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29 Oct. 2018

持続可能な特例子会社。その経営戦略を探る(前編)

特例子会社って何?

2018年10月現在、日本の民間企業では2.2%の障がい者法定雇用率が定められています。
これを達成するために各企業で様々な取り組みが行われていますが、代表的な手段として特例子会社の設立が挙げられます。特例子会社とは、事業主によって障がい者の雇用促進・安定を図るための特別な配慮をするために設置された子会社であり、一定の要件を満たせば、特例子会社に雇用されている労働者を親会社の障がい者雇用率の算定に反映させることができます。(制度詳細は厚生労働省ホームページをご覧ください)

しかし、日本において障がい者雇用はまだまだ「やらなければならないこと」の領域を脱しておらず、「どうやって特例子会社を運営したら良いの?」「障がい者雇用をどうやって進めたら良いの?」と感じている企業が多数なのではないでしょうか?

こうした課題へのヒントになる取り組みをされている企業として、私たちは大手インターネットサービス企業グリーの特例子会社である、グリービジネスオペレーションズ株式会社(以下GBO)を取材しました。

 


グリービジネスオペレーションズ株式会社 企業情報
設立:2012年5月1日
社員数:50名(健常者スタッフ6名含む)
代表者:代表取締役社長 福田 智史

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(エントランスの様子。グリー本体と共通のロゴが使われ、 白基調のオフィスなどコーポレートアイデンティティも統一されている)


「断る仕事」を決める

GBOでは、「能力を最大限に発揮でき、仕事を通じ自律的に成長し続けられる会社を創る」という企業ビジョンのもと、2018年10月時点で50名(健常者スタッフ6名含む)の社員が働いています。障がい者の社員のうち8割が発達障がい、その他にもうつ病の社員や、弱視など身体障がいを抱える社員も在席しています。
GBOでは障がいを持つ社員が安定して働くための環境づくりや工夫がいくつもあります。そのひとつが「断る仕事」の基準を明確に決めることです。具体的には、極端に納期が短い仕事・納期必達が前提の仕事・電話対応が必要な仕事の3つとなります。これは仕事によって社員に過度にストレスがかかるようなことの無いようにするための配慮となります。
業務は、グリーグループ各社から受託しています。例えばゲーム広告バナーの画像加工やゲーム内のアイテム名や技の名称考案、その他データ入力や調査などの管理部門から受託した業務などです。

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(左:オフィス内の様子、右:業務イメージ)


社員一人ひとりの特性への物理的・精神的配慮

GBOでは障がいを持つ社員が安定、安心して働けるようにするため、物理的・精神的な配慮が行われています。
物理的配慮では、過集中傾向のある社員などが適宜身体を休められるように仮眠・休憩室を設置していたり、視覚や聴覚などの感覚過敏の社員も負担を軽減して働けるよう執務室でのサングラスやヘッドホンの着用を許可するなど様々な工夫がされています。
また、決まった生活リズムに変化が生じると、体調を崩す社員が多いため、残業が発生しないように業務調整をしています。

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(左が仮眠・休憩室、右がリラックスルームの様子)

また精神的配慮として、社員一人ひとりの特性を理解し、体調を把握できるようにするために定期カウンセリング制度を導入したり、代表自らが行う定期個別面談が実施されています。

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(定期カウンセリング(左)、福田社長との定期1on1面談(右)の様子)


社員が語る、GBOでの働きがいとは

今回は特別にGBOで実際に働かれている二宮さんに、GBOでの働き方・働きがいについて語っていただきました。

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(インタビューの様子 左:インタビュアーの半澤・副田 右:二宮さん)

入社のきっかけは何ですか?

私自身、前職から数えてGBOは4社目になります。
以前は特例子会社での就労経験はなく、一般企業に勤務していましたが、働く中で「なかなかうまくいかないな」と感じることがありました。その中で感覚過敏の症状が出てきた時、原因として発達障がいの可能性があることを知り、専門医に相談し診断を受けました。診断を受けた後、ハローワークから当社を紹介され、入社に至りました。

二宮さんの場合、どのような症状があるのですか?

私の場合、様々な感覚過敏を持っていますが、聴覚の感覚過敏が一番強いです。他の人にとって何でもないような音がとても大きく聞こえてしまうことがよくあります。そのため、どうしても集中したい時はイヤホンをしながら作業を行います。

GBOの働きやすさはどんなところですか?

一般企業では感覚過敏の症状があるからといって「イヤホンをして仕事をしたい」という具体的な配慮を求めても、電話対応ができなくなる等の理由からNGになることが多いかと思います。しかし当社ではそのようなことは言われず、自身の判断で感覚過敏について対処することを許可されています。その他、設備や働き方においても様々な配慮がされているため、とても働きやすいと感じています。

一例として有給休暇を1時間単位で取得できる制度があります。
朝体調が思わしくない時は少し休んでから出社したり、午後体調が崩れた時は早退することも可能です。感覚過敏に体調を左右されることが多かったのですが、このような制度が体調を整えるきっかけとなり、精神的に余裕が生じるようになりました。そうすると、これまでできなかったことにも挑戦するようになり、現在は心身ともに良い状態で過ごせています。

どのような業務を担当されていますか?

2年前に入社して以来、主にゲームやバナー広告で用いる画像をPhotoshopで加工・装飾する作業を担当しています。幼い頃より色彩や画質の微妙な変化など、一般的には判断しづらい範囲の感覚が他人より鋭いと感じていました。今はその感覚を画像制作に活かしています。Photoshopはこれまでの仕事ではほぼ使ったことはありませんでしたが、当社にて依頼を多数対応するうちに自然とマスターしていきました。

チーム内での役割は何ですか?

画像加工チームのサブリーダーを務めています。メンバーは7名で、自分だけでなくチーム全体のパフォーマンスの向上を目指しています。月に3~4回ほどチームメンバー向けにレクチャー会を行い、制作のノウハウを伝えていくよう取り組んでいます。会の準備は大変ですが、スキルが無ければついていけない業務もあるため、メンバー全員のスキルの差を埋められるよう工夫しています。

自発的にレクチャー会を開くとは素晴らしいですね!チームの雰囲気をよくするために意識していることはありますか?

私は人間関係を適切に築くことが難しい特性を持っているため、このことを念頭に置き、相手が何を考えているのか、どう感じているのかを必ず考えるようにしています。メンバーと接する時も相手の特性によって伝え方を変えるよう心がけています。また、発達障がいを持つ人は自己肯定感が低いことが多いので、メンバーには自信を持てるようなメッセージも日々伝えるようにしています。

最後に、今の仕事のやりがいは何ですか?

当社ではクライアントであるグリーからの受託業務を行っていますが、自分たちが制作・考案した納品物の多くが実際のサービスでそのまま使われています。リリース時にはクライアント側で修正が入るものと思っていたので、そこはとても驚きました。
もちろん、それはグリーの一部として任されているということですから非常にやりがいがあって嬉しく思います。一方、プレイしてくださるユーザーの皆様に対して一定の品質を届け続けなければならないという責任感もあり、常に信頼される存在でいられるよう、細心の注意を払って仕事をしています。そのために、自分のスキルも更に高めていきたいと思っています。

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以上、GBOの概要と社員のインタビューでした。いかがでしたでしょうか。様々な取り組みを行い、障がいを持つスタッフも非常にやりがいをもって働かれている様子を知っていただけたのではないでしょうか。そもそもGBOは何を目指して、障がい者雇用を行っているのでしょうか。

後編では代表取締役社長の福田さんに、GBOの目指す姿について語っていただきます。


執筆者 副田真弘(Masahiro Soeda)

取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor

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