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27 Jan. 2022

「共創」から、新たなソリューションを生み出す~日本パラリンピアンズ協会会長・大日方邦子さん〜

パラアスリートや、パラスポーツを支える人たちに取材し、彼らと一緒に社会を変えるヒントを探るシリーズ「パラスポーツが拓く未来~パラスポーツ連続インタビュー~」。第15回目は、 日本パラリンピアンズ協会会長・大日方邦子(おびなた・くにこ)さんに聞きました。

 

日本パラリンピアンズ協会会長 大日方 邦子さん

東京都出身/3歳の時に交通事故により負傷。右足切断、左足にも障がいが残る。1994年リレハンメルパラリンピックに初出場以来、冬季パラリンピックで獲得したメダル数は通算10個。東京2020大会では、競技大会組織委員会理事、パラリンピック選手村副村長など、招致から開催・運営までかかわる。現在(株)電通グループ フェロー/電通総研 副所長。

 

 

■東京2020大会を振り返って

 

「進化した部分」と「進化しにくい部分」

 

東京2020大会開催が決まって一番影響があったのは、パラスポーツの管轄する省庁が文部科学省(2015年11月~スポーツ庁)になったことです。これによって、各競技団体への国からの支援が増え、選手の競技環境の整備が大きく進みました

また、選手自身の環境では、企業や民間の方々にパラスポーツを支援しようという機運が高まり、サポートも増えたことが大きかったですね。各競技団体や日本パラスポーツ協会を支援するスポンサー企業も増え、さまざまな競技大会や体験イベントが開催されるようになり、さらに、パラアスリートの雇用も拡大したという大きな変化がありました。

 

環境整備という点では、トップアスリートの環境はかなり改善されていますが、地域に根差した活動となると必ずしも大きな進捗があったという手応えはつかみ切れていないのが実情です。

スポーツに限らず、障がいのある人たちが生活しやすい環境については、「ハード/ソフト/ハート」という分け方をする人もいますが、そのハートの部分、「障がいのある人たちへの意識」については、コロナ禍ということもあってみなさんが不便さを感じたりする中で、なかなか進展しづらい部分はあると思っています。

 

そうしたことからも、共生社会の実現には非常に時間がかかることを前提に、ずっとやり続けることが大切だと思っています。そしてどういうことが共生社会になるのか、取り組んでいる人がひとつひとつちゃんと発信していくこと

たとえば「このような問題は、こうすれば解決できるね」と、障がいのある人とない人が一緒に解決していく。「共創」していくことが、共生社会実現への道筋になるのではないでしょうか。東京2020大会を経て、共生社会に向けて進んでいる部分と、なかなか進みにくい部分があったのではないかと思っています。

 

 

■子どもたちに見た、社会を変える力

 

子どもたちに広がる、インクルージョンな姿

 

私は、東京2020大会の大きな成果を、「子どもたち」に感じました。

今回は、テレビやインターネットを通じてパラスポーツ、パラアスリートのことに触れる機会はたくさんありました。その中で大会前から子どもたちがパラスポーツを勉強したり、体験する機会を通じて、子どもたちが「障がいのある人ない人もみんな一緒なんだ」という意識を強く持つようになってきているなと感じました。何よりも選手を「アスリート」としてリスペクトしていて、とにかくその競技や選手に関して詳しいんです。

 

たとえば、選手のポジションとか、ルールとかプレーのことが、子どもたちの会話の中にポンポン出てくる。子どもたちは素直にアスリートとしての選手に憧れ、ファンになっている。そして、その選手が「ただ車いすを使っているだけ」という感覚。まさにこれがインクルージョンです。この子どもたちが、これからの社会を変えるすごく大きな力になっていくのだろうと思いました。

 

「選手村の景色」や「開会式の配慮」に感じたレガシー

東京2020大会 選手村ヴィレッジプラザ ©フォート・キシモト



 

大会中、選手村にいて印象的だったことは、選手たちが本当にのびのびと自然体で生活している様子です。

選手村での生活は、選手たちにとってはある種の日常生活ですが、「障がい」も「歩き方」も「生活の仕方」もすべてが多様で、しかもみんな笑顔で自信にあふれ、あくまでも自然体なんです。その景色を見て、「これが、東京の街でできていることがすごい」と感動しました。そしてこの景色が「日本の街の中でも展開されていく様子」がイメージできた瞬間があって、強く印象に残っています。

よく「バリアフリーの街とはどんな街ですか」と聞かれる時があり、私自身が導いた答えは、「自分が車いすユーザーなんだ」とか「ここに車いすで行けるかな」などひとつずつ考えなくても活動できるということです。その意味でも、選手村ではすごく快適に過ごすことできました。

 

もうひとつ感動したことがあります。私は、開会式にも聖火ランナーとして参加しました。そこで感じたのは、開会式の舞台裏での出演者たちへのさまざまな配慮と入念な準備です。

開会式にはたくさんの障がいのあるパフォーマーが参加しました。その一人ひとりのニーズに合わせて、かつクオリティが高いものにしていくための工夫がすごく感じられました。そこには、障がいのある人とない人が混ざり合って作り上げていく共創の過程があり、「もっとこうすればできるよ」「ここには、こうした準備が必要だ」など、たくさんの知見が蓄えられたのではないでしょうか。その知見を、これから広く外の社会に向けて展開していく。たとえば「一緒に働く時」や「地域で何かを一緒に活動していく時」などに応用する。そういったことが、この大会の素晴らしい「レガシー」だと思います。

 

東京2020大会 開会式 写真中央右端が大日方さん ©フォート・キシモト

 

 

 

■パラアスリートのこれからの活躍

 

パラアスリートは、有形・無形な価値をもって企業活動に貢献できる

 

東京2020大会の開催にあたっては、本当に多くの企業から支援をいただき、パラアスリートの環境は随分変わりました。

私が感じた企業支援の一番の変化は、「アスリートとしての活動」を、所属先の企業が認めてくれるようになったことです。

そして、いまでは「パラアスリートへの経済的支援」にとどまらず、ほかの社員とのコミュニケーションづくり、さらに事業展開も含めてパラアスリートの活躍の場を広げる企業も増えてきたと思います。こうしたことは、パラアスリート自身にとっても、「アスリートとしてのキャリアを終えた後の人生設計」を考えるうえで、大きな支援活動になっているのではないでしょうか。

いろいろな企業の方々とお話しするなかで「企業内で多様性を反映していくには、障がいのある人も含めて多様な人が社内に2割程度いるようにすることが必要」というお話も聞いていますので、この動きは今後も進められていくと思われます。

 

私としては、これから企業においてパラアスリートが活躍する分野は、有形なもの、無形なものを含め、たくさんあると思っています。

有形の価値という点では、事業に対する直接的な貢献で、売上高を伸ばしたり、ユーザーを増やしたり、サービスの向上などがあります。一方、無形なものは、一緒に働いている人にいろいろな気づきを与えられること。パラアスリートがいることで、社内の雰囲気がやさしくなったり、社員みんなのモチベーションアップに貢献できることです。

 

 

障がいのある人の課題解決が、企業や社会への貢献につながる

 

障がいのある人たちの「困りごとや課題」には、すごく大切な視点や改善点のヒントがたくさんあると思っています。ですから、そこをもっと拾っていけば、より良い製品づくりにもつなげられるのではないでしょうか。そうした障がい者のニーズへのきめ細かな対応は、高齢化社会の中で体が動きにくくなった方々への対応にもつながっていく。結果的にバリアフリー化が進みますし、ダイバーシティ&インクルージョン、共生社会の実現への大きな力にもなると思います。

 

また、障がいのある人が貢献できる領域は、製品やサービスばかりでなく、街づくりにも、建物やお店づくりにも広がり、その開発段階から携わることも今後増えてくるのではないでしょうか。たとえば、スポーツクラブとかの運営も、障がいのある方や高齢者の利用をビジネス機会として捉えた場合、パラアスリートがその立上げから運営まで携わることが大いにあり得ると考えられます。つまりこれらが、パラアスリートが持つ多様な価値だと、私が感じていることです。

 

 

■共生社会の実現に向けた大切な一歩

 

日常生活の中で、周囲に目を向けることが大切

 

先ほども言いましたが、共生社会の実現には時間がかかります。大切なことは、私たち一人ひとりがまず一歩前進することです。たとえば、皆さんの周りを少し見渡してみてほしいです。街を歩いている時に、周りをちょっと見まわすゆとりを持っていただきたいのです。そして、困っている人がいたらやさしく目を見て、笑顔で「お手伝いしましょうか」とひと声かけていただけると嬉しいです。そのちょっとした行為でみんなが温かい気持ちになる、小さなことですが本当に大切なことだと感じています。

困りごとは日常の生活の中にあります。私は、その困りごとのひとつひとつを解決して、いろいろな人が前に進んでいけるように役立ちたい。そうした経験のひとつひとつの積み重ねが、自分の成長そのものだと思っています。

 

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競技者という立場、そしてアスリートを支える立場としても、長年パラスポーツ、パラリンピックに携わってきた大日方さん。

豊富な経験を生かした分析的な視線は、共生社会の実現に向けて、そのプロセスにおける「共創することの大切さ」に注がれていました。そういった姿勢は、ご自身の開会式の参加でも強く感じられ、「共創」に向けた取り組みこそが、東京2020大会のレガシーになっていくのでは、と言われています。大日方さんの言葉を通して、「レガシー」ということの重要な意味にも気づくことができました。

大日方さんの今後の活躍に期待が膨らむ一方で、同じ社会に生きる一員として、多様な方々と一緒に作り上げる「共創」の過程を大切に、困りごとを一つ一つ解決していく力になり、共生社会の実現を目指していきたいと思います。

 

 

取材・執筆:桑原寿、吉永惠一、斉藤浩一

編集:大塚深冬

取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor

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