挑戦する人に、夢への「橋渡し」をしたい〜パラ陸上競技・石田 駆選手〜
- 共同執筆
- ココカラー編集部
パラアスリートや、パラスポーツを支える人たちに取材し、彼らと一緒に社会を変えるヒントを探るシリーズ「パラスポーツが拓く未来~パラスポーツ連続インタビュー~」。第8回目は、パラ陸上競技界のスプリンター・石田 駆(いしだ・かける)選手に聞きました。
パラ陸上競技 石田 駆選手
岐阜県各務原市出身/中学1年から陸上競技を始め、400mで才能を発揮。高校3年時にインターハイに出場。愛知学院大学に入学した2018年、左上腕に骨肉腫を発症し、筋肉切除、人工関節を入れる手術を受ける。その後、パラ陸上競技に出会い、2019年に日本パラ陸上競技選手権400mでいきなり優勝。初の国際大会となった同年の世界パラ陸上競技選手権では400mで5位入賞。東京2020パラリンピックでは100m(T47)で5位入賞。
■パラ陸上競技、パラリンピックとの出会い
ある日、突然大きな病に見舞われる
しかし「陸上をあきらめる」選択肢はなかった
中学、高校と全国大会に出て、大学でも「全国の舞台でしっかり活躍する」という夢と目標を持っていました。大学に入って病気をした時も、「全日本インカレに出場するという目標を絶対にあきらめたくない。闘病生活、リハビリ生活を乗り越えて、絶対に復帰して頑張る」と。とにかく、陸上をあきらめるという選択肢はなかったですね。ただ、その時は、自分がパラスポーツをやるとは思っていませんでした。
パラスポーツを始めるきっかけは、最初に父親から「パラスポーツを一回見てみないか」と言われたことです。パラ陸上の大会を一回観戦しに行って、そのあともYouTubeの動画でいろいろなパラスポーツの映像を見て、「自分がこの世界で競技者になった時、どうなっているか」とか、いろいろ思い描いたりしていました。そして、パラスポーツをされている先輩の方々、パラリンピアンの方々、陸上競技関係者の方々などの後押しがあって、「パラ陸上に参戦」することを決めました。
初めてのパラ陸上で感じた、尊敬と感激
そして新たな目標が生まれた
2019年6月、初めて日本パラ陸上競技選手権に出て最初に思ったのは、障がいは人それぞれということでした。上肢障害の方もいれば、義足を履いている選手もたくさんいらっしゃいます。その方々がハンディと向き合って、戦っている。そしてパラリンピックを目指している。そうした姿を見て尊敬しましたし、そのような方々を見習って活躍する選手になりたいと、すごく思いました。
その後、パラスポーツと健常者の大会は両立できることを知り、パラリンピックと全日本インカレという2つの目標を頑張っていこうと決意しました。
■東京2020大会とパラスポーツの魅力
東京2020大会は、自分にとって
大きな苦痛の壁を乗り越えた努力の成果
パラリンピックという国際大会の日本代表になる。自分がそういう大きな舞台に出るということは、3年前だったら、まったく考えられないことでした。実際、パラ陸上の日本代表になっていろいろなことに変化があり、最初はついていけないところから始まりましたが、少しずつ日本代表としての自覚と責任感を持てるようになっていったと思います。
そして、東京2020パラリンピックという一番大きな舞台に立てたことは、「自分が大きな苦痛の壁を乗り越えた努力の成果」だと実感できました。このことは、今後の競技人生においても、普段の生活の人生においても、すごく自分のためになる貴重な経験になりました。
今回は無観客での開催でしたが、国立競技場という会場の迫力はすごくて、本当にお客さんがいるような雰囲気でモチベーションも高まりました。400mは予選敗退になってしまいましたが、5位入賞した100mは、しっかりと自信をもって最高のパフォーマンスを出すことができたと思っています。
パラアスリートのパフォーマンスは、
選手自身が乗り越えてきたものを表現している
多くのパラスポーツでは、器具を使ったりアシスタントと一緒に競技をします。選手それぞれ障がいが異なり、その障がいと向き合って、どうすれば速く走れるか、どうすれば体に負担がかからないかなど、さまざまなことを選手の方々は、研究しています。
そういったところまでを、見ている方々に選手の立場から伝えていく。どのようなことがきっかけで障がいを持ったのか、それをどのように乗り越えてきたのか、ということを伝えられるスポーツとして、オリンピックとは違った「パラスポーツならではの見る楽しさ」が非常に強いと思います。
東京2020大会後、
パラスポーツの見られ方が変わったと実感
やはり、東京で開催されたことが大きいと思いますが、東京2020大会後、障がいのある方でもスポーツができるというイメージが強くなってきたと感じます。そして、いろいろな困難を乗り越えて頑張ってきた方や、ハンディを補いながら走る方、そういったさまざまな努力をしてきた選手の気持ちを、多くの方に知っていただけるようになってきた、と感じています。パラスポーツの認知度も、これから先、上がってくるだろうなと思います。
やはり一番大切なのは、陸上をしている選手にも、陸上を見ている人にも、「パラ陸上も、すごく面白いスポーツだ」と関心を持ってもらうことです。そして、健常者だけでなく、障がい者の世界でも、スポーツというのは「すごく盛り上がっているんだ」ということに、気づいてもらいたいですね。
■大学でのサポートについて
大学では、自分の将来のことを考えて
いろいろな面でサポートしていただいている
愛知学院大学の陸上部に、パラアスリートは僕一人です。パラ陸上の試合は年間に日本国内では3〜4回しか行われません。全国大会を含めた遠征する試合が多くあり、大学の授業や競技活動との両立が物理的に難しい局面もあります。しかしそういったときに、先生や学生課の職員の方からもアドバイスをいただくなど、自分の将来のことまで考えてサポートしてくれています。
僕が所属する陸上部は、学生が主体で活動します。トレーニングは、基本的には他の部員と同じメニューでやっています。OBの方に、監督やコーチとしてサポートに回っていただいており、来ていただいた時にはメニューを出してもらったり、走りを見てもらったりしています。何か専門的なトレーニングや補強が必要な時は、専門のトレーナーの方に相談しています。
自分の力だけでなく、いろいろな人のサポートがありながら強くなっていくのは、健常者のスポーツもそうかも知れませんが、パラスポーツならではの部分もたくさんあります。多くのサポートによって選手として強くなる。強くなって、成長を楽しんでいける環境があるというのはうれしいですね。
■これからやりたいこと、目指したいこと
自分の経験・立場を活かして
社会貢献活動をずっと続けていきたい
大学を卒業して就職してからも、社会に貢献する活動に関わっていきたいと思います。社会には同じ障がいのある方や同じ骨肉腫を患った方とか、たくさんいらっしゃると思います。その中でスポーツをやられてなくても、「何か挑戦したい」と思う人は多いと思います。そういった方々に、パラスポーツなどを通じて、夢を持っていただけるような活動ができたらと思っています。
そのため、就職にあたっては、こうした活動を理解し協力していただける企業にこだわりました。
もちろん、障がいのある方に対してだけでなく、講演会などで、いろいろな方に自分自身の経験やパラスポーツはこういうものだという話をしていきたい。教育機関であれば、小学校、中学校など学校教育の場。小さいうちからそういった知識を持っていただくことで、いろいろなことに役立っていくと思うので、そうした活動にも力を入れていきたいと思います。
僕がパラスポーツにおいて特に尊敬するのは、パラ陸上の山本篤選手。山本選手の場合は、義足の体験会などを、自らの主催で頻繁に開催されています。それを見て、自分だったらこれから何ができるのか、山本選手からアドバイスをいただいたりして学習を積み重ねながら、活動していきたいと思っています。
感謝の気持ちを忘れずに、
多くの人に「スポーツによる橋渡し」をしたい
僕の場合、もともと小さい頃から陸上をやっていたことが、新しい挑戦をするきっかけを作ってくれました。そうした経験を踏まえて、大切なのは自分のためだけではなく、他人に対して何をしてあげられるかということだと思います。まわりの方々への感謝の気持ちを忘れてはならないと気づくことの大切さを、今後競技をやめた後も伝えていきたいと思っています。
病気をする前の自分は、スポーツと言えば、オリンピックしか見ていませんでした。それが、パラスポーツと出会ってすごく変わりました。そして、陸上だけでなく他のスポーツを見る目も持つことができ、もともと関心を持っていたオリンピックに加えて「パラリンピック」という、いろいろなものに関心を持つことができて、とてもよかったです。パラスポーツと健常者のスポーツの両方にチャレンジしている自分ならではの経験や気づきを活かして、スポーツを通じてさまざまな「橋渡し」ができたらいいなと思っています。
――――――
アスリートとしてはもちろん一人の青年として、しっかりとしたビジョンをお持ちで、障がいすらも、自らの未来を拡張するプラスの因子に変えてしまっている石田選手の姿に、パラスポーツの持つ懐深い可能性を感じました。
《参考情報》
・石田駆選手 公式情報
Instagram:https://www.instagram.com/kakeru0406ishida/
HP:http://www.kakeru-ishida.com/
取材・執筆:桑原寿、吉永惠一、斉藤浩一
編集:濱崎伸洋
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