第1回「かけらな、ぼくの、ひとりごと。」
- 共同執筆
- ココカラー編集部
■【ダイプラ!-半径3メートルから考える、ダイバーシティ・プランニング日記】
第1回「かけらな、ぼくの、ひとりごと。」
●「もういちどいって。」ってなんどもはいえないものよ。
●てんねん?ほんまはきけてへんねん。
●ぶちょう。かみざですが、きこえるせきにうつっていいですか。
●わかりやすい しょうがいなら よかったのになんて。
●なんとなくごまかせるくせがついた。いいのかわるいのか。
これらのコピーは2年前、小耳症バンドmim(http://www.mim36.com/)のLIVE告知のために書いたものだ。
小耳症とは、生まれつき耳が小さく、聴覚に障害が出ることも多い症状。あまり知られていないこの障害について知ってもらおうと、 小耳症本人たちのバンド『mim』は結成され、僕はボランティアで広報を手伝うことになった。その際に、当事者たちの聞き取りずらさを読みにくさに変換し、あえてひらがなだけを使ってコピーを書いた。そして結果的に、このLIVEはテレビや新聞でも取り上げられることになった。ではなぜ、こんなコピーをぼくが書くことになったか。それは、何を隠そう自分自身も同じ境遇だったからにほかならない。
子どものころ、ぼくは自分の中の「普通じゃない」部分に悩んでいた。それは、ぎょうざのように折りたたまれた小さな右耳。『小耳症』、難しくいうと先天性外耳道閉鎖症。約6,000から10,000人に1人の確率で生まれる先天性奇形である。僕は鼓膜がふさがったまま生まれ、右耳が聞こえなかった。また両方の耳が小耳症である場合もあるだから子ども心に、なんだか自分が欠けた人間に感じて、自信が持てなかった。だから保育園の頃、僕は男なのに髪を長くおかっぱにして耳を隠していた。「なにこの耳!へんなの!」とか友だちにからかわれないかビクビクしていた。思えば、傷つかないように自分の殻に閉じこもり、世の中に興味を持てない子どもだったと思う。
ただそんなある日、小学生だった自分に転機が訪れた。それはいつもの床屋さんでのできごと。思いがけず髪を切り過ぎていびつな耳が露わになった。「やってしまった・・」と思った。こんな耳で学校にいかなければならないからだ。だけど、これはある意味自分を変えるチャンスでもあった。いつまでもビクビクと隠し続けることは所詮無理なのだ。だったら、この小さな耳をまるごと受け入れて、自然体の自分を見せていくほうがいい。「なんで、そんな耳してるの?」と聞かれたら素直に答えればいい。こうして、ありのままの自分を受け入れる覚悟ができたら、ふっと楽になった。それから2度の形成手術でいびつながらも右耳のカタチはできたが、今も右耳が聞こえないことには変わりない。だけど、聞き取りにくいことがあったらまた聞きなおせばいい。今はそう開き直れるようにもなった。
そして、この耳だからこその発見や経験もある。ささいなことでは、聞こえる方の耳を机にひっつけたら、騒がしい教室でもよく眠れること。また中学生の頃に読んだ本に書いてあったこのような文章にも勇気づけられた。「発想を司る右脳を発達させるには、反対の左半身からの入力が大事。だから意識的に左手で書いたり、左耳で電話を取ったりするといい」つまり自分は左耳からしか音は聞こえないけど、ある意味右脳を鍛えるには持ってこいの環境とも言える。さらにたまたま左利き!単なる思いこみかもしれないけれど自分の進路を考える指針になった。自分が幸運にも広告会社のプランナーという右脳的アイデアを大切にする仕事につけているのも、ちいさなこの耳からの贈り物なのかもしれない。
そう考えれば極端な話、「欠けている人ほど個性的な能力が育つし、人生はおもしろくなる」とでも考えられないだろうか。もちろん同じ症状でも片耳と両耳では深刻さは違うし、もっと過酷な境遇にいるひとはたくさんいると思う。もちろん僕が偉そうに、障害を語れるなんて思っていない。でもひとには、多かれ少なかれ欠点やコンプレックスなど、人と比べて欠けていると感じる部分があると思う。だから、普通じゃない自分の、普通じゃない部分こそ、素晴らしい魅力になる可能性を秘めている。
そんな、かけらなぼくらのひとつひとつの個性をみんなでわかちあえたら、本当に豊かな社会がやってくるんじゃないだろうか。「ダイバーシティ」なんて難しい言葉も、こう考えれば少しは身近に感じられる気がする。「普通じゃないことが普通なんだ、と気づくこと。」ここから、世界は変わっていく。最後に、同じく小耳バンドに向けて書いたこのコピーを紹介して、ぼくのコラムを締めくくりたい。
― まいなすからのすたーと? いいえ、すてきなどらまのはじまり。
文:堤 藤成/Fujinari TSUTSUMI
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