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Nov.

2024

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20 Sep. 2022

生き方と職業に多様性が必要なワケ  映画『丸木舟とUFO』を観て

なにで生きていくか、どこで生きていくか

だれもが去っていく限界集落で

だれもが忘れつつある船大工になった

 

この映画は、首都圏から石垣島に移住し、失われつつある木船(サバニ)づくりで起業した吉田友厚さんと家族の実際の生活・人生の物語です。貧しいながらも、輝いている家族の姿を通して見えてくるのは、伝統技術の継承、過疎地域の活性化、水資源の確保、移住者としての関わりなど…日本の抱えるさまざまな社会課題。そして、作品を通して浮かんできたのは次の問いです。「わたしは、どう生きていきたいか。」

久宇良(くうら)について

 

集落にある吉田さんの造船所

 

久宇良集落は、沖縄八重山諸島に位置する石垣島の北部平久保半島にあり、現在20 数名が暮らしています。かつて1950年代には開拓移民で300名ほどいた人口も、高齢化と過疎化が深刻化している状況。
しかし近年、首都圏からの移住者である吉田さん一家や久宇良出身者を中心に、集落の自然や知恵を用いた観光で地域を活性化する取り組みが続けられています。

 

サバニとは

サバニの写真


サバニとは沖縄の海人(うみんちゅ)が利用してきた伝統的な木造船のこと。鉄釘を使わず、木と木を継ぎ合わせてつくられ、熟練の技術を必要とします。現代では、木造のサバニに乗る漁師はほとんどいなくなり、需要とともに作り手も減少しています。
吉田さんは36歳で弟子入りし、職業の不安定性から友人から嘲笑や心配をされても、サバニづくりを続けてきました。最近では、手作りのサバニでサンセットクルーズなどの遊覧ツアー も行っています。

 

“地に足つけた生活”とはなんだろう?

 

丸木船を製作中の吉田さん

 

作品の中で、吉田さんが自分の生き方について「無計画で無鉄砲である。」と話します。かつて「地に足つけた生活をしたい。」と願って、首都圏から愛媛の農村、そして石垣島に移住してきた吉田さん。これまで色んな拠点と職を転々としたこと、沖縄の小集落で船大工をしようとした経緯は、確かに世間の誰かから見たら無鉄砲なのかもしれません。

しかし現在船大工として伝統技法を継承し、親世代として集落の水資源を子供に継承する吉田さんの姿は、その土地で誰よりも深く根を張ろうとしている人に見えました。その姿に、「人によって、最終どこの土地で、どう暮らしていくかの可能性や選択肢は無限にあるんだ」と勇気をもらいました。

同様に、妻である吉田朱美さんが今の生活について話をしている際の次の言葉がさらに背中を押してくれる気がしました。

 

完成・目標を目指すより、一瞬一瞬を大切にした方が良いんじゃないか

 

いろいろな考え方や生き方があることを知って、取り入れてみるもよし。時期や年代によって、変えてみるもよし。ついつい人は自分のこれまでの成功体験や身近にいる人を参考にすることが多いですが、自分のまだ知らない色んな生き方と暮らし方を知って、試していくことで、はじめて自分に合ったものを見つけていくことができるんじゃないかと思いました。

なぜ生き方に多様性があった方が良いのか。


「東京育ちと集落育ち」

「船大工と農家」

「親と子」

いずれも映画に登場する属性ですが、それぞれ背景や価値観は異なります。何事もお互いの価値観や性格を理解し、関係を築くまでには時間や手間がかかります。住民の少ない過疎地域において、その傾向はより強く、映画の中でもこれまで吉田さん家族が集落に溶け込むまでの苦労やトラブルが語られています。そのような中で、 共感や共生ができてくると、行事での交わりが濃くなったり、造船の仕事や子供の成長を祝福してもらえたり、お互いがその土地でもっと生きやすくなります。

これは担い手の限られる職業についても同じことが言えると思います。内部において、また外からの見え方も価値観が固まりやすくなってしまうと、結果的に昔栄えた地域や伝統技術がどんどん衰退する未来につながってしまいます。自分の知らない文化や多様性を互いが知って、認め合うことができれば、世代や土地を超えていろんな人や文化、職業、地域が今後も活性化して継続していくのではないかと感じました。

 

集落のみんなで船を運ぶ様子

 

何をどう伝え残していきたいか。

公民館で、集落のみんなが星を眺めているシーンがあります。近年集落で密かなブームになっているUFOを呼ぶ住民の方(通称UFOおじさん)の影響です。15年前は集落の誰も彼のUFO目撃談を信じていなかったそうですが、交流を重ねるたびに吉田さん含め、行事の後に空を眺めることが習慣になってきたようです。

 

公民館で星を眺めている様子

 

UFOが見えたか見えないか、UFOなのか違うのか。集落の人にとっては、それはもはや重要ではないように見えます。世代を超えて、集落の仲間で、時間や空間、そして体験を共有することを楽しんでいるように感じました。

世の中には、水資源や地域行事など、無意識的に受け継がれてきたものはさまざまあると気付かされます。中には、ルールなど目に見えないものや外から来た人が引き継いでくれたもの、また外から来たものが混じって新しい伝統になったものもあります。私の場合、自分自身の生き方として、若い世代として、これから何を守って残していきたいか、をつい考えました。地元のお祭り、家族旅行の伝統など、今一度振り返ってみたいと思います。

 

最後に

この映画の冒頭、まず石垣島の雄大な自然に心が掴まれます。先人が私たちに守り残してくれた自然を感じながら、「では自分はどこで、どう生きていこうか」を考えたくなる作品です。特に、首都圏で会社員として働く人やこれからの進路を考える学生に、ぜひ見ていただきたいです。

 

映画『丸木舟とUFO』公式サイト http://belumg2-na-uai.info/marukibune_pc.html


執筆者 稲野辺 海(Kai Inanobe)

取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor

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