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Nov.

2024

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18 Mar. 2022

ソフトバンク株式会社主催「ショートタイムワークで柔軟に働く」セミナーレポート

細川萌
プランナー
細川萌

今回のセミナーでは、多様な人が前向きに働くことができる社会に向けてそれぞれが考えていくきっかけ作りを目的とし、現在の世の中にある具体的な事例や仕組み、今後のビジョンをお話しいただく講演と、登壇者とモデレーターによるトークセッションが行われました。

 

基調講演

「多様な人々が共に働く」を実現する超短時間雇用とその地域実装モデル

東京大学先端科学技術研究センター 准教授 近藤 武夫氏

近藤先生は、これまで障害のある方の教育や雇用のインクルージョンを研究されており、障害がありながら一般企業の中で柔軟に働くには、現在も「色々な壁」が残されているという問題から、「超短時間雇用」の取り組みを開始されました。

特に神奈川県川崎市や兵庫県神戸市、東京都渋谷区ではすでにモデル実装を終え、就労移行のサービスとして実装しています。障害のある方を出発点として取り組みを進める中で、例えば75歳以上の高齢者や引きこもり、失業者や学生の方などたくさんの方が、自由に働ける働き方や地域・環境を作ることができれば、これまで働きたくてもどうしても働けなかった方も包摂できると考えているとのことでした。

モデル構築では、日本の働き方の中で「厚い壁」になっている、2つの点に注目されたそうです。まず1点目は長く安定して働くことを前提にしていることです。長時間または長期間安定して働けないという方は雇用対象になりにくいという制限があります。もう1つの特徴は、障害者だけに限らず、採用される時に職務定義を作る習慣がないということです。雇用する側が臨機応変に何でもできる人を期待してしまうと、特定分野だけで非常に高い能力がある方は雇用されにくい状況になってしまいます。そこで超短時間雇用という雇用モデルでは、6つの定義を作って取り組みが進められています。

超短時間雇用モデル(@東京大学先端科学技術研究センター 准教授 近藤 武夫氏)
(@超短時間雇用モデル/東京大学先端科学技術研究センター 准教授 近藤 武夫氏)

中でも一番大事にされていることは、週3、4時間だけ働きたいという方が自由に仕事を選べるような、超短時間雇用を創出する「地域システム作り」。そのためにもそれぞれの地域で企業どうしがつながり、それを地域全体で支えていくような働き方作りが今後必要だと考え、取り組みが続けられています。

 

ご講演①

「江戸時代にヒントを得た【特業】という新しい働き方」

一般社団法人障害攻略課 理事 澤田 智洋氏

世界ゆるスポーツ協会代表理事および障害攻略課理事でコピーライターである澤田さんは、32歳の時に生まれた息子さんに、先天的に視覚障害があることが分かったのをきっかけに、自分の働き方を変えてみよう、彼の力になれるような仕事をしたいという想いから様々な活動をされています。

初動として、障害のある方約200人に会いに行き、インタビューを繰り返していった澤田さんは、様々な気づきがあるなかで、一番大きかったのは「医学モデル」と「社会モデル」という考え方だとお話しされました。

たとえば脳性麻痺が原因で車いすユーザーの方が街で段差を乗り越えられない時に、それは障害のあるあなたに責任がありますというのが医学モデルの考え方で、リハビリして健常者化を目指していくアプローチです。一方で、段差を乗り越えられない当事者がいた場合に、それは段差を作った社会の方に責任があるから解決方法としては段差をなくしていこう、つまり個人は変わらなくていいから社会側を変えていこうという考え方が社会モデルです。「あなたは変わらなくていいよ。 私たち(社会)が変わるから。」というメタメッセージが含まれていると感じがすごく柔らかい優しいアプローチだなと思い、この考え方でこれから生きていこう、働いてこうと決意されたそうです。そしてマイノリティ性を有する1人の方を起点に世の中をデザインし直す「マイノリティデザイン」というデザイン法を確立し、現在100近くのプロジェクトが実行されています。

そして仕事においてもマイノリティデザインの観点からいろいろな取り組みをされてきました。そこでヒントになったのは、江戸末期の仕事です。江戸末期には「すたすた坊主」など一見理解できない多様な職業があり、自分のストロングポイントを起点に仕事を発明してしまおうという考え方で生み出されたと予想。その江戸時代的な働き方を「特業」と名付け、一人一人の特色を起点に世界初の新しい仕事を作ろうとするチャレンジを始められました。

江戸時代の職業(一般社団法人障害攻略課 理事 澤田 智洋氏)
(@江戸時代の職業 / 一般社団法人障害攻略課 理事 澤田 智洋氏)

例えば、ユニバーサル農園を推進する「京丸園」では動きがゆっくりとした障害のある女性を起点に、ゆっくりであるほど虫が取れる虫取り掃除機「虫トレーラー」が開発されました。また、審判が大好きで肢体不自由な男の子に、みんなが何か悩みを打ち明けたらアウトかセーフかだけで答えるという新しい仕事を作られました。他にもサイボウズさんやマルイさんとも一緒に障害のある方起点で職業作りを継続的に行い、いろいろな成果が出てきているそうです。

多様性だけ追求すると、障害のある人としての役割しか与えられないですが、「特業」のように人の持ついろんな面を掛け合わせることで、重層的な多層社会が構築されるのではないかと考え、取り組みをされているとのことでした。

特業について(一般社団法人障害攻略課 理事 澤田 智洋氏)
(@特業 / 一般社団法人障害攻略課 理事 澤田 智洋氏)

 

ご講演②

短時間から共に働く~ショートタイムワークアライアンスのこれまでとこれから~

ソフトバンク株式会社 CSR本部多様性推進課 課長 梅原 みどり氏

ショートタイムワークとは、長時間勤務が困難な方が、週20時間未満から就業できる働き方のことです。働く機会の創出を目的として、短時間であれば働ける/社会参加できるという方の初めの一歩を後押しする取り組みとして実施されています。

まず社員一人ひとりの業務を分解し、そこで自分自身が絶対やらなくてはならないものとそうでないものに分けます。そしてそうでないものには、ほかの人にやってもらったほうがむしろ効果的というものがあり、そこにショートタイムワークで働きたい方のニーズをマッチングさせていくというものです。考え方としては、今までの働き方だと人を雇用してから、その後でいろいろな仕事を割り当ててきました。一方でショートタイムワークでは依頼する仕事もあらかじめ明確にして、その業務が得意な人を雇用するという形態です。

この取り組みはもともと体調が一定でない方や、あるいはマルチタスクが苦手だという理由で長時間労働が困難な、例えば精神や発達に障害のある方を対象として2015年から始め、現在に至るまでに社内だけで50名近くの方がこの制度を使って勤務されてきたそうです。

ソフトバンクさん以外にも20社近くに導入が広がってきており、さらに2019年頃からは、障害のある方に限らず、いろいろなニーズを持つ方を対象に試行錯誤始められたそうです。例えば横浜市の事例では、特に女性活躍推進を重点的に取り組まれるなかで、ショートタイムワークを活用してより多くの女性が活躍できるのではというところから取り組みが議論され始めたということです。色々なニーズのある方の社会参加の一助になっていき、ショートタイムワークという働き方が選択肢にある事が当たり前の世の中にしたいとお話しされました。

ショートタイムワーク事例(@ソフトバンク株式会社 CSR本部多様性推進課 課長 梅原 みどり氏)
(@ショートタイムワーク事例 / ソフトバンク株式会社 CSR本部多様性推進課 課長 梅原 みどり氏)

そして、ソフトバンクさんと東京大学先端科学技術研究センター人間支援工学分野では「ショートタイムワークアライアンス」を2018年2月より設立し、新しい雇用システムづくりを目指し、ショートタイムワークの取り組みを拡げていく活動をされています。実施賛同は209法人となり、活動を広げられているそうです。

 

講演の最後に「ショートタイムワーク×闘病」というテーマで、がんの闘病をされながらショートタイムワークで働かれているヒダノマナミさんからもご自身のご経験などご講演いただきました。実際の利用者の声として、「これまでの経験から、気持ちとしてはフルタイムで働きたいけれど、現実的には難しいという人たちに、ショートタイムワークという選択肢が多種多様な業種で普及されていけば、企業と働く人のどちらにとっても嬉しいことになるのではないか。」と締められました。

 

 

最後に登壇者全員に、ファシリテーターとしてcococolorの林が加わり、働き方の多様性についてのディスカッションが行われました。

働くをゆるめて、色んな働き方を受容する社会に

近藤先生によると、ショートタイムワークを実施する上で、大きな問題点になるのは日本の職務定義の曖昧さだそうです。現在の資本主義や競争社会の価値観だと、特に働く上で認められる人の特性は、何かを早く正確に効率よくこなせるかどうかにかなり限定されて、臨機応変になんでもこなせることが雇用の前提になっています。一方で、なにか一つ自分の得意を見つけ、【特業】を活かした働き方ができると、単に働けるだけではなく、より良く・より楽しく・より嬉しく働ける機会が生まれてくると考えます。

そんななかで梅原さんからは、ショートタイムワークもしくは超短時間雇用で、これまでのいろんな当たり前を壊していくことでできてくるのかなとの意見を伺いました。ショートタイムワークアライアンスを近藤先生とソフトバンク株式会社が始めたきっかけは、それ以前に実施していた「魔法のプロジェクト」という障害のある子どもに教育や生活の場面でICTを活用いただき、実践事例として広く活用事例を公開していくことで、子どもたちの能力を発揮できる環境づくりを行う取り組みです。しかし、学習の壁を乗り越えた後に、今度は就労の壁にぶつかってしまったため、それを解決するために始めました。そして、社会を変えていくためには一社だけでなく、依存先を増やすことこそがすごく重要だと考えます。私たちはいろんな企業がその職業を緩めてくれて色んな働き方を受容してくれるって言うことを目指して     いきたいとのことでした。

問題を見失わず、企業や自治体が手を組み働く選択肢を広げること

また、梅原さんは、最近よく耳にする「テレワーク」も新しい一つのスタイルに過ぎないことを忘れてはいけない     とのことでした。障害があり介護が必要な方にはすぐにテレワークを推薦するということではなく、本人が希望する働き方を検討すること、つまりスタイルの部分と職務の本質の部分を両方とも見据えながら考えることが職場としては大事だなと思っています。

そして澤田さんのお話では、澤田さんご自身は新しいスタイルによって選択肢が狭まってしまうことにはならないように、これまでのものを壊すという言葉は使わないように気を付けているそうです。働くをゆるめて、どんどん選択肢が広がっていくっていうのってとてもすごく重要だと考えだと伺いました。

 

そして、梅原さんよりショートタイムワークについて入り口は精神や発達の障害の方でしたが、例えばシニアの方や地域またぎの雇用など今後テーマも広がっていくと考えられます。選択肢を広げるために必要なことはたくさんの企業や自治体が手を組み、必要な人が職務を渡り歩くことができる仕組みを作ることだと締められました。

 

 

多様な人が前向きに働ける社会にするためには、個人や企業・地域など多くの人が手を取り、これまでの「働く」を少しずつゆるめていく必要があると伺いました。この記事を通して、これまで働くことができなかった人が働けるモデルや仕事を作り、働く人が自分の得意を生かせるよう選択肢を広げていく取り組みを知るきっかけになっていただけると幸いです。

共同執筆:田中陽太郎

取材・文: 細川萌
Reporting and Statement: moehosokawa

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