ユダヤ教のハヌカーはただのお祭りではない?
- コミュニケーションプランナー
- 清水鈴
みなさんは、ハヌカーをご存知でしょうか?ハヌカーとはヘブライ語で「奉献」という意味で、12月に行われるユダヤ教のお祭りです。
今回は日本に長年在住されているユダヤ系アメリカ人のSamantha Landau(サマンサ・ランダオ)さんにハヌカーについてお話をお伺いしました。
(今回のインタビュイーのSamantha Landauさん)
ハヌカーはただの愉快なお祭りじゃない?
ユダヤの有名なお祭りといえば「ハヌカー」だと北米で育った著者は子供の頃から学校で教えられてきました。
ハヌキヤ(9本の枝からなる燭台)に火を灯し、美味しい食べ物を食べて、コマ遊びをする、日本のお正月的なもの、キリスト教でいうクリスマスみたいなものだとイメージをしていました。何よりハヌカーは「光のお祭り」とも呼ばれているので、灯された光をお祝いするものだと思っていたのですが、ハヌカーはずばり、「レジスタンス(抵抗)のお祭り」だとサマンサさんがお話をされた時は、衝撃を覚えました。この意味を理解するにはハヌカーの歴史を少し一緒に紐解いてみましょう。
(9本の光が灯されたハヌキヤ)
紀元前2世紀、エルサレム神殿はセレウコス(シリア・ギリシャ人)に支配されていました。セレウコスはイスラエルの人々に、ギリシャの文化や信仰を受け入れさせようとしました。しかし、マカビー率いるユダヤ人たちは反乱軍を結成し、ギリシャ人を追い出し、エルサレムの聖なる神殿を取り戻し、汚されたとされる神殿を浄め、奉献をしました。
彼らが神殿のメノラー(7本の枝からなる燭台)に火を灯そうとしたとき、ギリシャ人による汚れを免れたオリーブオイルが1本だけありました。奇跡的にもメノラーに火を灯すことができ、その油は、新しい油が準備できるまで、8日間持ちこたえたところから、今でも「8日間祝うお祭り」として受け継がれているということです。
また、たった一人の女性ユディトが、将軍ホロフェルネスを殺して、ギリシャ軍を解体することができた話でもあります。”ハヌカーの奇跡は女性にもある “と言われるぐらい、伝統的にハヌカーのロウソクを灯すのは女性です。ユディトの活躍がなければ、マカビースの勝利はなかったからとサマンサさんは話します。
私はこの話を聞いてギリシャ人から聖域を取り返したという意味での「レジスタンス」という言葉にしっくりきました。ただ、このレジスタンスがユダヤ人にとってなぜ大事なのかの理由をサマンサさんは次のように話します。
ハヌカーの更なる「レジスタンス」の意味
世界中のユダヤ人が受けてきた歴史を知っている人はもちろん分かっていますが、今までユダヤ人は数え切れないほどの占領、強制的な同化、構造的な暴力の下で生存を経て、戦ってきました。
ユダヤ人は、この勝利を、希望の光として、また、最も暗い時代の中で得られる強さを思い起こさせるものとして、ハヌカーをお祝いしている部分があります。なので、歴史的にハヌカーがお祝いされるようになってから、どんな危険な時も、時には他の勢力から隠れながらも火を灯して祖先がいかに勇敢であったかを思い出していたとサマンサさんは話します。だからこそ彼女や他のユダヤの人はハヌカーをレジスタンスのお祭り、時には宮清めの祭り、奉献の祭りとも呼ぶということです。
実はユダヤ人にとってはハヌカーが一番有名なお祭りじゃない?
ハヌカーのお祝いの仕方を教えてもらいました。基本的に8日間続くお祭りですが、毎日家族と集まってお祝いするというわけではないということで、私は更なる衝撃事実をサマンサさんから教えてもらいました(というか勝手に著者が毎日集まって大宴会をしているのではないかと想像していただけですが。)
実はユダヤ教にはもっと規模が大きいユダヤのお祭りがあり、新年の祭り「ローシュ・ハッシャーナー」、贖罪の日「ヨム・キプール」、くじの祭り「プーリーム」、過越祭り「ぺサハ」、夏の七週の祭り「シャブオット」、秋の仮庵の祭り「スコット」があります。
ハヌカーがここまで国際的に広まったのは、宗教やお祝いする内容が全く異なっても、クリスマスと同じ時期だからなのではないかという説もあります。ハヌカーはユダヤ暦を使用しているので、現在日本人も採用しているグレゴリオ暦上では毎年違う8日間にハヌカーが行われることになっています。今年2021年のハヌカーは11月28日から12月6日まで行われました。
日本でのハヌカーの過ごし方
ユダヤ教のお祭りのなかではマイナーなハヌカーですが、先ほどのレジスタンスの理由も含めてとても大事なお祭りなので、サマンサさんのように日本にいるユダヤ人の多くはハヌカーを自宅で祝っているようです。
どの国からきたユダヤ人かによって少しずつ風習は変わるようですが、子供たちはドレイドルというコマで遊び、ゲルトというコイン型のチョコレートをチップの代わりに遊んで、最近の風習ではプレゼントをもらうことも増えてきたそうです。
(ハヌカーにの時に子供たちが遊ぶゲーム)
またメノラーの油の奇跡の話から、揚げ物をよく食べます。粉砂糖をまぶした、ジャム入りのジェリードーナツ「スフガニーヤー」やポテトパンケーキ「ラトカ」など、著者も小学生の時にユダヤ教の先生が作ってくれたのを思い出します。どれもとっても美味しかったです。
(ラトカを油で揚げている写真)
もしこれらの美味しいトラディショナルなユダヤの料理を食べたい場合はサマンサさんがお勧めしてくれた「WISE SONS TOKYO」(東京・丸の内)へぜひ行ってみてください。オーナーもユダヤ系アメリカ人ということで、タイミングによってはユダヤの伝統のお祝いの料理も食べられるようですよ。
来年のハヌカーの期間にはぜひ、「חג אורים שמח」と(楽しいハヌカー祭を!)とお祝いしてみてください。