外国人と日本の関係性のこれから:kuriya 海老原周子さんインタビュー
- 副編集長 / ストラテジックプランナー
- 岸本かほり
■外国人と日本のこれからの関係を考える
東京23区では、新成人の8人に1人が外国籍、最も多い新宿区では、およそ半数の45.8%が外国籍というデータがあります。
外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理法改正案が可決、2019年4月に施行され、従来認められなかった外国人の単純労働分野への受け入れに道が開かれました。今後多くの外国人が、日本へと移動してくることが予測されます。
今日東京で一日外を歩いていても、外国人に出会わない日はないといっても過言ではないでしょう。グローバル化が進む社会の中で、我々が抱える問題は、言語や文化面の壁だけではありません。国ごとに異なる価値観や宗教、食べ物の制約やマナーなどに対して、日本のそれを教えるだけでなく、他国から学び、認め合い、我々自身が次の時代で生きるための武器へと変えることが必要なのではないでしょうか?
本日は、そんな外国人と日本の抱える問題に対して、一人一人の違いを未来の強さに変える活動をしている一般社団法人kuriyaの海老原さんにお話を伺いました。
■日本にぽっかり空いた穴を埋めるために。
岸本:kuriyaは、一体何をしている組織なのでしょうか?また、そのような活動をされることになったきっかけを教えてください。
海老原さま:日本で育っている16~26歳の外国人の若者を対象にした人材育成の一般社団法人です。具体的には、なかなか日本に馴染めなかったり、孤立してしまいがちだったりする外国人に対して、高校に進学した後の居場所づくりを行っています。例えば、外国人が多く通うといわれる定時制高校の放課後部活動と、kuriyaへのインターンを通じて、働きながら学ぶ場を作っています。
この活動をすることになったきっかけは、私自身がペルー(3~5歳)とイギリス(12~16歳)で育った経緯があり、特にイギリスに行った際、全く英語が喋れなくて自分自身も大きかったので、自分が外国人であるという意識も強く感じていました。両親も英語ができず、差別もありましたが当時言語やコミュニティ面でのサポートをしてくれる大人がいたので、幸い楽しくイギリス時代を過ごすことができました。
日本に帰国後、海外との国際交流を行う外務省傘下の独立行政法人で働いていたのですが、ふと国内の足元の状況を見た時に、小・中学校には、外国人の子供に向けた言語・文化面でのサポートはある一方で、高校生~社会人3年目(16~26歳)の子たちへのサポートが日本はすっぽり抜けていることに気付きました。
東京では中国やフィリピン、ネパールから来る子供が多いのですが、彼らはそれぞれの母語ができるだけでなく、フィリピンやネパールの若者は英語で教育を受けているため語学に堪能です。 まさに今日本が必要としている人材で、将来の可能性に溢れているのにもかかわらず、なかなかそこに注目して、彼らを育てる活動がないということに着目し、ないなら作っちゃえ!ということがきっかけで、kuriyaを設立しました。
これまで、外国人の高校生のみを対象とした中退率などはデータがなかったのですが、昨年度、政策提言として文部科学省に調査の必要性を提案したところ、調査項目の一つに加えてもらうことが出来、外国人の若者は、高校の中退率が一般的な日本人の約7倍、卒業後の非正規雇用も約9倍高いという結果が出ました。これは、とてももったいないことだと思います。これだけ人口減少が進んでいて、人手が足りない、しかもグローバル人材が必要な局面において、日本に眠っているこの子達の存在はとても大きいのではないかと思っています。
岸本:世の中的には、外から外国人の労働力を連れてくるということに注目しがちですが、そもそも中に眠っている素晴らしい人材がたくさんいるから、その子たちをもっと育てようよ!ということなんですね。
海老原さん:そうですね、今日本が必要としているポテンンシャルを十分に持っている子たちが既にいるので、この子達の能力を伸ばしたり、支えたり、ということをやっていきたいと思っています。この問題は同様に香港やマレーシアでも 類似の問題になっていて、2016年には香港とマレーシアとの 国境を越えた交流事業を2年間行いました。
■アートの力で、つながる強さ
岸本:kuriyaさんは、先述の活動のプロセスに、アートという手段を選ばれていますが、その理由を教えてください。
海老原さま:相談できる相手がいない、友達がいない外国人の孤立を解消するために、アートなどのプロジェクトを通して、お互いに学び合う対等な土俵づくりを行えるといいなと思いました。
日本社会では、外国人に対して、日本文化や日本語を教えることをやっている団体は多いです。その中ではどうしても、日本語ができる・できないという枠の中で判断されてしまったり、教える・教わるといった上下関係ができてしまったりしている中で、もっと横のつながり・上下関係のない関係性というものが必要なのではないか、と思いました。
例えば、来日したばかりのフィリピンの子供はいじめられた経験があって本人も自信を失っている状態でした。しかし、彼はダンスが得意だったので、ワークショップで人々にダンスを教える中で、小さな子供の面倒を見たり、年上の友達と仲良くしたりして、どんどん自信をつけていきました。
我々のワークショップの中で明るく、リーダーシップをもって活動している彼の姿を見て、元々彼を知っている大人たちが「この子こんなことができるんだ」ととても驚いていて、いろいろな事情で隠れてしまっていた一面を初めて発見することができたそうです。
また、あるネパール人の子は映像制作が得意で、日本に高校卒業してから来日したので、全く日本人の友達がいない状態だったのですが、映像制作のプロジェクトで力を合わせて一つのものをつくるプロセスを通して、日本人の友達ができたり、自分で映像のワークショップを提供したりする側になりました。自分が教える側になったことによって、普段出会うことができない友達・大人・世界に出会うことができました。そして、それが自分も日本で何かできることがあるのではないか?という大きな自信につながっていきました。
岸本:確かに、日本だと日本語ができないとか、文化を知らないという“できない”部分ばかり見てしまって、それによって見下したり、差別したりということが多いように思います。できない部分ではなく、できる部分にスポットライトを当てて、そこを伸ばしていくというのは、外国人にとっても、そして日本の社会にとっても本当に大切なことですよね。
■外国人が教えてくれたこと、今日本に必要な力とは
岸本:いろいろな活動を通して、海老原さん自身が外国人たちから学んだことで印象深いこと、また、彼らと触れ合う前後で、ご自身がどのように変わったか?を教えてください。
海老原さま:たくましさと瞬発力ですね。元々親の都合で異国での暮らしをしなければならないという境遇の子供たちで、思い通りにならないことの方が多い中で、なにかしら自分のできることを模索して、工夫して道筋を見つけて生きる姿にいつも学ばされています。
日本の社会は何事もきっちり決まっていることが多いのですが、何事も思い通りきっちり動かない国にルーツがあるからなのか、臨機応変に変化していける瞬発力があります。こういう力こそ、今の日本の社会にとって大切なのではないかな、と思っています。
そういった学びや経験を通じて、団体を運営していくうえでも、うまくいかないことに前向きに対応していけるようになったし、どんどんと変化していくことに恐れを抱かなくなりました。
また、彼らと接していると、世の中のひずみや機能不全に陥っている部分を認識することができます。例えば、前述した高校生の支援が抜けている部分って日本人にとっても全く同じで、若者の孤立という問題は、外国人だけじゃなくて日本人・日本社会も同様に抱えているのだな、ということが見えてきます。
■目指したい理想の未来
岸本:最後に、kuriyaさんの活動を通して、これからの日本や日本人にどのようになってほしいですか?理想の社会の姿を教えてください。
海老原さま:外国から来た若者が、「日本で育って良かった」と思う社会になったらと願っています。そのためにも、違うことや変化を恐れずに、チャンスととらえて行動できるといいと思います。外国人は外国人であるまえに、10代、20代の若者です。彼ら一人一人にそれぞれのストーリーがあることを知って、接していける想像力をもった社会というのが、今の日本人や社会にとっても必要なものなのではないか?と思います。
外国人といった枠組みやレンズを外して、アートのようなちょっと違った視点から見ることによって、その人の本当の姿が見えてくるのではないかなと思います。まさに、ダイバーシティ&インクルージョンで、変化を受け入れるためには、まずは他者を真に理解し受け入れる受容性や環境と、自分や社会も同時に変化する勇気が必要になるのではないかな、と思います。そんなに急に遠くの話ではなく、例えば、身近なコンビニや飲食店の店員さんにも外国人がいると思うので、 その人のストーリーに思いを馳せる、といったことでこちら側の行動も変わると思うので、そういった、小さなことから始められるといいのかな、と思います。
これから、ますます外国人が増える中で、日本人と違う考え方・価値観を持つ人々を理解し、いい面を掛け合わせて、うまく混ざり合うことでお互いに強く成長していく。そのために必要なのは、ちょっとした視点の切り替えなのかもしれません。
海老原さん、ありがとうございました!
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