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20

Aug.

2019

interview
5 Jun. 2019

VRと考えるこれからのダイバーシティ。認知症がある人になりきってみて

坂野広奈
プランナー
坂野広奈

みなさんは、誰かの悪気のない一言で傷ついた事、ありませんか?

もしくは気づかないうちに自分の発言が他人を傷つけてしまったことがあるのではないでしょうか。

新しい時代を迎え、「ジェンダーレス男子」の流行など、多様であることへ少しずつ寛容になってきた今日。現に、「LGBT」の認知率が3年の間に30%上昇するなど、ダイバーシティへの関心も高まりつつあります。(※1)

一方で、例えダイバーシティに関して一定の理解があっても、当事者の立場になって気持ちを想像することができなければ、悪気ない行動や発言で相手を傷つけてしまう可能性があります。

今回は、マイノリティ当事者理解に向けてVRを活用した取り組みを行っている株式会社シルバーウッドを取材してきました。

 

VRで学ぶ、気持ちを想像する大切さ

シルバーウッドでは、認知症がある人やLGBTの方などの視点を疑似体験できる視点(Angle)を転換(Shift)する「VR Angle Shift(VRアングルシフト)」というコンテンツを制作しています。

VRの活用により当事者の目線から体験を自分事化し、気持ちをよりリアルに理解することができます。

この「VR Angle Shift」は、シルバーウッドが高齢者向け施設を運営する中、認知症がある人の気持ちを分かりやすく理解できるコンテンツを作ろうとした事がきっかけで制作され始めました。

認知症=記憶障害というイメージが大きいですが、存在しないものが見えるようになる「レビー小体型認知症」や、距離把握に障害がでる「視空間認知障害」など認知症がある人ごとに様々な症状が存在し、同一の症状においても感じ方は個々で異なっているのです。認知症がある人の数だけ症状があるといわれている認知症、丁寧なコミュニケーションを通じて、それぞれの状況を理解しようとしなければ適切なコミュニケーションは取れません。

VRを装着すると、そこはあるビルの屋上でした。下の方に走る車が見え、まるで実際の風が吹きつけられているように感じる中、「大丈夫ですよ」と横から声をかけられ屋上から道路に飛び降りるように促される。私たちが初めに体験したコンテンツ「私をどうするのですか?」は視空間失認の認知症がある人の体験ができるものでした。実際はバスから降りるだけでも、空間把握に障害があると前述の通りまるでビルから飛び降りるような恐怖を感じてしまうことがあるそうです。VRの体験はあまりにリアルで、私は本当にビルの屋上から落ちそうになっているかのように、足がすくんでしまいました。

例え私たちの目には危険性がないように見えるシチュエーションにおいても、認知症がある人の視点では症状によって恐怖を感じているかもしれない。こうした時に悪気なく「大丈夫」と声をかけてしまっては、恐怖感が増すだけで、周りへの信頼感がなくなってしまいます。このVR体験は、知識でなく当事者の目線になって気持ちを想像する事の重要性を気づかせてくれました。

 

VRでジブンゴト化する、みんなが感じる気持ちについて

認知症がある人の体験から始まった「VR Angle Shift」ですが、今ではレズビアンや発達障害など30を超える様々な立場の体験コンテンツがあります。新しいコンテンツを制作する際は、リアルなシチュエーションを体験できるコンテンツとなるよう、必ず当事者の方からヒアリングすることを心がけているそうです。

多くのダイバーシティ研修では、マイノリティ当事者の方との「違い」に主眼を置いている中、シルバーウッドではVR体験を通じて、マイノリティ当事者の感じる居づらさや気持ちは同じシチュエーションであれば誰もが感じて、理解できるものであることを体感して欲しいと考えています。

 

レズビアンの鈴ちゃんの1日を体験するプロダクト「LGBT×VR ~レズビアン オフィス編~」

「彼氏と結婚しないの?」「あの人オカマっぽいね」など、職場の人の悪気ない言葉が鈴ちゃんの立場に立つとすごくひっかかります

 

誰もが“ダイバーシティ当事者”であるということ。

これまでの「ダイバーシティ」活動では、マイノリティの方への差別をなくして保護をするセーフティネットとしてのものが目立ちました。シルバーウッドが理想とするのは、各個人が自分の中に様々な多様性を持ち、それらを自由に表現できる「ジブン・ダイバーシティ」(イントラパーソナル ダイバーシティ)のある世界です。

 

誰もが自分の中にダイバーシティを持っています。

 

3つ目に体験したVRプロダクト「見えるようになって鈴木は」では、主人公が人々の持つ「内なる事情」を可視化できるようになってしまいます。「彼氏とマンネリ」「ワーキングマザー」「ゲイ」など、事情の内容は様々。ダイバーシティというと、どうしてもLGBTや障害のみを連想してしまいがちですが、実際は誰しもが多様な側面を持っており、それらを表現することを恐れている人もたくさんいるはずです。これらの多様な価値観をそのままに、自由に表現できたらどんなに良いでしょうか。例えばアニメオタクである事を隠している人が、自分がオタクであることを活かすことで、新たな仕事へと繋がるかもしれません。ただ、そのためには、自分が置かれている環境がどんな自分であっても受け入れてくれるだろうという心理的安全性が確立されていることが重要です。

例え意識をしていても、他人の気持ちを主観的に想像することはとても難しいでしょう。VRというテクノロジーを通じて、新しいダイバーシティのある世界が一歩近づくかもしれません。

VR研修で配布しているアイマスク

ロボットや猫など様々な視点に立つことを表現しています。

 

※1:電通ダイバーシティ・ラボ「LGBT調査2018」

http://www.dentsu.co.jp/news/release/2019/0110-009728.html

取材・文: 坂野広奈
Reporting and Statement: hirona

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