6人の「ヒーロー」が描く、社会福祉の未来とは。
- アソシエイト・プランナー
- 田中 陽太郎
全国社会福祉法人経営者協議会は、2月28日(火)に福祉の仕事に情熱を注ぐ方々を称え、表彰するイベント「社会福祉ヒーローズ トーキョー 2022」を東京で開催しました。
社会福祉の仕事をアイデアと実行力でよりよい方向へ変えるべく情熱を注いでいるヒーローたちが日本にはたくさんいます。
単に現在の仕事に情熱を注ぐだけではなく、自分たちの取り組みを通して、利用者さんの喜びを作り出す、そして少しでも社会福祉の現場に携わる仲間を増やしたい、と本気で思っているヒーローたちの話は、どれも魅力的で熱いものでした。
登壇したファイナリスト6人は、全国各地から集結し、地域での活動や実践している挑戦(介護・保育・障がい者支援等)について、ステージで熱くスピーチしました。
このファイナリスト6人の発表は、会場に集まった大学教授や福祉関連の学生起業家、そしてオンライン中継で参加した大学生や専門学生などが見守り、最多得票者の稲葉さんが最優秀賞「ベストヒーロー賞」の栄冠を手にしました。
この記事では、ベストヒーロー賞を受賞された稲葉さんと保育に関するヒーロー村上さんの発表内容をご紹介します。
【SNS発信を通じて介護の魅力を伝え、ご利用者の夢を叶えるヒーロー】
~兵庫県 社会福祉法人 福住やまゆりの里 稲葉夏輝さん~
SNSのフォロワー数が、業界随一(TikTok約1.5万フォロワー、Instagram約2万フォロワー、2023.1現在)を誇る、介護老人福祉施設「やまゆりの里」。
このやまゆりの里に勤務する相談員・介護福祉士の稲葉夏輝さんは、SNSを通じて、介護の魅力を伝え、ご利用者の夢をかなえるヒーローです。
6人兄弟の末っ子で、祖母によく面倒を見てもらったという稲葉さんは、当時から福祉を身近に感じておられ、介護の道に進まれました。
平成29年「やまゆりの里」に入職。スタッフ不足の中「やまゆりの里」を広めるために、PRプロジェクトリーダーに就任。リーダーとなった稲葉さんは、業務中のスマホ利用をOKにし、業務中に撮ったお年寄りとの写真をSNSに投稿する「みんなが発信者大作戦」を提案。
「仕事中にスマホを触るなんて…」と他の職員からの反対意見に悩みましたが、「一緒に働く人を増やすために必要なんだ」と発信することの意義を熱心に説明し、説得しました。
最初はフォロワーも100人ほどでしたが、利用者さんの夢を叶える動画が注目を浴び、フォロワーが1000人まで増えました。
現在の介護と発信のコンセプトである「夢を叶える介護」に決まったのはこの経験からでした。
家と変わらない日常(料理や畑作業)や、プライドを守った排泄(おむつ使用率ゼロ)、心も身体も元気になる入浴(全員個浴)、夢を叶える活動(旧友との再会)などの「利用者の夢を叶える介護」により、利用者の笑顔が徐々に増えたと言います。
SNSの活用にあたり、稲葉さんや職員の根幹にあるのは、「入居者さまの願いを叶え、笑顔になっていただきたい」という思い。
この、職員による夢を叶えるストーリーと利用者の自然な笑顔が、SNS上で共感や感動を呼び、フォロワーが急増し、稲葉さんは、SNSは利用者と職員に大きなメリットを与えると言います。
利用者に対しては、
・撮影される事でハリのある生活に。
・1人1人の夢を叶えることができる。
職員に対しては、
・モチベーションの維持と向上、ケアの方向性が浸透する。
・SNSフォロワーが増える事で入職者の増加、退職者の減少にもつながる。
SNSを見たことがきっかけで、青森や東京、福岡など全国各地から就職の希望があり、約4年間で15人の採用が実現しました。
「介護はクリエイティブ。笑顔を増やせる仕事。きつい、汚いなど大変そうな業界のイメージを、TikTokとInstagramを使って一新させ、介護の仕事を“なりたい職業ナンバーワン”にする。」
この熱い思いが、稲葉さんを動かす原動力となり、さらに介護に対し、大きな影響を与えることになると思いました。
【子供主体の保育を真ん中に地域づくりをすすめるヒーロー】
~社会福祉法人 伸成会 富岡保育園 村上太志さん~
「ありがとうございます!ちょっと歩かせてください!」と大きな声で入場してきた村上さん。
子供主体の保育を真ん中に地域づくりをすすめるヒーローです。
村上さんは、37年間のご自身の人生の中で経験した、勇気が出る3つの話を話されました。
①人生には無駄な時間が必要である事。
幼いころの村上さんは進学校に通っていましたが勉強が苦手でした。徐々に勉強に追いつけず、学校をさぼるようになりました。
結果、夢や希望もなく、卒業後の進路にさまようように。その時、当時の担任の先生がある提案を村上さんにしました。
それは、「幼稚園へボランティアに行ってみないか。」
最初は1日だけのつもりが、次第に学校を休んで手伝いに行くようになり、子供たちから、「お兄ちゃん明日もまた来て!」先生からは「助かったよ」と言われ、社会から必要とされる喜びを知り、心が大きく動かされたそうです。この時の経験が、保育の道に進もうと決意したきっかけでした。
②子供主体の保育に出会い、人生が変わる。
保育園に就職した村上さんは、子供たちを楽しませることに一生懸命でした。
しかし、やりがいを感じる反面、子供たちを楽しませることを得意になればなるほど、子供をコントロールすることが上手になってきていた、と村上さんは話されました。
幼少期、自然に囲まれた土地で生まれ育ち、地域の様々な人たちから見守られて育ってきたため、大人にコントロールされた記憶がなく、徐々に自分がしている保育の在り方に疑問を持つようになったと言います。
そんな時、研修のため行った東京の保育園で衝撃を受けることになります。
「先生たちが黒子のような存在。子供たちが自ら考え、判断し、遊びに没頭していた。」
自分もこんな保育園をやりたいと強く思った村上さんは、東京から帰り、富岡保育園での改革に邁進しました。
大人がコントロールしすぎてしまわないように、
・年齢別のクラスの壁をなくす。
・固定担任制を撤廃。
・大型総合遊具もすべて取り除く。
・運動会や発表会、参観日もなくす。
徹底的に、保育とはこういうものだという固定概念を壊しました。
そんな強い意志で進めた改革にはもちろん、それなりの批判もありましたが、先生たちの試行錯誤する情熱と、変化していく子供たちの姿を見て、
自分の進む道は間違っていない、と改革の手を緩めませんでした。
大人都合をやめたことで、子供たちに自主性が生まれ、子供たちが子供の時間を生きている。
「やってよかった。さらに改革を進めよう!」と思っていた矢先。
悪性リンパ腫ステージ4のがんが発覚。余命2か月でした。
即入院し、輸血や抗がん剤治療を開始。10日間で15キロも痩せ、次第に車いす、そして最後は寝たきりになりました。
しかし、余命宣告され、肉体的にも精神的にも厳しいこの場面で、「あきらめる事なんて考えられない。絶望する暇なんてない。絶対保育の改革の場に戻りたい」と強く思ったそうです。
この強い気持ちと保育園や医療福祉の仲間たちのサポートのおかげで、再び保育の場に復帰した村上さんは、「みんなへの恩返しがしたい。社会に貢献したい。」という思いで、これまでより一層保育の仕事に励むことができたと言います。
③子供主体の保育改革における、現在と未来について。
「一人の子供を育てるために一人の村が必要である。」というアフリカのことわざのように、親だけではなく、地域の人やたくさんの人の愛が子供の成長に必要であると村上さんは考えています。
富岡保育園も子供主体の保育改革をする中で、次第に地域の人たちを巻き込んだものとなっていきました。
近所のおじいちゃんおばあちゃんが給食を一緒に食べてくれたり、中学生・高校生が放課後に子供たちの面倒を見に来てくれたり。
富岡保育園は今、保育園という単位ではなく、村として生まれ変わろうとしています。
「自分の育ったバックボーンのような場所を取り戻そうとしている。」
「奇跡的にもらった第二の人生。感謝の気持ちを忘れず、社会の幸せのために、子供を真ん中にした街づくりに命をかけていきたいと思っている。」
どんな状況の中でも、希望だけを見つめ、自分の全力を保育に注いできた村上さんのこの言葉はとても重く、そして希望に満ち溢れた言葉でした。
【ヒーローたちの発表から感じたこと】
6人の発表を聞き、すべてのヒーローたちが利用者にとって「どんなサービスが最適か」「何をしたらもっと喜んで頂けるのか」を最善を尽くして、考え、実行していて、このような方々が最前線で引っ張っているのだから、日本の福祉の未来は明るいと感じました。
特に印象的だったのは表彰式の際、最優秀賞を受賞した稲葉さんに対して、まるで自分が賞をもらったかのように笑顔で、大きな拍手を送る5人のヒーローたちの姿でした。
決して自分の為ではなく、仲間や利用者、そして社会のために全力を注いでいるからこそ、同じ社会福祉の舞台で活躍している人に対して、心の底から祝福することができるのだと感じました。
今回書ききれなかったヒーロー達の取り組みは下記URLからご覧になれます。
参考リンク:
社会福祉ヒーローズ
社会福祉ヒーローズ トーキョー2022