アクセシビリティーを担保しながらも、場の雰囲気を大切にするフィンランドのユニバーサルデザイン。
- グラフィックデザイナー/UDプランナー
- 田代浩史
北欧四カ国の旅の最後は、森と湖の国フィンランド。ムーミン、イッタラ、マリメッコなど日本にもファンが多いこの国のデザインには、自然への愛情や手作り感を大切にするクラフト精神が息づいています。街や施設の雰囲気を壊さずアクセシビリティーを担保ししているところには大いに共感でき、障害者にもそうでない人にもWIN WINな街が実現していました。
■大胆な発想と繊細な心遣い、図書館の可能性は無限かも知れない。
ヘルシンキ中央図書館を訪れてみると、まずはその大きさに驚かされました。全長150m地上三階建ての建物の外側は木材を巧みに曲げてあり、船の様な曲線を描いていました。曲線の使い方や素材の工夫により温かさを感じます。建国100周年の記念として2018年に建てられたこの図書館のコンセプトは、カルチャーとクリエイションの両方ができるオープンスペースです。
多様な人の多様なニーズに応える図書館。
1階には利用者や旅行者への案内所、レストラン、シアターホール、ギャラリーなどがありました。
2階はグループルーム、個室の学習室、ゲーム室、音楽スタジオなどの他に、モノづくりの拠点として3Dプリンタ、大判プリンタ、レーザーカッター、ミシンなどもあり若い人たちで大賑わいでした。
3階がいわゆる図書館機能になりますが、10万冊の蔵書に加えて、映画のDVD、ゲーム、なども置かれていました。書架が高くなく、どの本にもアクセスしやすい設計も車椅子ユーザーを考慮してのことでしょう。
一人で静かに過ごしたい人、友達と話がしたい人、遊びたい、創りたい、観たい、聞きたい、表現したい、、、相反する様な多様なニーズに応えられる空間がここに実現していました。
どんな人にもそれぞれの心地よい居場所がある。
ユニバーサルデザインが当たり前に存在する安心感。
アクセシビリティーは必要な人が必要な配慮を求められる様にきちんと整備されている印象です。視覚障害者のための工夫では、点字、点字ブロック、触知図などがきちんと整備されていてとても勉強になりました。
また、ここにいる多くの人が自分の時間を大切にしつつ、他者への配慮をさりげなくしている空気を感じました。個人主義は決して自分主義ではなく、自分の権利を主張する代わりに他人の権利も認めます。
■トラム(路面電車)は多様な人に使いやすく、街の景観にも一役買っています。
ヘルシンキは港の近くに街の中心部がコンパクトにまとまっていて、主要な観光施設にもアクセスしやすい街です。外国人である私たちにとってもトラムは使いやすく、車両や停留所の行き先の表示もとてもわかりやすいものでした。車両も、低床設計で大きな荷物やベビーカーでの乗り降りも楽です。
ヘルシンキのトラムのデザインは敢えて直線的な部分を残しクラシックな街にも融合しています。色も派手すぎず、品格を感じます。
■フィンランドのピクトグラムの多様な表現。
私の仕事の中で、ピクトグラムのデザインはとても重要です。国籍や年齢を超えて誰にでもわかりやすいかどうか、誰にでも見やすいかどうか、ユニバーサルデザインの基本をいつも考えながらデザインしています。今回の旅でも多くのピクトグラムの写真を撮りました。多様な表現があり、ユーモアを感じるもの、ダイバーシティを感じるものなどもありました。
日本では馴染みがなかったもので、聴覚障害者用のピクトグラムがありました。筆談の準備があるとか、チャットで会話ができるサービスの様です。
■日本のユニバーサルデザインに求めるもの。
ユニバーサルデザインの基本は全ての人を対象にですが、その場その場で大切にしたいこともあるはずです。街の景観との調和とか、施設の雰囲気とか。視覚障害者のために点字ブロックは必要だけれども、その場の雰囲気を壊さずに解決することもデザイナーの使命かも知れません。デザインは一つできたら終わりではなく、常にスパイラルアップしていくことが求められます。そのためには日本でもより多くのデザイナーがユニバーサルデザインに参加して、アイデアを出し合えるような環境が求められていると思います。
以上、北欧4か国のUDを巡る旅を連載しました。
ノルウェーのフューチャーオブザフィヨルド、スウェーデンのハーガゴーデン、デンマークのフールサングセンター、フィンランドのヘルシンキ中央図書館。利用者の多様性を理解して寄り添いながらも、新たな試みを積極的に採用し、結果的にも世界に類のないものになっています。ユニバーサルデザインは課題解決であると同時に、需要創造でなければならないと強く感じました。
ヘルシンキ中央図書館は国際図書館協会・機関連盟(IFLA)の世界図書館情報会議において、2019年度公共図書館オブ・ザ・イヤー賞の受賞者に選ばれました。
写真:田代デザインスタジオ、植田UD研究所
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