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21 Jan. 2019

「世界の障害のある子どもたちの写真展プロジェクト(前篇)」

美しい人々のなんて感動的で詩的な写真たちでしょう。

2018年5月、ロンドン・サウスバンクの Gallery@OXO において、ダウン症をテーマにした写真展「Positive Energies」を英国人写真家2名とコラボレーションして開催しました。
名畑文巨は「世界の障害のある子どもたち写真展プロジェクト」として、世界の国々を巡り撮影した前向きなエネルギーに溢れた子どもたちの作品を展示。コラボ写真家のリチャード・ベイリー氏は2005年から13年まで、英国ダウン症協会主催で世界的に展開したダウン症の企画写真展「Shifting Perspective」を開催しており、 その出展作品からダウン症のある人が成人して様々な職業に就き、自立している姿の作品「Work Fit」を展示。 同じく、「Shifting Perspective」メンバーのフィオナ・イーロン・フィールド氏は、ダウン症とわかった上で産むと決めた妊婦のポートレート「Safe Haven」を展示。妊娠・子ども・成人の展示構成で、ダウン症のある人の人生を表現しました。

写真展は6日間で約800人の入場がありました。ダウン症のある人々の人生を表現した展示構成により多くの反響があり、来場者から「美しい人々のなんて感動的で詩的な写真たちでしょう」「写真たちは幸せに満ちています。だからこそ展覧会をポジティブエナジーズと呼ぶことにしたのですね」など、感激したとのコメントを多くいただきました。また、妊娠中で出生前診断の結果を待っているところだという女性からの、「お腹の赤ちゃんがダウン症である確率が20%と言われています。結果がどうあれ産むつもりでしたが、この写真展に出会い、私の考えが間違っていなかったんだと確信しました」というコメントが、とても印象的でした。
この障害をテーマにした写真展は、ダイバーシティ&インクルージョンの意識の進んでいる英国でまず開催して、評価を得てから日本に持ち帰ることを目的にしました。


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人に希望を与える小さな子どものポジティブエネルギー

写真家名畑文巨は 小さな子どもが持つ人を前向きな気持ちにさせるポジティブなエネルギーをテーマに、5歳ぐらいまでの子どもの写真を撮り続けています。作品は主に雑誌や書籍、作品展で発表していて、生命保険会社や精密化学メーカーなどの企業カレンダーなどにも作品を採用していただけるようになりました。 そうやって撮られた作品は、見ていただいた方々にも伝わり、「前向きな気持ちになれる」と言っていただけるようになり、2010年にニューヨークで個展をした際も観覧者の方々から、「ポジティブエネルギーにあふれている」との声を多数いただきました。私は写真家として、この人に希望を与えるテーマを世の中に伝えていきたいという想いを持つようになっていきました。
障害のある子どもの撮影をテーマすることになったのは、2013年に企業カレンダーの撮影で訪れた英国で、偶然知り合った障害者支援活動家のデビット タウエル氏との出会いからでした。それから日本のいろいろな障害者関連の方々と知り合っていくこととなり、2014年に障害のある子どもを撮影する機会が得られました。

ただ、正直なところ、私の身内に障害者がいるわけではありませんし、また、接する機会もなかったので、彼らの印象は「かわいそうだな」という程度のものでしかありませんでした。ところが、最初に5歳のダウン症のある女の子を撮ったときに、その考えは一変しました。

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Taken by Fumio Nabata

「かわいそうどころか、パワーがありすぎて逆に元気をもらえる!」

そのイキイキさというか、ポジティブなエネルギーが本当にすごいと感じました。健常の子は、おもちゃなどであやしてテンションを上げていってやっと引き出せるのに、その子は最初からそのイキイキさがマックスなんです。「こんないいものを持っているのに、これが知られていないのはもったいない」と思いました。また、この大きな前向きなエネルギーは、人に希望を与えるのに十分な力があるのではと感じ、私が子ども写真で目指してきたテーマの最終形がここにあったと思いました。
そうして障害のある子どもたちを撮り始めましたが、同時に彼らの置かれた現実も目の当たりにすることになります。それは、世間の障害者への「偏見」です。日本では街中で障害者と出会うことがあまりなく接する機会が少ないので、「かわいそう」「怖い」「どう接していいのかわからない」など、「知らない」ということから、偏見につながっているのだと感じました。私自身もそれまでは同じような意識があり、やはり偏見を持っていたのだと気がつきました。
そして、私自身が彼らのいい面に気がついて考えが一変したように、この強いポジティブなエネルギーを写真で伝えることで、人々の障害者への意識を変えていくことができるのではと思うようになりました。障害者の写真というと、今までは障害の部分をクローズアップして、見る人に同情を買うような見せ方が多かったように思います。そうではなく、明るい前向きなエネルギーのある写真を見せることが偏見を打ち破るために必要であると思いました。

写真展のイギリスでの成功が日本につながる。

しかし、写真展をするにしても、テーマが「障害者」というだけで今の日本では敬遠されてしまうことが考えられます。どのように展開するのがいいか思案していると、東京・青山でギャラリー の社長をしている友人から「障害者の写真展は、障害者問題への意識の高いヨーロッパで最初に やって評価を得てから日本に持ち帰るのがいい、それに一番適しているのがロンドンだ」とアド バイスをもらい、その英国で評価を得るためには日本と英国を含め、世界(主に発展途上国) の障 害児を取材して展示する、英国で開催したのち障害者への意識が最も高まるであろう2020年 東 京オリンピック・パラリンピックの文化事業としての開催を目指す流れという、プロジェクトの草案がここで生まれました。
また、英国で知り合った障害者支援活動家のデビット・ タウエル氏から紹介いただいた、日本の障害学研究者で、Inclusion International(国際育成会連盟)の元アジア太平洋地域代表、障害者権利条約 (2006年国連総会採択、締結国は日本を含む世界177カ国)の起草者でもある長瀬修氏から、世界の国々の福祉の状況をお聞きし、取材先はどの国が適しているかなどのアドバイスを受けました。そして、このプロジェクトの障害者に対する意識の変革を促すという目的は、障害者権利条約第8条 【障害者に関する社会全体(各家庭を含む)の意識を向上させ、並びに障害者の権利及び尊厳に対する尊重を育成すること】にまさに一致しているとご意見をいただき、本条約第8条を「世界の障害のある子どもたちの写真展プロジェクト」の根幹としました。

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英国人写真家とコラボレーション

2014年3月に、東京青山の伊藤忠青山アートギャラリーにて、世界7カ国で開催されたダウン症 の企画写真展「ダウン症 家族のまなざし – Shifting Perspectives –」が開催され、中心メンバー である英国人写真家リチャード ・ベイリー氏と出会いました。 その後、同年11月に撮影の仕事でのオランダロケの後に英国に 立ち寄りベイリー氏と再会、ロンドン写真展展でのコラボレー ションが決まりました。彼の紹介でバース在住の5歳のダウン症のセブ ・ホワイト君を撮影。彼は大手百貨店マークスアンドス ペンサーの広告モデルに採用されて英国では有名でした。英国は生まれ持った障害は個性ととらえる文化があり、企業が普通に障害者をモデルに使っていることに、日本との意識の違いを強く感じました。

立ち上がり変えようとする人が世界にいます

世界の取材先として2016年にミャンマー、2017年に南アフリカ共和国で、各国のダウン症協会の協力を仰ぎ、撮影させてもらえる子どもたちを紹介していただき取材撮影を行いました。どちらの国もかつて英国が統治していた国であったということで、英国の人々の関心を得るために選びました。取材費用はクラウドファンティングで一般から公募、どちらも目標金額を100%達成ののち実施されました。
2016年9月のミャンマー取材は、MDSA(ミャンマーダウン症協会)の協力を得て撮影対象になるダウン症のある子どもを紹介していただき、それぞれのご自宅や公園で撮影しました。ミャンマーは何世代も一緒に同居する大家族が普通で、子どもたちは家族みんなに温かく見守られて育てられているという印象でした。皆本当に元気で、ポジティブなエネルギーを感じました。この国では民間人の家に泊まることが禁止されていて、今回のように自宅で撮影するようなことは、ただ観光で来ただけではまず経験できないようなことで、とても貴重な体験でした。

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MDSA代表であり設立者のMyo Pa Paさんにミャンマーの状況についてお話を伺いました。ミャンマーは長い軍事政権から民主化されてまだ間もない状況で、障害者への理解は進んでいるとは言えず、福祉もほとんど手付かずの状況であったと言います。そんな中でMyoさんは、他国の進んだ福祉の状況に影響されて自分の国も変えていかなければと立ち上がり、寄付を募って協会設立にこぎつけたそうです。協会設立といっても日本の公益法人のような国が認める仕組みはまだなく、Myoさんが作ったことでようやくその仕組みが後追いでできてきたとのことでした。何もないところから困難を切り開いてこられた姿に敬服したと同時に、これからプロジェクトを進めていく勇気をもらいました。
2017年9月の南アフリカ取材はDSSA(南アフリカダウン症協会)の協力を得て1歳から7歳までの黒人と白人のダウン症の子どもを撮影しました。南アフリカは1994年にアパルトヘイトが撤廃されたとはいえ貧富の差はまだまだ大きく、DSSAなどの協会に入会しているのはどちらかというと裕福でエディケートされた方しかいなかったのが印象的でした。

Fumio Nabata Children Images

Taken by Fumio Nabata

撮影した子ども達の中で印象的だったのは、白人の男女の双子の1歳の赤ちゃんで、女の子は健常、男の子だけがダウン症というとても珍しいケースでした。2人とも本当に可愛くて元気。撮影後にお母さんに育児についてのお話をお伺いしました。男の子の方は 生まれて間もなく心臓疾患で手術をし、お母さんは心配が絶えなかったようですが、「この子がいたおかげで、本当にいろんな経験をさせてもらいました」と前向きです。そこで「もしお友達に、お腹の赤ちゃんがダウン症とわかった人がいたとしたら、あなたはどうアドバイスしますか?」と尋ねてみました。すると、「なにも心配いらないから産めばいいわと言います」と答えられ、その言葉に乗り越えてきた強い心を感じました。
後篇へ続きます

寄稿:名畑文巨(写真家)
URL:「世界の障害のある子どもたち写真展プロジェクト

取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor

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