「ノーライン・キャリア」の時代 ④~キャリアとは、期待に応えつづける戦略~
- 共同執筆
- ココカラー編集部
<ダイバーシティな働き方 「ノーライン・キャリア」>
グローバル経済の進展、少子高齢化、労働市場の流動化などの環境変化によっ て、日本人の働き方が変わりつつある、と言われ始めて久しい。終身雇用、年功序列といった慣行が崩れるなど、やや恐怖訴求的な論調のニュースが目立つ。一 方、この変化をチャンスととらえ、これまで当たり前とされて来た枠組み(ライン)に縛られず、逆に自分で自分の限界(ライン)を決めない多様で新しい働き 方、つまり「ノーライン・キャリア」を創りだしている取り組みが、現れはじめた。そうした開拓者たちの“いま”をレポートして行きたい。
<第4回 キャリアとは、期待に応え続ける戦略>
「青臭い志を持って人を支援し続けるドン・キホーテ」を自認する人がいる。野田稔さん。
野村総合研究所、リクルート(新規事業担当フェロー)を経て、現在は明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科教授の職を務めるかたわら、一昨年、司法試験合格者を多数輩出して来た伊藤塾塾長・伊藤真さんと共に、『社会人材学舎』という社団法人を立ち上げた。
“社会人材”とは?
「生涯にわたり能力を発揮し続け、世の中の幸福の総量を増やし続ける人」をさす。
人材学舎立ち上げへの思いは、大学院の授業を受講する30代の社会人学生たちと接する中で高まって行った。彼らの多くが、本来、自分は何をするのか?を改めて考え直し、意思決定することを目的に入学し、起業して行く。だが、世の中全体を見れば「自分がやりたいこと」が見つかる人は、ごくわずかに留まる。モヤモヤとした状態のままでキャリアを終える。それは、日本的な終身雇用の慣行から来る「問題解決」型人材の宿命かもしれない、と思うようになった。だが「問題発見」型人材に転換し、30代で志を立て直すことができれば、事情は異なる。日本を覆う閉塞状況を打破できるかもしれない。
その理念のもとに準備を行い、ようやく設立パーティにこぎつけたが、ある人材コンサルの一言によって軌道修正を迫られることになる。
「最優先すべきは、50代ですよ」。
終身雇用、年功序列の慣行が崩れる一方、人材市場が流動化する中で最も能力発揮の場が構造的に奪われているのは50代ミドル層。その形式知化されていない知恵や経験を活かすことが日本社会を明るくする、という指摘だった。
こうした紆余曲折を経て、社会人材学舎は2013年にスタートを切った。以来、40-50代を中心に社会人が身につけるべき教養として再び見直されているリベラルアーツの手法を活かしながら、個々人が抱える様々な「思い込み」の呪縛から解放され、自分らしいキャリアを設計するプログラムを提供して来た。
そして今、新たなステージに入りつつある。これまで年代別に区切られてきたキャリアを一連の「ストーリー」として捉え直すことで、ヒトをより一層輝かせる可能性が見えて来たのだ。野田さんは、これを「キャリア成長論」と呼ぶ。
授業風景
ただ、年代によって大切にするべき「キャリアの軸」は変わって良い、というのが野田さんの考え方。
20代では型を身に付け、とりあえず会社に馴染むことが、一番大切。これを「自己ブランドを職場の中で確立する時」と呼ぶ。
「○○さんって優秀だよね」がブランドになる。 “優秀な先輩をパクる”ことでチャンスが巡って来る。そのチャンスをモノにすると、ますます優秀だというブランドが確立できる。
30代はプロフェショナルになる「旗印を掲げる時」。この段階では、自社に対する貢献を明確に言語化できていること、自らの有能性を高め、自立的かつ自律した働きかたを確立する。
そして、30代から40代になるまでの間に「何々と言えば○○さんだよね」と言われるようなポジションを社内で作ることが肝心。
そして、40代は「出世の10年」と呼ぶ。ただし、ここで言う「出世」は「俗世間を離れて悟りを開く」仏教用語を指す。40代というのは会社の枠を超えて、社会に役立つことをすることで、自分の存在感を広く社会に示し始める「輝かしきチャレンジの時」。つまり、真の市場価値を拡大する時だ。40代が終わり50代半ばになるまでに「○○社に○○さんあり」と、取引先や、会社を離れたコミュニティなどで言われることが必要。大切なのは、会社以外の様々な場で存在感を発揮する努力をすること。(ちなみに、この段階では「二枚目の名刺」が一つのキーワードになる、と野田さんは言う)
いよいよ、50代では「複眼的なキャリア」が必然になって来る。改めて自分と言う存在を見直し、自分の生き方のデザインを自分の手に取り戻す。ここでは「○○さん、とうとう○○を始めたんだって。すごいね」あるいは「面白いね」と言われるのが望ましいあり方。こうしたストーリーを自ら描きながら、60代でキャリアの幸せが決まる、というのが「キャリア成長論」だ。
そこに流れる野田さんの問題意識。それは、人はまだ、自分の「ストーリー」を語っていないのではないか、もっと真剣に向かい合うだけの価値が人生にはあるはずだ、という想い。
人は自分の可能性を自分で創ることが出来る、それによって周囲からの期待が生まれ、更に自分の可能性を拡大する、という循環を創ることができるはず。その循環は年代毎に生まれ、何度も繰り返され、やがて大きな流れとなって大河のような自分のストーリーが生まれて行く。つまり「キャリアとは“期待に応えつづける戦略”なんです」(野田さん)。
一方、いまだ多くの会社における異動、配置、ローテーションは「点のマッチング」に留まっている例が多い。これを、線(ストーリー)と線(ストーリー)のマッチングにして行きたい、そのための科学(サイエンス)を生み出したい、というのが野田さんの次なる「野望」だ。
いま、さまざまな場所で「モヤモヤしている」という言葉が聞かれる。だが、モヤモヤした状態は、必ずしも悪いことではなさそうだ。
それは、夢の実現をあきらめているわけではないが、追いかける夢が見えていない状態だからだ。
一方、夢の実現はもう無理、と思ってしまうことや会社で役職になることのみを目的としてしまうことの方が、よほど危険な状態かもしれない。
果たして今の会社に入った時の夢は何だったのか?そして、今の夢は一体どのようなものなのか?一人一人が自分に問いかけることから何かが始まるのではないだろうか?
一般には必ずしも良い意味には使われない“青臭い”という言葉を、あえて最大限の賛辞とする「ドン・キホーテ集団」人材学舎の挑戦は、続く。
野田穣氏プロフィール
社会人材学舎 塾長
明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科教授
リクルートワークス研究所特任研究顧問
NHK「Bizスポワイド」「経済ワイドビジョンe」メインキャスター等をつとめ、組織に関する著書も多数執筆
参考:社会人材学舎
関連記事:
「ノーライン・キャリア」の時代 ①~「二枚目の名刺」(前)~
「ノーライン・キャリア」の時代 ②~「二枚目の名刺」(後)~
「ノーライン・キャリア」の時代 ③~顧問キャリアカウンセラー~
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