インクルーシブフード①~誰でも、飲みたいものを。とろみ付き飲料自販機~
- 副編集長 / ストラテジックプランナー
- 岸本かほり
インクルーシブフードって何?
インクルーシブフードとは、摂食嚥下障害があるなしに関わらず、みんなが一緒に同じ食べ物を見た目も味も楽しめるように工夫がなされた食べ物のことをいう。
摂食嚥下障害とは、口の中の食べ物をうまく飲み込めなくなる状態のこと。食べ物を「噛む」「飲みこむ」という動作は口の中の筋肉や神経が複雑に働くことによってできており、加齢や神経・筋疾患、脳性まひやがん治療の副作用などによってうまくこれらが機能しなくなると通常食を食べることが困難になる。
私の祖父には、がん治療後の副作用と加齢による嚥下障害がある。元々食べることが大好きで、家族でご飯を食べるときは、最初から最後まで食卓に残り食べ続けていた祖父。しかし、この障害があらわれてから、むせてしまったり、飲み込むときに音がでてしまったりと、人前で食べることや外食するのが恥ずかしいと家族とも一緒に食事をすることを避けるようになってしまった。食事を作っていた祖母は、祖父の分だけは別の食事を用意するなど、準備する側の手間も増えていた。これは、食の楽しみを当事者とその家族から奪いかねない大きな問題だと感じている。
このインクルーシブフードシリーズは、飲み物~食べ物まで、誰もが楽しめるインクルーシブフードの取り組みをご紹介すると同時に、この考え方が世の中に広がり、嚥下障害に苦しむ本人、そして家族の自由な飲食の選択肢が増えることを願って連載を行う。
羽田空港で見つけたインクルーシブドリンク
それは、羽田空港第1ターミナル南ウイング出発ロビーにあった。とろみ付き飲料が選べる自販機だ。
液体は流動速度が速いので、飲み込むときに口からこぼれたり、気道に入ったりしやすく、誤嚥性肺炎に繋がるなど、注意が必要である。飲む液体にとろみをつけることによって、のどを通過する速度を遅くして、その可能性を下げることができる。
そんなとろみをつけるかどうかが選べる自動販売機がなんと羽田空港に設置されていたのだ。
商品はコーヒー、カフェオレ、ココア、コーンポタージュ、抹茶ラテ、塩とライチ、だしなど様々な味に、とろみ濃度を掛け合わせて選択することができる。
何を飲んでいいかわからない人のために、とろみ濃度と味を組み合わせたランキングも。今回は1位の塩とライチ、とろみ濃度普通でいただく。
注文方法はこの手順。①②をとばすと、とろみなしのドリンクが出てくるので注意。
①とろみありボタンを押す
②とろみの濃度を調節する(普通のとろみの場合はそのまま③へ。変更したい場合は濃いか薄いを選択する。)
③好きな商品を選ぶ
初めての人にもわかりやすい、とろみ濃度のイメージ図もある。
これは…美味しい!とろりとしたポタージュのような口当たりが柔らかく、冷たい甘さが口の中にしっかり残る。心なしか腹持ちもいい気がする。ドリンクを飲んでいるというよりは、デザートを食べているような贅沢な気持ちになった。
次回、羽田空港を利用する際はランキング2位のとろみ濃度の濃いカフェオレを試してみたいと考えている。
インクルーシブドリンクという選択肢
世の中には、食べ物や飲み物にとろみを加えて、誤嚥の可能性を低くするとろみ剤がある。嚥下障害のある人やその家族にとっては当たり前のことだが、それ以外の人々はこのとろみが飲食をいかに自由にしてくれるか?を知らないのではないだろうか。
この自販機は、飲食にとろみを必要としている人の存在を知ることができると同時に、ボタン一つで気軽にとろみ付きドリンクを試せる点が優れている。筆者はコンビニや自販機でとろみ付きのドリンクが売られていたらきっと手を伸ばしてしまうと思うほどに、とろみ付きドリンクの新食感が気に入ったのだ。嚥下障害当事者のみならず、他の人達にとっても、選択肢の一つとなり得るのではないか。味だけでなく、とろみ濃度でも飲み物を選ぶことがごく当たり前になる未来が待ち遠しい。
誰でも、飲みたいものを、飲みたいときに飲める社会へ。それは、この自販機のとろみありボタン一つから始まるのかもしれない。
注目のキーワード
関連ワード
-
ブロックチェーンBlockchain
インターネットを通じて情報やデータが場所や時間を問わず瞬時に伝達・交換できるのと同様に、金融資産をはじめとするあらゆる「価値」資産の交換が瞬時に実行できるシステム「価値のインターネット」を実現するための…詳しく知る
-
特例子会社Special subsidiary company
障害者の雇用促進・安定を目的に設立される子会社。障害者に特別に配慮するなど一定の条件を満たすことで、特例として親会社に雇用されているものとみなされる。企業側は、障害者雇用率制度で義務づけられている実雇用…詳しく知る
-
越境ワーカーEkkyo-worker
各参加企業が選定した課題に対し、出向の形ではなく相互インターンシップという柔軟な枠組みで対応することが特徴。社員の学びの場となるだけでなく、多様な見識や経験を持つ社員による活発な意見交換を通して、イノベ…詳しく知る