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May.

2022

interview
21 Jan. 2022

「楽しく生きる」パワーで、社会を変える~パラ・パワーリフティング 山本恵理選手〜

パラアスリートや、パラスポーツを支える人たちに取材し、彼らと一緒に社会を変えるヒントを探るシリーズ「パラスポーツが拓く未来~パラスポーツ連続インタビュー~」。第12回目は、パラ・パワーリフティング界注目の山本恵理選手に聞きました。

パラ・パワーリフティング 山本恵理選手

兵庫県出身/先天性の二分脊椎により、成長に伴い車いす生活になる。9歳で水泳を始め、パラ水泳の道へ。高校2年の時、ケガで長期入院となり競技の道を断念。同志社大学に入学、さらに大阪体育大学大学院に進学し、スポーツ科学を専攻。2008年北京パラリンピックでは日本チームのメンタルトレーナーとして同行。英語力の必要性を感じて、カナダのアルバータ大学大学院に留学し、障がい者スポーツを軸にしたスポーツ心理学を研究。その経験により2012年ロンドン大会では、パラ水泳の日本代表チームの通訳に。2015年カナダから帰国し、日本財団パラスポーツサポートセンター*(以下、パラサポ)に就職。2016年パラ・パワーリフティングと出会い、パラアスリートとしても活躍中。
*「日本財団パラリンピックサポートセンター」より「日本財団パラスポーツサポートセンター」へ2022年1月改称

 


■パラスポーツとの出会いから、カナダ留学まで


9歳でパラ水泳に出会う
やっと自分が好きなもの、打ち込めるものが見つかった

 

パラスポーツとの出会いは、9歳の時、母の勧めで水泳を始めたのがきっかけです。自分にとっては体育にも参加できず、運動することの意味さえわからない中での挑戦でした。特に水泳は一番苦手。でも、急に泳げるようになった時、いままでにない「自由」を得たような劇的な変化があったんです。「やっと自分が好きなもの、打ち込めるものが見つかった」と。

 

そして、パラ水泳のチーム(神戸楽泳会)に所属。周りはみんな大人で、しかもパラリンピアンでパラリンピックを目指すのが普通になっていました。自分の中では、パラリンピックはキラキラしたところだったので、とにかくそこに向かって夢中で頑張りました。周りには、これからの自分のお手本になる人たちがたくさんいて、「人生に希望が持てたこと」が一番うれしかったですね。

 

 

高校の時に長期入院生活となり、パラ水泳を断念
スポーツ心理学を研究するため、カナダの大学院に進む

 

私にとって、カナダでの留学生活はとても大切な経験でしたそして、「自分らしく生きること」がいかに大切かを教えてもらいました。いままで幼小中高大と健常者の中で育ってきて、とにかく「健常者に追いつかないと」と頑張ってきました。でもカナダに行って、この考え方は違うのではないかと初めて気づかされました。

 

カナダは移民の国です。肌の色も、英語の発音・アクセントも違う。いろいろな人が、それぞれの人種やルーツに「誇り」を持っています。そして、自分はこれが強い、これができる、これを選びたいと、「自分」を大切にします。自分がマイナスだと思っていたことは、全然マイナスではなかった。ここに気づいたことが、カナダ生活での大きな収穫でした。カナダでは、すべてが違うことから始まっています。だから「お互い認め合うことから始めよう」という姿勢を学ぶことができました。


■私にとっての東京2020パラリンピック

 

東京2020大会開催が決まると同時に、パラサポの職員へ
パラ・パワーリフティングと出会い、東京2020大会を目指した

©日本財団パラスポーツサポートセンター


私は、これまでいろいろな人に助けられてきました。その分、とにかく人の役に立ちたい。パラリンピックやパラスポーツを仕事にしたい。その思いでパラサポの職員になりました。そして、パラ・パワーリフティングと出会い、仕事とパワーリフターの両立を図りながら東京2020大会を目指しました。でも、出場は果たすことができず、その時はすごく落ち込みました。

 

そして、東京2020大会は職員として関わったわけですが、選手にとってはいろいろな制限があって大変だったと思います。それでも全世界が困難な状況にあり、制限のあるパラリンピックの中で「どのように輝くか」を見せてくれた選手が本当に多かったと思います。いままでは、メディアが選手や競技内容を一生懸命に説明しないと興味を持ってもらえなかった。今回は、日本国内のテレビ放送もたくさんあったことで「なんだか面白そう」と見る側が自分から注目して、応援してもらえるような大会だったと思います。

 


■「共生社会」に向けての思いとチャレンジ

 

東京2020大会に向けて「ハード面」は整ってきた
これからは「ソフト」の部分を発展させることが大切

 

東京2020大会を通じて、一番の大きな変化は、街で障がいのある人を見かけることが多くなったことです。私がカナダから帰国した2015年頃は、車いすユーザーなどを街でたくさん見かけるカナダと違い、障がいのある人をほとんど見かけない日本に驚きました。いまは、障がいがあっても外に出やすい社会になってきたという実感があります。もしくは、障がいのある人たち自身に、「外に出よう」という心境の変化があるのかも知れません。

 

私は「障がいとは選択肢がない状態のこと」と考えています。たとえば車いすを使っていることで、「他の人が持っている選択肢が私にはない」と感じたら、それが「障がい」なのです。カナダには、本当に自分がやりたいと思ったら選択肢がたくさんありました。選択肢とは、たとえば「エレベーターをつけてアクセスを容易にする」というハード面だけではありません。人がつくる選択肢も大いにあり得ます。たとえばカナダでは、人がお互いの違いを認め、理解してくれるので、障がいを理由に「できない」と断られることは少なく、さまざまな選択肢をつくってもらえました。こうした、選択肢が誰にでも与えられる社会が、これからの日本が目指す真の共生社会と言えるのではないでしょうか。

 

日本ではハード面は整ってきていますが、これからの日本において大切なことは、やはりお互いの違いを認め合うことだと思います。そして、「障がいのある人を見かけた時の接し方」や「会社で障がいのある人とどのように一緒に働くか」など、ソフト面を発展させていくことが課題だと思っています。

©日本財団パラスポーツサポートセンター

 

 

共生社会に向けての取り組み「あすチャレ!」プログラムで活躍中

 

「あすチャレ!」に取り組んで良かったのは、「共生社会」をテーマにした教育が、日本において受け入れられる素地ができてきたことです最近の傾向として、学校や企業からの新規申込みが増える一方で、リピーターの申込みも増えてきたことがうれしい変化です。特にパラリンピックの後は学校の申込みが増え、私たちの話を聴きたいという先生たちと子どもたちがいる、ということに手応えを感じています。

(※パラサポが提供する「あすチャレ!」プログラムとは、パラスポーツを通じて新しい価値観を生み出すユニークな教育・研修プログラム。パラアスリートらが講師になって、学校や企業向けにオンライン研修や集合研修、セミナーなどを展開。プロジェクトリーダーの山本さんは、講師としても活躍)

 

もうひとつ良かったのは、思いを同じくする仲間が増えたことです。小中高校生を対象としたジュニアアカデミーには10人の講師がいますが、子どもたちの将来を考えて、「困難をどう乗り越えていくか」を自分自身の経験から伝えていく講師がたくさん育ってきたと思っています。講師として何よりも大事なことは、伝え方です。障がいの問題を「深刻に伝えない」ことを心がけて、「選択肢があるよ」「可能性がたくさんあるよ」ということを面白く、楽しく伝えていくようにしたい。子どもたちに「障がい」というトピックだけではなく、子どもたちのこれからの人生に役立つヒントを伝えたい。こうしたことを実践できる仲間が増えてきて、事業としての伸びしろをすごく感じています。

©日本財団パラスポーツサポートセンター

 

 

「家族の中の多様性」に気づく
社会を変えるには、まず家族。そこから地域へ

ファミリーアカデミーの参加者たち©日本財団パラスポーツサポートセンター


もうひとつの新たなプログラムとして、2021年からは家族を対象にした「あすチャレ!ファミリーアカデミー」をスタートしました。そのきっかけは、いまずっと家にいるようになって「家族の中の多様性」に目を向けてこなかった、と気づいたことです。家族は一緒に住んでいるからみんな同じだと思いがちですが、実は一人ひとり違う。そこで、家族でお互いの「違い」や「ふつう」について考え、まずは家族の中の多様性を認め合う。共生社会に向かうために、そうした家族の意識を変えることから始めて、地域を変えることにつなげていきたいと思っています。

こうしたさまざまなプログラムを展開する「あすチャレ!」の活動を通じて思うのは、みなさん、障がい者との「接し方」ですごく悩んでいることです。大切なのは「ふつう」の状況をつくること。学校なら授業を一緒に受けること。会社なら一緒に働くこと。まずは「一緒にやろう」とみんなで声かけをする。本当にステップバイステップです。自分のスタンスとして「教えてあげる」ではなく、「みんなの仲間に入れて」と友だちとしての関係づくりを大切にしています。

 


■これからの自分の人生について

 

私自身の選択肢を増やすことをしたい
その思いは、社会を変える力となる

 

私は、自分一人では生きていくことはできないと思っています。だから、自分が頼れる先を増やすことが必要です。そのためには、私が誰かに貢献すること。それができてやっと支えてもらえる関係が成り立つと思うので、自分の頭と体が動くうちに、「人に役立つこと」をたくさんする。それは、自分のやりたいこと、楽しいことであり、それによって社会を変えていきたいと思います。

©日本財団パラスポーツサポートセンター

 

いま構想していることは、「QOL(クォリティオブライフ)」への貢献です。日本は、今後ますます長寿国になります。ただ、高齢になると体のどこかに支障が出て、「これはできない」と自分で選択肢を狭める方が増えてきます。こうした人たちの「メンタリティやマインドセット」を変えていきたい。これは母の影響もあって、「かわいそうと手を出すと、本人がやれることや選択肢を狭めてしまうことになり、生きることを辛くさせる」と教わってきました。母の思いと私の経験や知識を活かして、この構想を実現していきたいと思っています。

 

そして最後になりますが、パワーリフターとしての目標は、もちろん「次のパラリンピックに必ず出る」ことです。自分を立て直して、夢をあきらめないでトレーニングを積んでいきたいと思います。

――――――
インタビューを通じて、物事をポジティブに捉えて、ご自身の未来、そして子どもたちや地域社会の未来を着実に変えていく山本選手のパワーに感動しました。プレイヤーとして、サポートスタッフとして、イノベーターとして、多様な職能を持つ山本選手の今後の活躍に魅せられていくこと間違いなしです。

 

 

《参考情報》

・山本恵理選手 公式情報

山本恵理(パラサポ公式サイト): https://www.parasapo.tokyo/messenger/messenger/yamamoto/

Instagram:https://www.instagram.com/mac_power_mac/
Facebook:https://www.facebook.com/poweryamamotoeri/

 

・大会情報

『第22回全日本パラ・パワーリフティング選手権大会』

開催日時:2022年1月29日(土)10時試合開始予定

 ※無観客開催/LINE配信あり

詳細:https://jppf.jp/news/detail/id/675

 


取材・執筆:桑原寿、吉永惠一、斉藤浩一 
編集:池田真梨子 

取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor

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