第2回★難聴のユニバーサルデザインコンサルタントの想い
- 戦略プランナー
- 阿佐見綾香
ユニバーサルデザインコンサルタントの松森果林さん
ユニバーサルデザインコンサルタントとして、聞こえない視点から企業にアドバイスを続けてきた松森さんが、これまでに手掛けた仕事は、日用品や家電製品から、建物や街づくりまでと幅広い。
「ユニバーサルデザインがテーマですが、聞こえる世界と聞こえない世界、両方を知っていることを強みにして、どんなふうに変えていけば使いやすくなるのか、みんなで一緒に暮らしやすくなるのかをアドバイスしています。」
例えばテーマパークや公共施設(東京国際空港の新国際線旅客ターミナルのUD)などの建物の場合、音声アナウンスの内容を文字表示させたり、エレベーターに閉じ込められる非常時に備え、外部と通話できない聞こえない人が中にいることを知らせるためのボタンをつけるなど。掃除機のコンセントが抜けても音で気づくことができない聴覚障がい者の視点から、電源ランプをつけたり、受信音を聞くことができない視点から、香りで受信を知らせる携帯電話やストラップを開発したり、アラームが聞こえない視点から、香りで目を覚まさせる目覚まし時計を開発するなど、健聴者にとっても嬉しい、新しい価値を生み続けてきた。
健聴者の中に飛び込んで、第一線で仕事を続けてきた。自分の家族や気心の知れた仲間内のコミュニティの中だけで生きるという道ではなく、社会と関わり続けることを選んだモチベーションは何だったのか。
「社会をちょっとでもよくしたい。聞こえなくてもみんなと一緒に楽しく暮らせる社会を作っていきたいという思いがあるからです。それは聞こえる世界と聞こえない世界の違いを知っている私にしかできないことだと思っています。」
社会を変える、ということは容易ではないし、短期で達成できることでもない。想像するだけでも、地道で気の遠くなることの方が多いだろう。それでも松森さんが投げ出すことはない。
「変えていくためには、結局は自分から社会と関わりを持って働きかけていかなければならないと思うんです。その中で、ちょっとずつでも変わっていけばいいなと思う。今、フリーランスで仕事を始めてから10年くらいですが、10年もずーっと続けていけばちょっとずつ変わっていくことがあります。
『CMにも字幕をつけてほしい』ということは16年ほど提案し続けています。 16年ずっと言ってきて、やっとここ数年で、実現に向けての動きがでてきましたよ。この活動は今や私のライフワークになっています。」
その思いの強さは、コミュニケーションにおける障害の壁に向き合い続けてきた自身の人生に起因する。人と人との関係やコミュニケーションを拡げていくには、まず当の聴覚障がい者自身に人間としての魅力があるかということも大切だ。相手から興味を持ってもらえるような自分であれば、自然と理解も関係も深まっていくからだ。
しかし、その魅力自体が伝わることを阻害するバリアを、「環境」がつくっていると松森さんは指摘する。
「結局は障害うんぬんよりも、人間として魅力があるかどうかだったりするんですよね。ただ、どんなに魅力がある人でも、コミュニケーションのバリアがあると、それを発揮できない障壁となるのも事実です。だからある意味、『障害って環境がつくる』ものでもあると私は思います。周囲の環境さえ整っていれば、障害を障害と感じずにのびのびと、自分らしく生活できますからね。自分の周りに、常にそういう環境を作っていきたいなと思っています。」
コンサルタントの仕事と並行して、聞こえないことへの理解を深めるための講演やTV出演などの活動も地道に続けている。
「聞こえる世界と聞こえない世界をユニバーサルデザインでつなぐ」と題した講演会は、聞こえないことやユニバーサルデザインの事例紹介、手話や聞こえない子育てまで、幅広く分かりやすいと定評があり、全国各地で行っている。
取材の途中、手話カフェ「Sign With Me」に7名の女性グループが来店した。一見普通のお母さんたちだが、手話を使って、なんと井戸端会議を始めた。
彼女たちは何者か?!次回をお楽しみに!
-この連載の記事-
← 第1回★星の音が聴こえる世界
→ 第3回★地道に種まいて、育てて、増やして、拡げて、続ける
→ 第4回★障害の向こう側にある、コミュニケーションの拡がりと深みの世界
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