展示会を通して考える、DEI領域でのオノマトペの活用の可能性
- ソリューションプランナー
- 菅巳友
■ SNSで話題 オノマトペ処方展 ~そもそもオノマトペって?~
4月1日(月)~7月15日(月・祝)の約3か月半にわたって、ITOCHU SDGs STUDIOでオノマトペを五感で体験できる展示「オノマトペ処方展」が開催されており、開始から 1ヶ月半余りで来場者数は 1万人を超え、大盛況です。オノマトペとは、「ニャーニャー」「ドンドン」といった物理的な音を表す擬音語と、「キラキラ」「ワクワク」といった、実際には音を伴わない状態や心情を表現する擬態語を総称した言葉のことを指し、日本ではおよそ4500以上ものオノマトペが存在していることから、世界的にも有数のオノマトペ大国だと言われています。今回の展示会では、「薬局」をモチーフに、オノマトペを使って社会のあらゆる課題を解決できるような体験設計となっています。
「チームで企画のブレストをしている時に、『オノマトペって心に効くよね。』みたいなワードが出て、言葉を処方する薬局みたいなものがあったら面白いなと思い、薬局をモチーフにデザインを展開していきました。薬瓶の中にオノマトペを詰めてみたり、スタンプの用紙が処方箋になっていたり、説明ボードも『悩み』と『処方』として見せています。また、見せるだけでなく、体験して面白いデザインに落とすことを意識しています。大人も子どもも楽しみ、学べるデザインをみんなで考えていきました。」
(アートディレクター 電通 松下仁美さん・佐野茜さん、アドブレーン 浅賀日菜子さん)
・薬局をモチーフにした展示デザイン
薬局というモチーフを展開するうえで、オノマトペがそれぞれ薬瓶の中に入っているというデザインに。
・説明ボード
各コーナーの説明ボードには、「お悩み」「処方」といった薬局を連想させるようなワードを使う。
・体験型の展示
オノマトペが描かれたスタンプを使って自身の感情や感覚を表現できる体験型コーナー。
「薬局というモチーフに合わせて、社会課題にオノマトペを『処方』していくイメージから、『オノマトペ処方展』と名付けました。AIでも言葉をつくりだせる時代ですが、身体を持たないAIには、オノマトペは生みだせないそうです。心にも体にも効く「生きている実感を生むことば」としてのオノマトペの価値が伝わるようにコピーやコンテンツを制作しました。大人も子どもも楽しめるように、わかりやすく、やさしい言い回しを意識しています。」
(コピーライター・プランナー 電通 岩田泰河さん、並木万依さん)
・展示コンセプトコピー
本記事では、こうした展示会の企画背景や実際の展示内容に触れながら、オノマトペのDEI領域における活用の可能性について考えていきます。
■企画の背景 ~オノマトペの社会的実用性~
昨今、SDGs文脈でオノマトペを用いた実用事例が増加してきていることをご存知でしょうか?というのも、オノマトペには音が持つイメージと物のイメージを結びつけやすいという特性があり、これは多くの人が言葉の意味を理解するうえで、大きな役割を果たしています。このようなオノマトペの特性は障害領域とも相性が良い点があり、聴覚障害のある人々に対するさまざまなソリューションが現在開発、実装されています。こうした背景から分かる通り、オノマトペは単なる言語領域にとどまらず、社会のさまざまな課題を解決する手段の一つとしての活用が期待されています。「オノマトペ処方展」では、こうした社会的実用性の側面に光を当てることで、オノマトペに対する理解を深め、新たな活用の可能性を引き出すきっかけを提供しています。
「全体監修にも参加された今井むつみ先生と秋田喜美先生の著書『言語の本質-言葉はどう生まれ、進化したか-』を偶然手に取り、オノマトペの可能性を感じたのがスタートでした。そこから、リサーチを進めるうちに、社会課題とオノマトペの組み合わせは面白いかもしれないと思い、本展示のコンセプトに至りました。」
(プランナー 電通 佐藤 佳文)
■展示概要
展示会では、日常のさまざまな場面におけるオノマトペの活用方法について、親子、友人同士といった、幅広い層にとって楽しく学べるような展示内容となっています。ここでは、その展示の一部について紹介します。
・カラダマトペ
「カラダマトペ」では、身体のさまざまな部位における違和感について、オノマトペを使うことでどのように相手に分かりやすく伝えることができるか、楽しく学べます。
・新薬マトペ
「新薬マトペ」では、友人同士のコミュニケーションやビジネスの場におけるオノマトペの活用の可能性について、紹介しています。
■子どもとオノマトペの親和性
オノマトペには、音が持つイメージと物のイメージを結びつけやすいという特性がありますが、この特性は、子どもの言語習得において非常に重要な役割を担っているといわれています。言葉の発達過程である子どもにとって、抽象的な言葉は理解しづらいものですが、モノの様子や行動の様子を具体的に音や感覚で表すオノマトペは、非常に馴染みやすい言語であり、身の回りのモノの名称や抽象的な概念を理解しやすくする役割を果たしているのです。
・パパママトペ
展示会では、大人の話している意図を子どもに分かりやすく伝えるための、オノマトペを使った表現をパネル形式で提案しています。特に、発達に特性のある子どもたちの中には言葉の理解が苦手な子もおり、オノマトペを使ったコミュニケーションでより意思疎通がしやすくなるとも言われています。加えて、オノマトペはその性質上、非常に微妙なニュアンスを含めて表現することもできるため、そのニュアンスの違いから意味を推測することで、子どもの思考能力をさらに高めることが期待されています。このように、オノマトペは親子のコミュニケーションや教育分野においてもさまざまな活用方法があると考えられています。
■障害領域に広がるオノマトペの可能性
オノマトペは、昨今、障害のある人々の暮らしに役立つソリューションの一つとしても注目されつつあります。展示会では、こうした障害領域におけるオノマトペの活用事例が分かりやすく紹介されていました。
社会でのオノマトペの活用事例について紹介している「事例マトペ」コーナー。
・エキマトペ
駅のアナウンスや電車音といった環境音を、AI分析でリアルタイムに文字や手話、オノマトペとして視覚的に表現する装置です。誰もが使いやすく、毎日の鉄道利用が楽しくなるような体験を目指して現在も実証実験を繰り返しています。
・ミルオト
競技音をリアルタイムでオノマトペに変換し、モニターに表示するシステムで、生観戦やLIVE配信において試合中のあらゆる音を視覚情報に置き変えることで、聴覚障害のある方や年を重ねて耳が遠くなってしまった方にも、試合中の感覚を共有できます。2025年東京デフリンピックに向けての取り組みとしても期待されています。
※提供:株式会社アイシン・早稲田大学岩田浩康研究室・株式会社方角
■展示会を通して考えるオノマトペの社会的意義
今回の展示会は、SNSを通じて多くの若年層が来客しており、次世代を担う若者達にも、DEI領域におけるオノマトペの活用の可能性を感じ、考えるきっかけ作りの場になっているようです。改めて展示会を振り返ってみると、オノマトペの持つ性質についてさまざまな発見があり、特に音が持つイメージと物のイメージを結びつけやすいという性質は、DEI領域における新たなソリューションとして、その活用の可能性が注目されています。
オノマトペのこうした特性を正しく理解し、さまざまな場面でその特性を活用していくことで、子どもからお年寄りまで多くの人のコミュニケーションや暮らしの不便を解消し、日常をもっと豊かにしていくことができそうですね。
「オノマトペ処方展」についてはこちら
https://www.itochu.co.jp/ja/corporatebranding/sdgs/20240401.html
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