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25

Nov.

2024

interview
18 May. 2018

「ひとりを起点に、新しいファッションを作る」 「041」FASHION始動【後篇】

 

後篇)

一人ひとりがディープ・ラーニングする社会に

 

澤田:粟野さんは長年、服の開発やデザインに関わってこられていますが、今回のプロジェクトで目から鱗が落ちたような瞬間ってありましたか?

 

栗野:全部と言えるかも知れません。自分が今まで知らなかったことに気づく機会って、ありそうで割と少ないですよね。いままでにコミュニケートしたり考えることができなかった相手との接触や会話が生まれることって、自分がexpand(拡張)することにつながっていく。

 

澤田:今回、「フレアにもタイトにもなるZIPスカート」開発の起点になった関根さんという方は、車椅子で生活する上でいろんなファッションを諦めて生きてこられたと思うんです。床ずれを考えると、ボトムスは身体にフィットするスキニーパンツなどに限られてくる。そうするとデザインも限られてくるので、どうしても色も地味目になる。ところが、今回彼女にぴったりな赤いスカートができたことによって(前篇参照)、明るいヴィヴィッドな色味の服も今後選んでみようかと思って下さったみたいで。それってすごいですよね。新しいスカートが生まれたことで、彼女の中に新しい自信が生まれた。

悩みを持っている人がいるなら、丁寧に向き合う。それは終わりなき旅だったりするんですよ。それが大変でもあり面白いところ、言うならば人間が行うべきディープ・ラーニング(深層学習)かなと。僕はディープ・ラーニングはAIだけではなくむしろ人間がさぼらずにすべきだと思っています。誰かひとりの悩みと深く向き合い、考え尽くし、解決に向かうことで、社会が1ミリずつよくなっていく。

 

Social WEnnovators(ソーシャル・ウィノベーターズ)澤田智洋さん

 

永遠の未完を創造し続ける

 

栗野:今の社会は、ほぼ全員が不自由を抱える方向に向かっていますよね。一億総difficulty(困難)な時代なのかなとも思います。そのdifficultyに気づくべきだと思うし。完璧な問題解決なんて絶対ないんですよ。完璧なものしか世に出しちゃいけないんだっていう発想自体が、企業の頭が硬直化する原因でしょう。「欠陥のないプロダクツ」という名の「欠陥だらけのプロダクツ」になっている気がするから。まず、出して、それから軌道修正したりすればいい。もっと人々の考え方が変わるといいですよね。

 

澤田:人も、永遠の未完ですよね。僕は人はジグソーパズルのピースだと思っていて。強みが膨らみ部分、弱みがへこんだ部分だとすると、一つひとつのピースはある種凸凹でいびつで。だからこそ僕らは、補完しあって、重なり合って、未完から脱出するっていう試みをするわけですよね。すべてが完璧で標準化されてしまうと真四角なピースになってしまって、相互関係が生まれていかない。でも、それって幸せだっけ?ってことなんですよね。みんながdifficultyに直面しているし、みんなが未完である。そこからスタートできると、結構日本って変わるんじゃないかなって。失われた25年って言われるけれど、また取り戻せる。

 

ユナイテッドアローズ社 上級顧問 栗野宏文さん

 

栗野: アウトサイダー・アート(*1)っていうのが、アートにとってすごく頭の切り替えがシフトチェンジできるきっかけをくれるものと僕は思っているのですが、ファッションにおけるアウトサイダー・アート的思考もあったりすると捉えています。たとえば、視覚障害の人と自由に洋服を選んだりすることって、アウトサイダー・アート的な「これ、おもしろいな」という結果がでる可能性があるのでは、と。「ネイビーのブレザーにはグレーのパンツが合います」的な定型提案から開放されますよね?あるいはもっと言葉をかえて「カレーライスを食べているときみたいな色とアイスクリーム食べている色の組み合わせなんです」とかって、ファッション言語としても。おもしろいじゃないですか。

 

澤田:「かき氷みたいなカキッとした感じ」とか(笑)。

 

栗野: もちろん、こっちは既存の頭しかないから、からし色だからカレーとかいっちゃうのかもしれないけど。もうちょっとCorrespondence(応答)を繰り返すうちに、こっちの言語的奥行きも組み替えられていくはずです。そうすると、お客さんにとってもめちゃくちゃ面白い提案ができるのでは?それが洒落ていますよ、これがお似合いですよっていう話じゃないってことなんです。我々の既存のナレッジのなかから「間違い」は起こりにくいけれど、そこからなら新しいお洒落が生まれる可能性がある。

 

ファッション業界がインクルーシブな社会変革の種火となる

 

澤田:今回のプロジェクトは、価値転換が早くて流動性が高いファッションというドメイン領域だからこそなせることかなって思いますね。日本のいろんなものが硬直しているなかで、ファッションは常にフローせざるをえない業界。そのフロー力みたいなものを活かして、ひとりの課題に即して新しいプロダクトやサービスをつくっていく。ファッションでできるなら、自動車やインフラでも、というように、他の産業・ドメインがインスパイアされていくと思うので、種火としてのファッションってめちゃくちゃ価値があるなと感じます。

 

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栗野:ファッション業界っていますごく行き詰まっているんです。規模の大きなところが勝ちで、みんながそれを真似しようとするから新しいものが生まれてこない。でもそれこそ、10億人いたら、10億違う格好をしてもいい訳ですよね。だからファッションって面白い。ところが今だったら、例えば‘グッチ的’じゃないとファッションじゃないと思っていたりする。洋服業界人としてこんなつまらないことはないわけです。今のトレンドは装飾性とかいうけれど、みんなが同じ方向を向いて、イノベーションを放棄している。それはファッションにとって自殺行為です。むしろアウトサイダー・アート的なものが入らないと・・・。そこで、新しい刺激や、解体と再構築することによって、ファッション業界全体も前に進むことができるはずでしょう。

 

澤田: 多様な人と接していると、ポジティブショックというか、自分のなかで地殻変動が起こるような感覚があって。そうすると、「自分って正しくなかった」って認識するんですよね。いまはみんなが「自分は正しい」って思い過ぎている社会になっていて、自分と違う価値観を排除してしまうけれど、それがまず間違っていると思うんです。自分っていう人間の前提条件が変わっていくと「自分って正しくなかったんだ」と思える。日本社会全体として、「正しさ」は多様にあるということがわかると、単純にみんな気持ちが楽なるし、いい大人になる。現に、こういうインクルーシブな仕事をしている人は、不思議と包容力や柔軟性があるいい大人が多い気がします。自分はまだまだなんですけれど(笑)、それってみんなにとっていい。誰かひとりを深く思いやることは、結局は自分貢献にかえってくる。

 

*1.アウトサイダー・アート

西洋芸術の伝統的な訓練を受けていない人が作った作品でありながら「アート」として扱われている作品のこと。

 

“041 FASHION”展示会実施中。

日程:5月16日(水)~18日(金)、21日(月)~25日(金)
時間:11:00-16:00 ※16日(水)のみ13:00-16:00
場所:東京都港区東新橋1-8-1 電通本社 1Fエントランス
※オフィスフロア外での展示のため、どなたでもご覧いただけます。
※会場に試着室はございませんので、ボトムスのご試着は承りかねます。

 

取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor

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