超福祉展2017「バリアフリーマップを作ってみよう!」
- 共同執筆
- ココカラー編集部
今年の超福祉展では、渋谷ヒカリエのほかにも数カ所のサテライト会場でさまざまな取り組みが行われました。そのなかの一つ、ケアコミュニティ・原宿の丘で開催されたバリアフリーマップづくりの様子をお伝えします。
「バリアフリーマップ」って?
このイベントの最初に行われたのは、アテネ・パラリンピック水泳競技の400m男子自由形リレーの銅メダル獲得者・杉内周作選手による講演でした。杉内選手は26歳の時に網膜色素変性症を患っていることが判明し、身体障害者水泳の競技生活を始めました。現在は現役を引退し、後輩の指導育成に力を入れています。
夢をもって挑戦することや感謝の気持ちを忘れないことの大切さを伝えた杉内選手。講演では、網膜色素変性症を患った人の視界がどんなふうに見えるかなどを、スライドを使って説明します。そして、それを受けて、いよいよ「バリアフリーマップ」作りのチャレンジ。
バリアフリーマップは、その施設やエリアにどのようなバリアが存在し、同時にどんなバリアフリー機能が備わっているのかを、利用者が簡単に知ることができる地図です。実際にバリアを抱える人の視点でこの地図を見てみると、普段気にも留めていないようなことに気づき、街の見え方も変わってきます。
特に渋谷の街は急勾配の坂道が多く、人ごみをかき分けながら進む必要があるため、車いすユーザーは敬遠しがち。今回はそんな渋谷の街でのマップ作成とあって、参加者もいっそう気合が入ります。この日参加していたのは、小学校5〜6年生の児童とその保護者を対象に、事前参加を募った皆さんと関係者を含めて約40人。
バリアフリーマップづくりを指南してくれたのは、「オリンピック・パラリンピック等経済界協議会」のメンバーの方々でした。オリンピック・パラリンピックを経済界から盛り上げるために、協議会が力を入れていることの一つが「バリアフリー」。全国各地でバリアフリーマップづくりに関する支援や車いす体験、障害について学ぶシンポジウムなどを開催しています。
協議会の方の説明を受け、ここからはいよいよ参加者のフィールドワークによるマップ作成です。
渋谷の街の、気づかれざる “バリア”とは?
マップづくりは参加者が4グループに分かれ、それぞれに協議会のサポートメンバーが何名かつく形でスタートしました。フィールドワークは約40分。この日の参加者のミッションは、「障害のある人の視点を体験する」「バリア情報の収集」「収集した情報をもとにマップをつくる」の3つです。
子どもたちがメインで行なうのは、急な坂道や狭い歩道、段差、障害物など、経路のなかで特に障害のある方にとってのバリアと思われる箇所をメモして撮影すること。
大人はタブレットを使って、坂道の傾斜が5%以上あるかないか、段差が2cm以上かどうかなど、国が定めた基準でバリア情報の詳細を登録していきます。
フィールドワークのなかには、車いす体験もありました。操作に慣れていないと、まっすぐ前に進むだけでも一苦労! 特に坂道や段差は、車いすユーザーにとってなかなかの障害です。
「路面のわずかな凹凸を上がるだけなのにこんなに大変だとは思いませんでした。体重移動の感覚がつかめなかった」と、子供と一緒に参加していたお父さん。小学5年生の女の子は、「坂道を上がる時に力が必要で腕が筋肉痛になりそうだった」と感想を教えてくれました。
協議会の方によると、実際の調査としてバリアフリーマップ作成を実施する場合は、集中して1日がかりで行なうとのこと。そうすると1日で1人当たり10kmほど歩くことになるので、結構大変な作業なのだそうです。
マップづくりと「これからできること」
フィールドワークを終えて、原宿の丘で気づいたことを共有したあと、「マッピンドロップ」という地図作成サービスを使ってのマップ作成が行われました。各チームが収集したバリア情報や各人の気づきを参加者全員で共有し、協議会の方が該当項目を地図上に落とし込んでいきます。
「道がでこぼこだった」「横断歩道はあったのに信号がなくて、いつ渡っていいのかわからなかった」「坂道が急だった」などのバリア情報のほかに、「歩車分離されていて通りやすかった」など、バリアフリーへの気づきもあがりました。
こうして子どもたちによる情報と撮影した写真が反映されてできあがったのが、こちらのバリアフリーマップ。印刷され、一人ひとり持ち帰ることができます。
大人がタブレットを使い入力したデータは、公式なバリアフリーマップのデータにするかどうかの検証が今後行われるそうです。
ある保護者の方は「坂道をなくすことや道を広くするなどの対策はすぐには難しいかもしれませんが、標識など人の手で変えられる部分は変えていくべき。そこからバリアフリーがどんどん一般化していくのではないかと思いました」と感想を聞かせてくださいました。「今日発見したことをもとに、オリンピック・パラリンピックで多くの人をサポートできる人になってほしい」という協議会の方の言葉で、バリアフリーマップづくりは終了。この日の「気づき」が一過性のものにならないように、2020年を迎えられたらと感じました。
できあがったバリアフリーマップを片手に記念撮影
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