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Dec.

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interview
16 Jan. 2021

能力を共有して成り立つ、誰もが参画できる社会 ~開発者に聞く・岡田敦さん~

坂野広奈
プランナー
坂野広奈

離れた場所にいる二人が、自分と相手の体の動きを一つのVR空間に再現し、“同じ空間”の中でコミュニケーションがとることを可能とする。イノラボとKIDSが開発した「全身トラッキング型VR遠隔セラピーシステム」により、そんな近未来的なコミュニケーションが可能となりました。

ダイバーシティ&インクルージョンの視点からテクノロジーの開発や活用に焦点をあてるココカラーのTechnology Meets Diversityでは、この「全身トラッキング型VR遠隔セラピーシステム」をご紹介する第1回に続いて、共同開発者のイノラボ岡田敦さんを追っていきます。

 

岡田敦(株式会社電通国際情報サービス、イノラボ 空間テクノロジスト)

東京大学大学院情報学環卒業後、NTT研究所に入所し映像・音声転送の技術開発に従事。
2016年ISIDイノラボに参画し、実/仮想空間の新たなあり方をテーマとして活動中。

 

「テクノロジーで可能になる、マンガのような夢物語」

テクノロジーブティックのイノラボで空間テクノロジストをされている岡田さん。「空間」に着目し、新しいコミュニケーションの在り方や、人が住みやすい空間の在り方を、VRやロボティクス・テレプレゼンスシステムなどの技術を用いてデザインしています。
※遠隔操作

例えば自律移動ロボットを使った「動く家具/植栽」は、「人の都合に合わせて 、空間の方が変わっていったらいいのに」という理想から生まれたプロジェクト。ロボットが認識できる位置情報マーカを活用し、家具や植栽を自由に動かすことを可能とします。会議の用途に合わせてオフィス家具をレイアウトして手間を減らしたり、身体に不自由な方の代わりに思い通りに家具を動かしたりすることができます。

自律移動する「動く植栽」


ロボットと人間の共生に向けて開発された「TiCA(Trans-interactive Communication Agent:チカ)」は、違う場所にいる人同士がコミュニケーションをとれる球体状の遠隔コミュニケーションシステム。
その発想のヒントのひとつが、ゲゲゲの鬼太郎の目玉おやじです。
「目玉おやじが鬼太郎の肩に乗っていつもサポートしているように、常に一緒にいれるパートナーがいて、助け合える世界観です。これまでの人間は自分の持っている能力の範囲内で生きていくことが基本でしたが、 自分の見る景色や聞く音をシェアできる遠隔コミュニケーションシステムがあれば色々な場所にいる人同士がいつでも協力して合うことができます。例えばお寿司屋さんに行ったときに、お寿司が詳しい人に旬のネタを教えてもらったりですとか。お互いが常に助け合えれば、能力を増やし合うことになっていきますよね。」

ZMP社の宅配ロボット「CarriRo Delivery」にTiCAを掲載して行った実証実験では、遠隔でオーダーしたコーヒーをオフィスまで配達。
コミュニケーションシステムのTiCAを用いることで、通常の宅配ロボットには障害となる通行人と会話をしながらスムーズな配達を達成しました。

 

様々なアイデアとテクノロジーを生み出している岡田さん。そのテーマは「人と人の繋がり」だといいます。「テレプレゼンスデバイスやVRアバターを通じて、より人と人が円滑に繋がれる世界が作れたらいいなと思います。ロボットができること、人ができることが合わさってきめ細かいサービスが実現できます。そうやってこれまでにない働き方を実現しながら、空間の制約を越えてサービスを提供したり、コミュニケーションをとりながら人と人が繋がっていく。そんな世界を作っていきたいです。 」

 


「興味があることをひたすら追求して今がある」

こうして「技術による人と人の繋がり」をテーマに活動する岡田さん。人の繋がりを重視する背景には、ご自身の経験も関わっています。
「実は仕事を辞めて庭師になろうとしたことがあり、庭の勉強をするために3週間イギリスへ留学をしたことがあるんです。そこで出会った庭師の方に相談されて、学生時代に携わっていたプロジェクションマッピングの仕事をし、そこからまた色々な人に繋がって、どんどん自分の興味範囲の仕事をするようになりました。人との出会いや繋がりがあって今があると思いますし、人に助けられて今の業務に繋がっていると感じています。」
このような人との繋がりを持つためにも、我慢をしたり諦めたりせずに、興味がある事に向けて行動することが大切だといいます。「初めから明確な目的 を持っていたわけではないです。興味を持ったものを追求し続けた結果、色々な人と響き合って 自分が向きたい方向で行動できるようになりました。」

 


「VR遠隔セラピーシステムで多くの人を助けたい」

そんな中で、猪俣さんの幻肢痛治療システムを知った時、岡田さんは遠隔でやりとりできる仕組みを実現しなければならないという使命感を持ったといいます。
「遠隔のコミュニケーションというと例えば電話やテレビ会議は昔からあるし、VRを使ったチャットなどのコミュニケーションシステムもあります。しかし、リアル空間での対面コミュニケーションにはかなわない。同じ空気を共有しながら、身振り手振りや表情からようやく相互の理解が十分に進むと思っていました。
猪俣さんの取り組みを知った時、とても衝撃を受け、大きな可能性を感じました。体の動作や動きの情報を仮想空間(VR)上で再現して、ケアが成り立てば、さまざまなやりとりが仮想空間の中でも可能になる。将来、解像度やHMD機器などの性能が向上して仮想空間でできることが増えれば、リアルでしか成り立たなかったことが、離れていてもいつでもやりとりできる世界が広がると思ったからです。さらに仮想空間で技能習得などが可能になれば、それを使って現実世界での技能として生かせる。仮想空間でのアクティビティがリアルの世界に近づいてくる、それは多くの人にとって価値のあることだと感じました。」
共同開発をする東京大学の暦本教授はこうした技術を「人間拡張」ととらえています。「技術を用いることで自分の能力が拡張していく」。まるでSF映画のような世界が近づいています。

 


「誰もが参画できる社会に向けて」

岡田さんの目標は、誰もが自由に参画できる社会づくりです。
「人間はみんな誰かより劣っている部分があるし、年を取ればどうしても老いてできない事も増えてしまいます。自分で生活を送れるよう能力を拡張したり、人々が協力し合えたりするように技術を用いて補っていければ、誰もが自立して生活できるようになる。そうして自分でできる という自信と元気を持ってもらえれば、みんなが幸せになれると思うのです。」
人生100年時代と言われる中、歳をとっても自分らしく元気にあり続けることの重要性はより高まっています。技術も大きく進化する中、生活が変わる転換期にもあるのかもしれません。
「障害を持った方やハンディキャップがある方でも、モノや人がサポートしてくれたり、仮想空間で能力を発揮することができれば、ギャップはなくなります。誰でも自分の持つ能力を発揮して、自立できる世界に向けて技術を用いていきたいと考えています。」

Technology Meets Diversityではこれからも、インクルーシブな社会づくりに向けた技術に注目していきます。

 

取材・文: 坂野広奈
Reporting and Statement: hirona

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