混ぜこぜだからできる表現との出会いを楽しんで欲しい – 「True Colors Festival」舞台裏インタビュー(後編)
- 共同執筆
- ココカラー編集部
前回に引き続き、日本財団が主催する「True Colors Festival – 超ダイバーシティ芸術祭」の裏側についてお話をお伺いしていきます。今回お話を伺ったのは、日々アーティストやサポーター、各ジャンルの専門家の方とともに、企画の実現に向けて奔走されている、フェスティバル・ディレクターの青木透さんです。
「True Colors Festival」フェスティバル・ディレクター 青木透さん
「ダイバーシティ」を掲げる企画を作る面白さと難しさ
― さっそくですが、今回「True Colors Festival」の企画を進められている中で、どんな点に面白さや難しさを感じていらっしゃいますか。
そうですね。元々、芸術やパフォーミングアーツ自体が、ダイバーシティを含んでいるものであると思います。例えば、音楽だと色々な国の人が出てくるのが普通かもしれないですし、ファッションでも様々な人種のモデルさんがステージに立たれたり、LGBTQの方が活躍されていたりということがあると思うので。芸術やパフォーミングアーツの中には元々ダイバーシティが存在していて、特段スポットを当てずとも、既に活躍されている(社会的マイノリティと言われるような)人たちがいて、そういうことを知っている人たちがいる。
一方で、「True Colors Festival」は、「超ダイバーシティ芸術祭」というサブタイトルの通り、改めてダイバーシティをテーマに掲げた芸術祭として、他の芸術祭と比べてどう違うことやっていくのかを自問しながら企画をしていく必要があります。
普段の生活で「ダイバーシティ」という言葉すら知らない人たちに事業のメッセージを届けようとする時に、ある程度説明的な手段を検討することもあります。しかし、そうすると教育的でお説教くさいものになってしまって、芸術祭としてはカッコよくなくなってしまうかもしれない。
でも一方でこの芸術祭は、日本財団が「多様性を前向きに捉える価値観を社会に浸透させる」ための手段としてやっている取り組みなので、単純な芸術祭ではない社会的事業として成立させなければいけない。
そのあたりのバランスを取りながら、どうやってカッコよく、多様性みたいなものを直観的に感じられるような内容を作っていくかというところは、面白さでもあり、難しさでもあると思っています。
― 具体的にプログラムを制作される中で、現場の方と悩まれる部分はどこでしょうか。
ステージに上がる人たちはスポーツとは違う世界の人たちなので、パラアスリートのように超人である必要はないと思っています。なので、アーティストの弱さの部分も含めた、総体としての人間性が世の中に見えていったらいいな、と思っています。
そういう考えもあり、ステージの上のパフォーマンスだけではなく、ドキュメンタリー映像などを毎回制作して、動画を通じた情報発信などにも力を入れています。
例えば、年明け2020年1月の「True Colors Jazz」というジャズ公演で言いますと、出演される紀平凱成さんというピアニストの方は、2歳で自閉症という診断を受けているんですが、ぱっと見、彼が普通に出てきてセッションをしただけだと、もしかすると「色々な若い人が出てくるジャズセッション」くらいのことしかお分かり頂けないかもしれない。
でもそれだけだと、「True Colors Festival」の趣旨が達成できなくなってしまうので、紀平さんの人間性みたいな部分も、当日の2時間の尺の中で何とか伝えないといけない。それをどうお説教くさくなく、かつ、「自閉症の人とか発達障害のあるアーティストなんだ」というレッテル貼りもせずに伝えられるのか。それを考えるのが非常に悩ましいところです。
― 実際には、どのような工夫をされたのでしょうか。
「True Colors Jazz」では、事前に紀平さんのご自宅で、今回のイベント・ディレクターである松永貴志さんと紀平さんのセッションや、ご本人とお父様が音楽について語られるインタビューを撮影し、映像を作りました。当初は、実際のパフォーマンスを観られない方を想定して作ったものなのですが、それを当日の開演前に流すことが出来ないかと思っています。
[ True Colors MOVIE ] 03-01 True Colors JAZZ : Pre-Session of The Live “ISAI meets SEKAI”
ピアニスト・紀平凱成さんとイベント・ディレクター・松永貴志さんのセッションの様子
あとは、色々なアーティストさんの想いや個人のバックグラウンドについて、公演当日の配布資料の中に入れ込んでみたりもしています。
当日運営のレベルでも、そういったアーティストの人間性に関わる要素をどう組み入れられるのかを模索しています。もちろん、あまり色々なことを説明的にせず、カッコよく仕上げたいというより現場サイドの想いもありますので、それとどう折り合いを付けながらやっていくのかを協議していることが多いですね。
プログラムごとに色々なことはやっているのですが、どれが正解で、どれが一番効果的なのか。今も手探りで進めているところです。
ダイバーシティが身近でない人たちに、フェスティバルを通して伝えていきたいこと
― 今回のフェスティバルを通して、ターゲットである一般の人たちに残したい印象はどのようなものですか。
それは、毎回の公演によって違うかもしれません。プログラムごとにジャンルも違うので、残したい印象も違ってきます。
例えば、今度の「True Colors Jazz」では、出演者の紀平さんはピアノを自分のコミュニケーションツールとして使っているような人なんですね。特定の環境下では、弱冠18歳の、世間的には「障害のある」といわれているようなアーティストさんが、ものすごく饒舌に音楽を通して表現をされる。彼がトップクラスのジャズミュージシャンたちと対等にコミュニケーションされていく様子がお見せできると思います。
ジャズという、各アーティストに解釈が委ねられる自由なフォーマットの中で、それぞれが表現したいことを乗せていくという過程が見られる場になるんじゃないかと思います。その場でのやり取りや、人間性の表現の重なり合いを見て、是非とも楽しんで頂けたらと思います。
― 「True Colors Festival」は、様々なジャンルのパフォーマンスがおこなわれるだけではなく、イベントのアクセシビリティを高めるボランティアの「True Colors アテンダント」や、ダイバーシティに関する様々なテーマを考える場としての「True Colors ACADEMY」など、パフォーマンスを観る以外の参加方法が用意されていることが特徴の1つだと思いますが、そのような場にはどんな方が参加されているのでしょうか。
参加されている方のバックグラウンドは本当に多様ですね。アテンダントの中にも、障害の当事者でパフォーミングアーツが好きな方や、外国籍の方などがいらっしゃいます。アカデミーには分身ロボットを通じて自宅から遠隔参加をしている方もいます。
「True Colors アテンダント」や「True Colors ACADEMY」という場が、色々なバックグラウンドのある人と繋がれる機会になっていて、アーティスト以外の方にも、本当に個性のある人たちにご参加頂きながら運営していますね。
ステージ上だけではなく、レクチャーやワークショップなど、色々なレイヤーで色々な人が関わりながら進んでいるフェスティバルで、その各レイヤーにとても面白い人たちがいるので、皆さん全員にスポットライトを当てられないのが心苦しい部分もあります。なので、ホームページ上に「VOICE」というコーナーを設けて、そこで色々な形で関与をしてくださっている方たちに、できるだけ光が当てられたらと思っています。
10月5日に実施された「True Colorsアテンダント」講習の様子
大切なのは、当事者のとの接点を作っていくこと
― 青木さんご自身のご経験についてもお伺いしたいのですが、この企画に携わられる前後で、社会的マイノリティと言われる方に対する視点や考え方などが、ご自身の中で変わったということはありましたか。
それで言うと、視点はあまり変わっていないといえるかもしれません。実は、この事業に関わる少し前から、私が所属していたチームのメンバーの一人に、耳が聴こえない同僚がいまして、彼女は手話でコミュニケーションを取るんです。その同僚は、海外経験も長く、積極性もあって、クリエイティブで、本当に尊敬できる同僚なんですけれども。
日本財団で働いている上では特に、そういう同僚の特徴が、仕事上の強みになる部分がたくさんあります。当事者だからこそ、説得力を持って発信ができたり、色々な人と繋がれたりしていて、それを羨ましいと思う部分があったりします。
障害者といわれる人の「障害」は障害ではなくて、逆に僕が障害の当事者になっていることも多々あったりする。例えば、私が手話ができないことで、私がコミュニケーション上の障害、言語上のマイノリティになる場面に遭遇することが多くあるんですよね。
結局、コンテキストによって障害の当事者も変わるものです。「マジョリティの人たちがルールを作っている社会」のような文脈においては、耳が聴こえなくて手話で話す人を障害者としていますが、障害は環境や文脈次第のものであり、そういうレッテルを貼っているのは、マジョリティの人たちが作った社会であり、そのルールとデザインであるということは、一緒に仕事をしているとすごく感じます。
― 一度でも当事者と接する体験の機会があるかどうかが、視点を転換するきっかけになるということでしょうか。
そうですね。我々がこの事業を開始する際に実施した意識調査(※)でも、社会的マイノリティといわれる人たちと長く深く接している人ほど、偏見が少ないというデータが出ています。
また、「True Colors Festival」では、当事者がおこなう素晴らしいものを見せるだけではなくて、当事者と対話ができる機会を作っていかないといけないと思っています。その人たちの人間性を知ってもらう、という部分が大事だと思うんですよね。
言葉で言うとあれですが、「障害があってもなくても、関係ないですよね」という感覚といいますか、健常者でも障害者でも尊敬できる人は本当にすごいですし。そういう人との出会いを今回のフェスティバルでどれだけたくさん作れるのか。究極はそういう部分なのかなという気がしています。
「True Colors Festival」の今後の楽しみ方
― 今年9月から既に様々なプログラムを実施されていますが、これまでにどんな声が寄せられていますか。
実際のところ、誰の方を向いてやっているイベントなのか、という声を頂くこともあります。全方位の皆さんのためにやっているフェスティバル、誰にも居場所があるフェスティバルを掲げている以上、色々なご期待がある中で様々な声を真摯に受け止めながら、一つ一つの会場設計やプログラムの内容を検討しなければならないと思っています。
また、初回のダンスイベントでは、MCに手話通訳を付けて、ブレイクダンスの解説を手話で臨場感をもってやったり、専門的な言葉も含めて全く間違えることなしに、正確に字幕をタイピングしたりということをおこなったのですが、その演出を楽しんでくださった方がいたことも一つの発見になりました。
2020年以降のイベントのあり方として、そういった演出的なものも含めて楽しんで頂ける部分になるかもしれない、ということを感触として持ちつつあります。
9月10日に渋谷ストリーム前でおこなわれた「True Colors Dance」
写真左側 DJの隣で手話通訳を実施している様子
Photo:Ryohei Tomita
― 最後に、今後のプログラムの見どころについても、お聞かせいただけますでしょうか。
それぞれのジャンルに敷居の高さを感じている人にとっても、ジャズやミュージカル、演劇など、元々そのジャンルが好きな人にとっても、新しい発見のあるプログラムになると思います。
それは、社会的マイノリティの当事者が頑張っているから、もしくは、当事者であるアーティストが人生を吐露しているから面白いということではなくて、そういう人たちと一緒に作っているからこそできる表現形態や作られる雰囲気があるということです。
舞台鑑賞は、単純にアーティストによって表現されているものだけではなくて、その場で観客と一緒に作っていく雰囲気も含めて全部楽しむもの。本当にその場でないと感じられない温かさや、ちょっと笑ってしまうような面白さがあると思います。
ジャズファン、ミュージカルファン、演劇ファンの人も、新しい世界を楽しめると思いますし、そうでない人にも、フェスティバルの社会性をフックに遊びに来て頂ける機会だと思いますので、ぜひともお気軽にご参加頂きたいなと思っています。
― 本日はありがとうございました!
―
青木 透 氏
日本財団 特定事業部 True Colors チーム 兼 インクルージョン推進チーム
早稲田大学 第一文学部卒
シラキュース大学マックスウェル行政大学院(NY)国際関係学修士
2009年日本財団入会 海洋グループにて「海と日本プロジェクト」の立ち上げや海洋教育事業を担当、2017年より国内事業開発チームで在宅ホスピスプログラム、障害者アート事業などを担当、2018年よりインクルージョン推進チーム兼True Colorsチームに。
趣味は運動、音楽、読書、妻と出かけること。
「True Colors JAZZ – 異才 meets セカイ Directed by Takashi Matsunaga」
注目のピアニストで日本財団と東京大学が進める「異才発掘プロジェクト」ホーム・スカラーの紀平凱成をはじめ、10歳で世界のミュージシャンとの共演を重ねるドラマーのよよか、車椅子のシンガー小澤綾子が新たな世界に出会うジャズ・セッションをピアニスト松永貴志のディレクションで3都市にて開催。
【日程】2020年1月4日(土) / 1月6日(月) / 1月8日(水)
【場所】1月4日:Billboard Live OSAKA(大阪)、1月6日:Blues Alley Japan(東京)、1月8日:CIB(熊本)
チケット情報は以下のページよりご確認頂けます。
https://truecolors2020.jp/program/jazz/
「True Colors Festival – 超ダイバーシティ芸術祭」公式ホームページ
https://truecolors2020.jp/
(※)「ダイバーシティ&インクルージョン」に関する意識調査(2019年7月実施)
https://www.nippon-foundation.or.jp/who/news/pr/2019/20190823-35191.html
取材・執筆:鈴木 陽子、細川 萌
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