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28 Feb. 2023
カンヌライオンズ2022から 考える クリエイティブとダイバーシティ -女性のエンパワメント編-

カンヌライオンズ2022から 考える クリエイティブとダイバーシティ -女性のエンパワメント編-

厚木麻耶
クリエーティブ・テクノロジスト
厚木麻耶

2022年6月、世界最大級のクリエイティブの祭典である『カンヌライオンズ2022』が3年ぶりにリアル開催されました。今年は87カ国から合計2万5464作品のエントリーがあり、社会課題の解決を目的にした受賞作品も多く見られました。そんな受賞作品に関して、2年目社員5人がお届けしていく本連載は、1回目はヘルスケア関連の作品、2回目は子どもに関連する作品、3回目は多文化に関する作品をご紹介しました。

性差別や偏見を打ち破るクリエイティブを讃える Glass:The Lion For Change部門の受賞作の中から、「女性のエンパワメント」に関する2作品を紹介します。

 

 

女性の経済的自立を支援するキャンペーン「Data Tienda」

最初にご紹介するのは、女性起業家を支援するメキシコの団体WECAPITALによる「Data Tienda」です。
この作品は、Glass部門でGrand Prixを受賞しています。

メキシコでは、何百万人もの低所得層の女性が、銀行の融資を受けられないために、勉強も起業もできないでいます。国立銀行証券委員会によると、その83%は、銀行での支払い履歴がなく、支払い行動を確認することができないため、ローンの申請が却下されています。そこで着目したのが、近所の商店でのクレジットヒストリー。銀行では取得できない小さな支払い履歴が、全国何百万もの商店の会計記録には出てくるのです。

データを収集するために、女性たちは、利用歴のある店の情報をWhatsAppというコミュニケーションツールに5件以上入力するだけです。それ以降は、システムが自動的に店主から質的および量的な情報を収集、分析し、信用スコアを作成してくれます。これは、銀行口座を持たない数百万人の女性のクレジットヒストリーを銀行に提供し、ローンを提供することを可能にしました。

この事例で取り上げた問題では、「銀行の利用歴をその人の信用情報とする」という過去に作られたルールが、ジェンダーギャップをより大きくしてしまっています。生活を便利にするためや、人を助けるためなどポジティブな理由でつくられたルールが、人を傷つけたりネタティブに働くことがあります。今あるルールを見直すことが、ジェンダーギャップを少しでも減らすことに繋がると感じました。

 

 


STEM分野のジェンダーギャップに取り組んだキャンペーン「Doja Code」

次にご紹介するのは、STEM分野の女性を支援するNPO「Girls Who Code」による「Doja Code」です。
この作品は、Glass部門でSilver Lionを受賞しています。

STEM(Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字をとったもの)分野には大きな男女格差があります。最大の問題は、女の子たちがその分野を男の子の分野として捉えていることでした。そこで、女の子に興味を持ってもらうために、女の子たちに人気のある歌手Doja Catと協力して、世界初のコーディング可能なミュージックビデオを制作し、女の子の視聴習慣をハックしたのです。

Dojaのヒット曲「Woman」のミュージックビデオをDojaCodeにし、ネイルや空のデザインの変更、空中からDojaを出現させるなど、数百ものミュージックビデオの要素を入門用のコード(CSS、Javascript、Python)を用いて操作することができるようにし、まるでミュージックビデオの監督になったような体験を提供しました。さらに、一般的にデスクトップでしかできないコーディングを、ターゲット層がモバイル端末からも体験できるようにしました。

結果として、多くの女の子がTikTok、Twitter、Instagramで自分の作品を共有し、何千人もの人たちにコードを書く体験を提供することができました。

DojaCodeの体験はこちらから

この作品のポイントは、モバイルで体験できるようにしたことだと考えます。これまでにも、プログラミングを楽しく学ぶことのできる作品はたくさん作られてきました。たとえば、グリコードは、お菓子を使ってプログラミング思考を学べるものです。テクノロジア魔法学校は、ディズニーの世界の中で学べるオンラインスクールなどがあります。 Doja Codeは、若い世代にとって最も身近なスマートフォンから無償でプログラミングを体験することができます。TikTokなどのSNSでDoja Codeを知り、興味を持ったらその場でサイトにアクセスして体験できるという、ハードルの低さがこのアイデアの良さだと思います。

また、ネイルの色を変えるなど、簡単な体験だったこともポイントだと考えます。生活の中で目にするプログラミングのイメージは、ロボットを動かしたり、人工知能をつくったり、ハッキングをしたり、プログラミングに触れたことのない人にとっては難しそうというイメージが強いかもしれません。しかし、Doja Codeでの体験は、ネイルや空の色を変えたり、Dojaの出現のさせかたを操作したりなど、とても簡単なものです。プログラミングでどんなすごいものをつくれるか、ではなく、プログラミングの楽しみ方を教えてくれるたことも、このアイデアの良さだと思います。

 

 

メディアの重要性

この2作品の共通点は、多くの人の身近にあるスマートフォンというメディアを活用して問題解決に挑んだということです。 Data Tiendaは、スマートフォンからアクセスできるWhatsAppというアプリを使用することで、今まで収集できなかった小規模な購買データも収集できるようにしました。Doja Codeは、一般的にパソコンでしか行えないプログラミングをスマートフォンなどのモバイル端末で体験できるようにし、裾野を広げました。 同じ ”データの収集“ や “プログラミングの体験” にしても、それを行うメディアやツールが変わるだけで、収集できるデータや繋がれる人が大きく変わります。逆に言えば、メディアやツールの選択次第で、意図しない差別や格差を生むことがあるかもしれません。DEI推進のために、時代によって変化するメディア行動を観察し、最適なものを選んでいく必要があると感じました。

取材・文: 厚木麻耶
Reporting and Statement: mayaatsuki

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