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28

Sep.

2022

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3 Mar. 2022

【中編】 「もうダメかも」不安に対処し自分のニーズを満たすための、回復魔法とは|並河進さん×医師 鈴木裕介さん

渡邊はるか
メンタルヘルスラボ /クリエーティブ・プロジェクト・プロデューサー
渡邊はるか

イベント「並河進さんと鈴木裕介医師に聞く!メンタル不調体験とその付き合い方 」中編です。

パニック障害などの不安症状と、その対処法

並河: まず、僕の体験について、それが一体どういうことだったのか、ゆうすけ先生に伺えたらと思います。僕が休職中に木片を握りしめていたくなったのは、なぜなのでしょうか。

鈴木: パニック障害というのは不安が非常に強くなる「不安障害」という病気の仲間です。

不安というのは危機に気づくための正常な感情なのですが、コントロールできないほどの不安を感じているときは、心が今ここにあるというよりは、過去に感じた恐怖や不安が身体感覚として再演されていて、これがまさに先ほど並河さんがおっしゃった混線というものなのです。プレゼン恐怖とかも、不安障害の一種ですね。

並河: プレゼン恐怖、ありました。

鈴木:  たとえば、プレゼンで鬼詰められたり袋叩きにあった恐怖の体験というのは、トラウマと言っていいと思います。そのときの恐怖にまつわる反応として、動悸やふるえ、汗をかいたりした体験が身体に記憶されるんですね。

で、それに近いシーン、たとえば、会議で意見を求められたりすると、そのときほど危険ではないにもかかわらず、今、体が「危険だ」と反応して、過去の身体感覚が再演されてしまうことがあるのです。

木片を握ることで、痛みや質感を感じますが、これは今感じている感覚なので、過去に飛んでいってしまいそうになるものを、今ここにとどめておくような働きがあったのではないかと思います。

心理学的にはそれを、地に足を付けるという意味でグラウンディングといったりします。深呼吸をしたり、つぼを押したりすることもグラウンディングの一つです。

イラスト:渡邊はるか

並河: 事前のミーティングで、ゆうすけ先生が、今は危ない状況に置かれているわけではないにもかかわらず、未来を考えて不安になってしまうみたいな話をされていて、はっとしました。やはり不安の原因は、未来のことを考えることにあるのでしょうか。

鈴木: そうですね。パニック障害の場合は、「また不安の発作が起こったらどうしよう」という「不安に対する不安」が特徴的です。これはまさに、未来に対する不安といっていいとおもいます。そして、不安が増幅するメカニズムというのがあるんです。

例えば、上司に挨拶したけれどそっけなかったという出来事があったとして、実際は挨拶が聞こえていなかっただけかもしれないのに、「自分は何か失礼なことをしてしまったのではないか」「そういえばこの間もこういうことで怒らせてしまった」「そういえば過去の学生のときもこういうことがあった」「こんなことではもう将来どうしようもない。死んだ方がいい」と、雪玉が坂道を転げ落ちて雪だるまがどんどん大きくなるように、自分の中でネガティブな気持ちを大きくしてしまう。そうするとなかなか止まらないのですよね。

こういうのを反芻(はんすう)思考や反芻といいます。これは誰でも起こりえます。

並河: 夜中に特にそうなる傾向があって、具合が悪かったときはそれで夜中に攻撃的と思わせてしまうようなメールを送ってしまって 、後で反省したのですが。

鈴木: 攻撃的になるというのは不安の裏返しですね。

不安や不調に対して、自分なりの回復魔法(コーピング)を持つ

並河: 病気になってしばらくしてから、とにかく「ふて寝」でいこうみたいな感じで、嫌なことがあると早く寝てしまいます。朝早く起きて仕事しようと思うと、意外と大したことではなかったなということがあります。その不安になるときの対処法にはどういうものがあるのですか。

鈴木: 「何かこれ、もうあれだな」と思ったらふて寝してしまうのは、非常にいい方法です感情は運動や身体反応と関わっているので、どきどきしたり、胃がきゅーっとしたりすると、自分は今不安なのではないかという気持ちになり、そのことばかりに注目して、どんどん大きくなってしまうことがあるので、さっきの表現で言う雪玉が大きくなりすぎる手前でいったんその流れを止めてしまうのはすごく良いことです。それに不安を止めるお薬や寝るお薬が役に立ったりします。

並河: 漫画を読んだり、違うことをするのもいいのですか?

鈴木: すごくいいです。慣れてくると自分が落ち込むパターンが読めてくるではないですか。

そうなったときに、坂道を転げ落ちそうになるのをぐぐっとこらえて、サウナに行く、カラオケに行くなど、自分なりの回復魔法を使うのです。その転げ落ちないために自分を助けるための行動や考え方のことをコーピングといいます。元気なときにそのリストを作って、携帯の中に入れたりしておくと、落ち込んだときに見ることができます。

鈴木: 並河さんが、一人旅で湯葉を食べていたのも結構ナイスで。

湯葉や豆乳などの豆類やバナナ、乳製品なんかは、セロトニンの原料になるトリプトファンという必須アミノ酸が入っています。セロトニンの不足がうつや疲労、不安障害と深く関わっています。

元気がないときは食欲が落ちて、アイスなど糖質ばかりになってしまいがちなのですが、それでは自分を立て直すための物質、部品が作れなくて、落ち込みが長引いてしまうことがあるので、頑張って タンパク質を取ってもらえるといいですね。

メンタルヘルス不調になって気づいた、手放すことの大切さ

鈴木: 並河さんは、こういう経験をされて、仕事の仕方や世の中の見え方が変わったのではないでしょうか。

並河: そうですね。全部自分でコントロールしないと、という気持ちがすごく強かったのですが、その気持ちは今でもあるんですが、でも、そうではなくて、やはり手放すことが大事、というか。

何かやりたいと思ったら、何か手放さないとできないではないですか。でも、それが分かっていないと、やりたいことや頼まれたことを全部背負ってしまうので。

鈴木: 他人のニーズだけをずっと聞いていると、結局自分のニーズを満たすことがおろそかになって、体調が必ず悪くなるように人間というのはできているのです。

鈴木: もちろん人に喜んでもらえてうれしいという気持ちや達成感はあると思うのですが、本当に忙しかったり仕事が楽しかったりすると、自分がそもそもどういうことをすると心地いいと感じる人間なのかが分からなくなってしまうのですよね。その感覚を一個一個取り戻すための機会になったのでしょうか。

並河: もう一つはやはり仕事と命だと比較にならない。当然圧倒的に命が大事というか。命と、あと生活ですね。家族と生きていく、という、そちらの方が本当に比較にならないほど大事なものなのだなという。そこは気付かされましたね。

メンタルの調子を崩すことは誰にでもある

鈴木:  普段の状態で、絶対に命の方が大事と思っている人でも、「もうこのままいなくなってしまった方が楽なのではないか」となってしまうことはあります。

身近な人に、こんなふうに言われたときに、何と言葉をかけようかというのがすごくあると思うのですが、そういう気持ちになるのが当たり前なので、その気持ち自体は別に否定されるべきものではない。そういう気持ちを持っているのも自分で、そういう存在として受け止めてもらえることで得られる安心感もあるのではないかと思っています。

並河: なるほど。メンタルの調子を崩してしまったことで、妻に申し訳ないという気持ちもありました。でも、そう思っても当たり前、そんなに特別なことではないと言っていただいて、発見でした。

鈴木: こうした痛みの体験ってネガティブに捉えられがちですが、ポジティブな側面があることを強調したいんですね。ポスト・トラウマティック・グロース(PTG)という、僕の好きな言葉があります。

トラウマティックな痛みの体験が糧になり、その後人間として大きくグロース、成長するということです。痛みを伴う出来事は人をすごく成長させるし、すごくクリエーティブにさせる。それはやはり気付きが得られるからだと思うのです。

特にメンタルヘルスのクライシスというのは、その人にとっては命の危機なのですが、そういう局面に立たないと見えてこないものって必ずあると思うし、それを経験された方が得られる人間的な気付きや成長は計り知れない、ということを表している言葉です。

並河: 気付きというのはすごくぴんと来ますね。

鈴木: その気付きのレベルが上がることで、同じものを見ていても、世の中の見え方が変わってくる。僕はそういう人が上司でいてくれた方がありがたいなと思います。

周りの期待に応えようと頑張り過ぎてしまう、過剰適応

並河: なるほど。ちょっと違う話を聞いてもいいでしょうか。

ゆうすけ先生の『メンタル・クエスト 心のHPが0になりそうな自分をラクにする本』では、いろいろな心のタイプが紹介されています。

僕の話を聞いていても、「自分のタイプとは違うな」という人もいるかもしれないので、他にどういうタイプがあるか、このタイプが多いのではないかなど、教えてもらえますか。

鈴木: 一番起こりやすいタイプを一つ挙げるとしたら、過剰適応というものがあります。

周りの期待に応えようとし過ぎて頑張り過ぎてしまう。期待に応えられるとうれしくて、期待に応えられないと申し訳ない。その場の空気やニーズを察して先回りできてしまう方です。日本人の2~3割ぐらいがそうです。

そのような過剰適応傾向が強い人を、この本ではメランコリー親和型性格、真面目な英雄タイプと言っています。

広告会社というのはカルチャーが強いと思いますが、過剰適応の方は、カルチャーが強ければ強いほど、そこに溶け込まなくてはいけないとなりやすいです。

そういう方は仕事の評価も高かったりするのですが、それは自分のことを置いておいて周りに適応しているということなので、やはりサステイナブルではない働き方になってしまいがちなのですね。

体力があるうちはまだカバーできるのだけども、それは必ずなくなってくるし、仕事の仕方というのは絶対に変えないといけなくなるタイミングがあると思うのですよ。職責が変わったり、マネジャーになったり、過去の根性、ガッツ、体力が通じなくなるタイミングが必ずあるので。

そういうときに、やはりメンタル不調が起こりやすい。特に40歳前後のときは、ミッドライフクライシス、中年の危機といわれ、特にメンタルリスクが高いというのを事前知識として知っておくというだけで結構違うかもしれません。

 

対人関係の距離感も人それぞれ。リモートが向く人もいれば苦手な人もいる。

鈴木: 他には、例えば対人関係の距離感でも分類しています。

並河: 遠距離型と近距離型みたいな形で書かれていますね。

鈴木: そうですね。親密なコミュニケーションにあまり安心を感じないタイプの方が結構いらっしゃいます。自分が想定していないペースでぐいぐいと侵入してくるコミュニケーションに対して拒否感がある方も、クリエーティブの世界では多いと思います。

そういう方の中には、リモートになってコミュニケーションが減ったら生産性がすごく上がったという方も結構いらっしゃるのですよね。

並河: 逆に楽ということですね。そういう意味では、今リモートになって、遠距離型の人はいいけれど、近距離型の人はすごく不安を感じていたりするのでしょうか。

鈴木: それはあるかもしれません。これまで慣れ親しんできたコミュニケーションスタイルを全部変えなければいけないといったときに、それぞれが育成環境や気質に基づいて元々持っている一番心地良い距離の近さは、人によって全然違います。

いったん同じ場所に集まりましょう、触れ合いましょうという制約があって、それがいったんなくなったときに、フルーツバスケットのように、自分にとって心地いい立ち位置、座る場所をもう一回自分から見つけなければいけないという中で、すごく苦労されている方は多いのではないかと感じます。

個々人によって安心を感じる距離感が全然違うということが表沙汰になりやすい出来事だったかなと思います。

並河: なるほど。ありがとうございます。あっという間に30分たちました。

 

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【後編】自分や周囲のメンタル不調に気づくには。キーワードは「斜めの存在」|並河進さん×医師 鈴木裕介さん はこちら

【前編】メンタル不調で仕事を休んで気づいた、自分と仕事との付き合い方|並河進さん×医師 鈴木裕介さん はこちら

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メンタルヘルスラボとは

メンタル不調や、それに起因する働く上での制約があっても、自分らしさを活かして働けるよう、2021年4月にスタートしたラボです。電通をはじめとする企業の不調経験者やサポーターの方を中心に、みなさんと一緒に考える場をつくります。活動の積み重ねを通じて、会社や社会の風潮を和らげていくことを目指します。
Webサイト

取材・文: 渡邊はるか
Reporting and Statement: harukawatanabe

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