4人の女性起業家がつくる、私らしい未来
- 共同執筆
- ココカラー編集部
異なる業種、性別、国籍、コミュニティの人々が混ざり合う(「マッシュアップ」する)ことで、参加者へビジネスのアイデアやネットワークなど、新しい一歩を提供するカンファレンス「MASHING UP」。
年に一度開催され、3回目を迎えた今回。そのフィナーレを飾ったのが「起業家ピッチ大会」です。新しい時代にふさわしい新しいビジネスを、今まさに生み出そうとしている4人の女性起業家による、熱のこもったプレゼンテーションを紹介していきます。
#農家と直接つながるオンラインマルシェ「食べチョク」
一人目のプレゼンターは、株式会社ビビッドガーデンの秋元里奈さん。休日の朝などによく見かける、農家さんから朝どれ野菜を直接買えるマルシェのような体験を、オンラインで提供する「食べチョク」というサービスの紹介です。
農家の長女として生まれた秋元さんにとって、畑は遊び場として身近なものでした。しかしある日母親に言われたのは「農業を継ぐな」という言葉。実家の農家は廃業してしまい、就職した秋元さん。変わり果てた畑を見て、なぜ農業をやめざるをえなかったのかを知るため、改めていろんな生産者さんの話を聞いて回ったそうです。
その結果分かったのは、「こだわるほど儲かりづらい」という課題でした。通常の流通ルートでは、多くの中間業者を挟むため農家の粗利は低く、一方で販売価格は固定で決まります。見た目だけで価格が決まってしまうため、味へのこだわりが一切反映されない。この課題を解決するべく、秋元さんは食べチョクの開発をはじめました。
食べチョクでは、生産者と消費者が直接やり取りするため農家の取り分が増え、価格も自由に決められます。サービス上で直接コミュニケーションができるため、農家に直接ファンがつく一方、農家との距離が縮まるため、消費者も実家からの仕送りのような体験ができます。
農家の栽培情報を細かくデータベース化することで、食の好みに合う農家を自動で提案してくれる「食べチョク コンシェルジュ」というサービスへの展開や、農家から直接野菜を仕入れたいという飲食店や法人への対応も進めています。
さらに今後は野菜に限らず、肉や魚、酒への展開も進めていくそうです。
実際に食べチョクを利用している農家の方からは、「これであれば娘に継がせられる」という言葉もいただいたとのこと。
「生産者さんのこだわりが、正当に評価される世界へ。農業では当たり前ではないこの課題に、真剣に取り組んでいきます」という決意の言葉で、プレゼンテーションは締めくくられました。
#AIが恋愛をナビゲートする「Aill(エイル)」
続いてのプレゼンターは、株式会社AILLの豊嶋千奈さん。企業の福利厚生サービスの一貫として提供する、AIがコミュニケーションをサポートする恋愛ナビゲートサービス「Aill」の紹介です。
「恋人がいない20-30代の正社員の大多数は、恋人がほしいと思っている。それにもかかわらず、なぜ恋愛をしないのか?」そんな疑問に対し、独自調査で導き出された答えは、「恋愛で傷つきたくない」というものでした。
目の前の仕事に取り組むなかで、自身のキャリアやワークライフバランスを意識したとき、自分が欲しかったサービスを作ろうと思い立った豊嶋さん。出会いからお付き合いまで、AIが関係進展をサポートするエイルの開発をはじめます。
気になる異性の気持ちとその変化、自分の行動に対する反応を事前予測でき、リアルタイムで行動をアシスト。デートのタイミングだけでなく、大義名分の創出、アプローチ方法のアドバイス、自己開示のやり方までサポートしてくれるから、チャットが続きやすくなります。また好感度もAIが評価してくれるから、事前に進展の可能性を予測し、効率よく異性にアプローチしていくことができます。実際にユーザーに使用してもらったところ、デート成約率は76%、エイルを使わなかった場合の約3倍にもなったとのことです。
企業の福利厚生サービスの一貫として、信頼できると判断された企業の従業員のみが利用できるサービスであるため、ある程度クローズドなコミュニティのなかで安心して異性と出会うことができます。
さらに、エイルが持つコミュニケーション方法のアルゴリズムは、恋愛以外のシーンにも展開が可能。夫婦のやり取りや社内コミュニケーション、リクルーティングなどへの応用も検討されているとのことです。
「仕事と愛が両立できる社会づくりに貢献します」という、未来へのビジョンを語る言葉で、プレゼンは終了しました。
#痛みのない、快適で簡単な乳がん検査を。Lily MedTech
3番目は、乳がん用の超音波画像診断装置を開発する東大発のベンチャー、株式会社Lily MedTechの東志保さんが登壇。
現在、乳がん検査で主に使用されるマンモグラフィー(X線撮影装置)は、人によっては強い痛みを感じたり、乳がんの判別が難しい場合があるなどの弱点があります。Lily MedTechが開発するリングエコーは、どんな女性にも優しい乳房用超音波画像診断装置です。
診断装置はベッド型をしており、中央に丸い穴があき、そのなかにリング型の超音波装置を搭載しています。うつぶせになり、乳房を入れると、超音波振動子が上下に移動しながら3次元画像を取得します。振動子が身体に触れることはないため痛みはなく、裸の乳房を誰かに触られることはありません。また誰でも操作が簡単で、再現性の高い乳房全体の3次元画像が取れるため、診断支援ソフトの開発にも向いていることが特徴です。
Lily MedTechは、機械学習による遠隔での診断支援ソフトも同時に開発しています。リングエコーで3D画像を生成、その画像を元に診断レポートをつくり、それを元に病院が女性に診断結果を返します。マンモグラフィーを正規価格で購入できない、あるいは十分な数のドクターがいない新興国のクリニックをターゲットに、乳がん検査装置自体は安く提供しつつ、遠隔の診断サービスでマネタイズできるような仕組みを作ろうとしているそうです。
現在は、大学や病院の協力を得ながら、臨床研究を進めているフェーズにあるとのこと。東さんは、高校時代に母親をがんで亡くしたことをきっかけに起業されたといいます。「同じような経験を他の方々にしてほしくない。引き続き情熱を忘れずに事業に取り組んでいきます」という言葉が印象的だった、静かながらに力強いプレゼンテーションでした。
#すべては「猫様」のために。愛猫の活動データログ「Catlog」
最後は、株式会社RABOの伊豫愉芸子さんによるプレゼンテーションです。
「毎日寝る前に、横で寝る相棒たちの顔を見ながら祈っています。どうかこの子たちと、一秒でも長くいられますように」という飼い主としての切実な想いからはじまったプレゼン。猫を留守番させている飼い主の81%が心配で気をもんでいるなか、いま留守番対策として使える方法はカメラの設置などに限られています。しかし、死角が多くあまり映らない上に、仮に異常があったとしてもカメラは知らせてくれません。
この課題を解決するために、Catlogは開発されました。
動物にセンサーをつけ、遠方で見えない場所にいるような動物の行動を研究する手法である「バイオロギングサイエンス」を活用し、機械学習を用いて猫の行動を24時間記録。加速度センサーが内蔵されたペンダントでデータを取り、Wifiと接続されたHomeを通してサーバーへ転送。情報をアプリでいつでも見ることができます。ご飯を食べたり、寝たり、走ったりという行動が、ほぼリアルタイムで確認でき、アニメーションによっていつも一緒にいる感覚に。レコード機能では、猫の一日の行動がグラフで可視化されるので、時間があるときにゆっくり確認することもできます。
ペンダントのつけ心地は、とことん”猫様”仕様。伊豫さんの愛猫であるCCO(チーフキャットオフィサー)ブリ丸が試作品段階から繰り返し試着して完成した自信作とのことです。
ローンチ後、1ヶ月で4ヶ月分の販売目標を達成。アプリの有料率も高く、たくさんの飼い主から好評の声が集まっているとか。蓄積されていったデータは今後、ペットの疾病予測や、動物病院・製薬会社と連携して活用していくことも検討中。また猫の行動は万国共通であることから、海外への展開も検討しているとのことです。
最初から最後まで「猫様」という言葉を貫き通した、猫への愛に溢れたプレゼンでした。
#私にしかつくれない未来がある
すべてのプレゼンを終え、最終審査へ。今回優勝となったのは、Lily MedTechの東さんでした。どのプレゼンも素晴らしく、審査は接戦となったそうですが、社会のなかのリアルペインを真正面から解決しようとしている点、女性としての視点が活かされている点が、評価のポイントでした。
今回、4人の起業家の方々の熱いプレゼンテーションを聞いて、共通して感じたことが2つあります。ひとつは、テクノロジーが今までにない選択肢を生んでいるという点。今までにない物流の形、恋愛の形、検診の形、そしてペットとの関わり合いの形。ジャンルは違えど、選択肢が多いインクルーシブな社会を実現するために、テクノロジーが活かされている好例だといえます。
一方で、もうひとつの共通点は、その裏返しとも言える視点で。それは、発展して手が届きやすくなったテクノロジーを何に使うか、そして自身のキャリアをかけて社会に実装していこうと決意できるかについては、起業家自身の想いの大きさにかかっているということです。
それぞれの事業は、起業家自身の経験や、感じた違和感からはじまったものでした。Catlogの伊豫さんは、大学で取り組んだバイオロギング研究、社会に入ってから習得したプロダクト開発のスキル、そしてずっと愛しつづけてきた猫という3つの要素を、どうにか結びつけられないかと考えつづけていたといいます。そんなある日、「この3つをかけ合わせて持っている人は、少なくとも日本には私しかいない」と、頭のなかで「鐘が鳴った」そうです。
「未来を予測する最も確実な方法は、それを発明することだ」
パーソナル・コンピュータの父、アラン・ケイが遺した有名な名言があります。
異なる業種、性別、国籍、コミュニティの人々が混ざり合う時代にふさわしい、インクルーシブなプロダクトやサービスを生み出していくためには、日本人であることや女性であることの前に、一人の人間として、「私」として何を感じ、何ができるのか、何をやりたいのかを考えることが大切なのではないでしょうか。
「未来は私がつくる」という姿勢を体現する4人の未来のリーダーたちによる、一歩を踏み出す勇気を与えてくれるようなプレゼンテーションでした。
執筆者 野村隆文
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