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Dec.

2024

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28 Oct. 2014

2020年日本の姿が見えてくる ~ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014~

<もうひとつのトリエンナーレ>

アートを通じたまちづくりを展開するクリエイティブシティ、横浜。その創造界隈拠点のひとつ「象の鼻テラス」で、「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014」という世界的にも珍しいイベントが開催されました。”障害”を持った人たちと国内外の多様な分野のプロフェッショナル、そしてまちの人たちが出会い、共に創造する現代アートの国際展です。展示やパフォーマンスばかりではなく、運営も、障害のある人たちと共に行なうこの芸術の祭典は、障害者アートという「ジャンル分け」ではなく、「交わること」から創造するという、未来の姿を写し出す新しい試みとしても注目を集めています。

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 sing a sewing SLOW LABEL横浜×皆川明

 

<はじめてに出会う場所>

第一回目の今回のパラトリエンナーレのコンセプトは「first contact −はじめてに出会える場所−」。発表された作品の多くは、トリエンナーレに合わせた開催が決まった4月からわずか4ヶ月の間に、アーティストが障害者の施設に通い、ワークショップ等を通じたていねいなやりとりを積み重ねることから創られました。

自閉症や発達障害のある人たちと、現代芸術活動チーム目【め】の出会いから生まれた展示、「世界に溶ける:リサーチドキュメント」。

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 「世界に溶ける:リサーチドキュメント」photo:kyosuke asano

自閉症者には、ある特定のことに非常に強い関心やこだわりを示したり、社会一般的とされるコミュニケーションとは異なる方法で自己表現する特徴があると言われています。例えばチーズを噛んでできる歯形に強い関心を示し、それを冷蔵庫に戻すという自閉症者ならではの際立った感性は、社会的適合性を育てるという福祉的観点からは、評価されにくいかもしれません。けれども、アーティストの感性に触れ、価値が発見されることで、芸術作品へと昇華されようとしています。

 

<機能と違う、価値を見いだす>

「声の矢印、言葉の地図」は、暗闇体験というソーシャル・エンターテインメントを通じて視覚以外の様々な感性への気づきを促すダイアログ・イン・ザ・ダークでアテンドとして働く檜山晃と、詩人・三角みづ紀のコラボレーションによって創られました。全盲者と詩人が共に広場を歩き、五感で感じ取った風景描写が、詩人の綴る言葉によって表現された「人を介する道しるべ」です。

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 「声の矢印、言葉の地図」photo:kyosuke asano

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 ダイアログ・イン・ザ・ダーク×三角みづ紀

同じ障害のある人を対象として創られた作品であっても、すべての受け手に役立つとは限りません。だとしたら、音声ガイドやセンサーといった画一的な科学技術にばかり頼るのではなく、隣にいる人が、少し優しい気持ちになって、相手に読み上げてあげることで、支え合えることが、一番いいのではないか。そのような、こころの通う導線を表現しようとする試みから、この作品は生まれました。「障害者」という「同質的な集団」を示す言葉を前提としてつくられた創作ではなく、「異なる個性を持つ個人」を前提に提供される創造。そのような視点に立つと「障害者」という言葉から連想する世界が、まるで違って見えてきます。

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 パラトリエンナーレでは、国内外のさまざまなアーティストを招いたイベントも開催された。写真は、ロンドンオリンピック、パラリンピックの開会式にも参加したカンドゥーコ・ダンスカンパニーを率いるペトロ・マシャドによるダンスワークショップ photo: 427FOTO

 

<きっかけは、ランデヴー>

「障害者」という言葉に新たな視点を提示する芸術の祭典、ヨコハマ・パラトリエンナーレのルーツは、象の鼻テラスを拠点に2009年から始まった「横浜ランデヴープロジェクト」にあります。ランデヴーとは「出会い」という意味。横浜市内の企業、国内外で活躍アーティストが出会い、ものづくりするこの社会的実験に、たまたま障害者施設に関わる人が参加したことから、障害者との共創がスタートしたのです。

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 スローレーベル開催のワークショップ  photo: 427FOTO

マス(大衆)を対象とした、大量生産、均等品質に向かって発達した拡大化社会から、スローやコンパクトさといった、これまでとは違うベクトルに世の中の関心が向かいつつある中、求められる新しいものづくりの在り方とは何か。”障害者“と呼ばれる鋭い感覚や個性を持った人たちの、一つひとつが違うものづくりには、そんな時代の流れに応える、次世代型のものづくりの可能性が秘められていたと、ヨコハマ・パラトリエンナーレの総合ディレクターで、象の鼻テラスを拠点に活動するスローレーベルの代表でもある栗栖良依さんは語ります。

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 パラトリエンナーレ総合ディレクター栗栖良依さん photo; Masaya Tanaka

アーティストには、個々の表現者の才能を導き出し、その価値を社会に活かす「伴奏者(アカンパニスト)」としての新しい役割が期待されている。そして、優れた伴奏者を育てることは、個性を尊重しあう、多様性社会の発展も結びつく。栗栖さんは、そんな未来を見つめ描いているのです。

 

<2020年、社会は何を選択するか>

パラトリエンナーレは、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年をターゲットイヤーと位置づけています。社会が大きく変わる契機となるこの年に、多様性を受け入れる新しい社会の姿を、横浜から世界に提示してゆけるのか。市民、地元企業、障害者、アーティスト・・さまざまな人たちの力で創られるパラトリエンナーレには、そのような挑戦が込められています。「2020年には、障害者という言葉もなくなり、互いが補完しあいながら、パズルのようにつながりあう社会になって欲しい」。そのために、いかに混ざり合い、出会い合い、気づき合う場を設置していけるのか。横浜で起こりつつあるこの動きが、世界にどう波及するのか。3年後、そして6年後に向けて、注目は益々高まりそうです。

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ヨコハマ・パラトリエンナーレ2014 会期:2014年8月1日(金)~11月3日(月祝)(コア期間:8月1日~9月7日) 会場:横浜・象の鼻テラス http://www.paratriennale.net

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取材・文: co-maki/今井麻希子
Reporting and Statement: co-maki-imaimakiko

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