEIラボの施策で実際に仕組みとなった具体的な事例として、「自律的キャリア研修」があります。JAL DEIラボの研究の結果、「社員の自発的な挑戦への支援がキャリア意識の向上に大きく寄与する」ということがわかったため、そこから「自律的キャリア研修」という社内のインターンシップ制度がうまれました。
――JAL Vision2030や、JAL DEIラボなどに取り組む以前と後ではどのような変化を感じていますか?
上野さん:JAL DEIラボは2015年に始まりました。当時は女性活躍推進をメインに始まりましたが、2024年の今、社会・会社が本当に変わったなと感じています。
私は2008年に入社しましたが、当時は女性の総合職(業務企画職)も今ほどは多くはなく、育児と仕事を両立している社員も私の周りには少なかったです。今では少しずつDEIが当たり前になりつつあると感じます。個人的には、性別にかかわらず、仕事と育児が両立しやすくなったことが大きな変化だと思います。
――JAL DEIラボに参加した社員からはどのような声がありますか?
上野さん:JAL DEIラボでは、期ごとにテーマを変えて研究や社内への提言を行っています。社員からは「DEIを自分事化として考えられるようになった」という声がありました。
――JALならではと感じている活動はありますか?
上野さん:JAL DEIラボをここまで長期間(約10年)続けていることでしょうか。
インタビュー前編はここまでです。
後編では、組織においてDEIを文化として根付かせるためにどのような取り組みを行っているのか詳しくお伺いしていきます。
*記事内の画像についてはすべて日本航空会社様よりご提供
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