子どもたちの「生きる力」づくりをサポートしたい―ナチュラルボディバランス協会代表の勅使川原さんインタビュー
- プランナー
- 細川萌
たくさんの情報が溢れるなかで、多くの親御さんは子どもにとって本当に良いものはなんだろう?と考えたことがあるのではないでしょうか。しかし忙しい毎日の中で、どうしても日々の生活でいっぱいになってしまうことも多いかと思います。1歳半の息子をもつ筆者の私も、休日に「ここに行けば子どもにとって良い体験や機会が安心して与えられる」と思えるような場所があればいいのにと考えることがあります。
子どもたちとその親が集う【星のあそびば】の運営や、運動・食事・アカデミー・自然あそびという4つのプログラムから成る“なちゅぼ式プログラム”を子どもたちに届ける活動をされている「一般社団法人ナチュラルボディバランス協会(なちゅぼ)」の代表であり、元ショートトラックスピードスケート日本代表の勅使川原 郁恵(てしがわら いくえ)さんに取材し、これからの時代の子どもたちに必要な「人間力」「生きる力」について伺いました。
活動のきっかけは子どもの誕生と幼少期の記憶
現役引退後は、アスリートとして身につけた運動法や食事法を、ウォーキングのイベントや講演などを通して、皆さんの健康のためにお伝えする活動をしていたのですが、出産・子育てをする中で、成長の著しい子どもにこそ質の高い運動や食事が必要なのではと考えるようになりました。
自分の幼い頃を思い返すと、消防士の父とたくさんの運動遊びをしたことや、地元である岐阜の自然の中で力いっぱい体を動かす中で、アスリートとしての基盤となる、体力や精神力といったたくさんの力がついたと思っています。
そんな自身の経験もあり、子ども時代に培った基礎体力や経験が人生の土台になると考え、そのサポートをするために運動・食事・休養に関する22の資格を新たに取得し、協会を設立しました。
「本物」を知ること・「好き」を見つけることで、子どもはより豊かになる
協会で提供するプログラムで重視しているのは「運動」「食事」「アカデミー」「自然」の4つのバランスです。これらを子どもたちが体験できる場として「星のあそびば」を作りました。
また、体験を設計する中で子どもたちが「本物」を知ること・「好き」を見つけることも大切にしています。
【子どもたちが「本物」を知ることで得られた反応】
印象的だったのは、実際に収穫した野菜を食べる活動で、苦手な野菜でも実際に自分で収穫すると食べられるという子どもたちがたくさんいたことです。
この夏の収穫会でも、苦手なピーマンやオクラに生のままかぶりついて、「おいしい」と言って食べる子どもが沢山見られ、その姿に親御さんもびっくりするほどでした。自分で体験すること、「本物」を見ることが子どもたちの感覚をより豊かにしたことを実感しています。
また、例えば知識のある先生と一緒に自然の中を歩くと、面白い発見がたくさん得られます。自然に限らず、「運動」であればオリンピアンが教えてくれる本物の動きを通じて学ぶこと、「食事」であれば収穫や料理を実際に体験することなど、多様な先生とのコミュニケーションを通じて、子どもたちの感性も経験もより豊かになっていくのではないでしょうか。
【好きを見つけること】
私は「好き」が子どもたちの潜在能力を伸ばすと考えていて、子どもたちが目を輝かせる瞬間を大切にしています。
自然の中を先生と一緒に巡る体験会の中で、大きく成長したお子さんが印象的でした。そのお子さんについては親御さんからも内気だと聞いており、初めはなかなか打ち解けてもらえなかったのですが、自然の中でいろんな植物と触れ合い、先生とコミュニケーションするにつれ、どんどん表情が明るくなり、最後には自ら「これを見つけたよ!」「この葉っぱ見て!」と沢山お話ししてくれるようになりました。その子は、自然のなかでたくさんの「好き」を見つけることで、大きく成長できたのではないかと考えています。
子どもたちの「好き」を見つけるためには、たくさんの体験をさせてあげる必要があります。子どもたちが様々な体験をし、たくさんの「好き」に出会えるよう、協会では「体験の場」を多く用意しています。
勅使川原さんが考える「真の人間力」「生きる力」とは?
生きる上で必要な総合的な能力だと思っています。知識だけじゃない、コミュニケーション能力や、体力・想像力・健康な体など含めて、たくさんの豊かな体験から得られるのが「真の人間力」であり「生きる力」だと考えているので、一方的に知識を押し付けるだけでなく、場や体験を提供することで子どもたちの成長を応援したいです。
特に、子どもたちがこれからの変化の激しい時代を生きていく上で、道を切り開いていける力をつけてあげられるよう、様々な体験ができる場づくりを行っています。そこでは、お友達だけでなく、先生やスタッフ、お友達の親御さんなどたくさんのコミュニケーションが必要です。また、よく観察する力・物事を見極める力、そこから新しく想像する力などさまざまな能力を伸ばせるよう、体験の中でのサポートを行いますが、子どもたちが自由に発想できるよう、大人から押し付けることはせず、結果は二の次にして、好きなように体を動かし、体験して、自らで感じ取ることを大切にしています。
【記事をご覧になる子育て中の方が今日からできること】
「いつもと少し違う場所にお出かけする」と良いのかなと思います。
忙しい毎日でも、日々に小さな変化をつけてあげる、新しい体験をする機会を試してみていただきたいですね。いつもと違う道で帰ってみたり、普段は行かない公園に行ってみたり、小さなことでもいいので新しい発見ができるような、子どもにとって経験になるようなことを実践してみていただければ、親御さんにとっても何か発見につながるのではと思います。あとはできるだけ子どもの気持ちに寄り添うと良いのではないかと感じています。
将来は、子どもたちが本物に出会える「学校」を作りたい
ゆくゆくは子どもたちが楽しみながらいろんな体験ができ、集まる場所を作り、子どもたちからは「てっしーおばあちゃん」と呼ばれたいと思っています(笑)
現在考えているのは、協会のなちゅぼ式プログラム「星のあそびば」を進化させて「星の学校」を作ることです。その場所に行けば、「運動」「食事」「アカデミー」「自然」のそれぞれに関するプロがいて、子どもたちが本物に出会うことができ、体験できるような場所を考えています。それはきっと親御さんにとっても理想的な場所になるのではないかなと、思います。
また、障害のあるお子さんの参加は今までなかったのですが、今後は専門知識のある方も交えて、全ての子どもが「好き」を見つける場所にしていきたいです。
これからも、より多くの子どもたちがたくさんの豊かな体験を通して、「本物」を知り、「好き」を見つけ、生きる力を身に着けることができるような場所を作っていきたいと思っています。そして、親御さんたちにとっても安心して子育てできる場所にしていきたいです。
取材・文: 細川萌
Reporting and Statement: Moe Hosokawa
注目のキーワード
関連ワード
-
ネグレクトneglect
無視すること。ないがしろにすること。子どもに対する養育を親が放棄すること。例えば、食事を与えない・衛生環境を整えない・病気やけがの治療を受けさせない・泣いている乳児を無視するなどの行為。身体的虐待や性的…詳しく知る
-
こども食堂Kodomo Shokudou
地域住民や自治体が主体となり、無料または低価格帯で子どもたちに食事を提供する場。「子どもたちへの食事提供の場」としてだけではなく、高齢者や共働きの家族などが集まって食事をとることも可能で、地域のコミュニ…詳しく知る
-
まち保育machihoiku
乳幼児期の子どもが地域に見守られながら育っていくための挑戦として生み出された新しい概念。都市計画学の分野から、「子ども」と「まち」との関係に着目した調査研究をもとに、とく乳幼児期の子どもたちが集まる「保…詳しく知る