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Jul.

2020

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24 Dec. 2019

編集部が行く!パラスポーツ観戦記_vol.6射撃

杉浦愛実
ビジネスプロデューサー
杉浦愛実

11月9日と10日の2日間にわたり、千葉県総合スポーツセンター射撃場で行われた「第32回全日本障害者ライフル射撃競技選手権大会」。これ以上ないほどの秋晴れのもとで行われた本大会の様子とともに、初めてのパラ射撃観戦で感じた競技の魅力をお伝えします。

 

日本ならではの多様な種目

 

全日本選手権という名の通り、本大会は日本全国の選手が集う、国内最高峰の大会です。パラリンピックで行われるパラ射撃の種目数は13種目ですが、この大会ではそれを上回る17種目が実施されました。
そもそもパラ射撃の種目にはどのようなものがあるのか、ご存知でしょうか?私は射撃そのものの観戦が初めてだったので、競技種目の一覧を目にした時は、正直暗号にしか見えませんでした。


実際の競技種目の一覧表(出典:公益社団法人日本ライフル射撃協会)


種目の違いを理解するだけで精一杯になってしまうのでは…と不安になりましたが、実は意外とシンプル。競技種目名は、「銃の種類」「発射弾数」「射撃姿勢」と性別・障害のクラスで構成されていて、一度理解してしまえばすぐに競技を楽しむことができます。


たとえば「FR60PR MW-SH1」であれば、以下のようになります。

公益社団法人日本ライフル射撃協会等の情報より筆者作成

どの種目も基本的なルールは同じで、制限時間内に決められた弾数を的に向けて撃ち、合計得点の高さを競います。的の中心が満点で、外にずれるごとに点数が下がります。たとえば10m先を狙うエアライフルでは、満点が10.9点で、中心から0.25mmずれるごとに0.1点下がるルールとなります。高い技術力に加えて、1発のミスも許されない状況における高度な精神力も必要とされる競技と言えます。


銃の種類によって、重さ5〜7kg程度の「ライフル射撃」と、1kg程度の「ピストル射撃」に大別され、それぞれに実弾を使用する火薬銃・空気銃と、実弾を使用しない光線銃があります。火薬銃は「ライフル」「ピストル」、空気銃は「エアライフル」「エアピストル」、光線銃は「ビームライフル」「ビームピストル」と呼ばれます。火薬銃には25m、50mの種目がありますが、空気銃・光線銃の種目の射距離は10mのみとなります。

実は、光線銃のビーム射撃は、銃規制が厳しい日本で生まれた種目です。日本で弾を発射する実銃を所持するためには特別な許可が必要となり、競技ハードルが高いため、より多くの人が射撃を楽しめるように開発されたのが光線銃でした。もともと障害者向けに開発された種目ではないため、小学生、中学生、高校生といった学生や射撃入門者も含めて、全国的に幅広く親しまれているそうです。今大会のビームライフルの種目の中には、スタンドにライフルを乗せて射撃をする自由姿勢の種目もあり、クラス分けが無くどんな障害の人でも参加することができるので、身体に障害のある選手も、知的障害のある選手も出場していました。今大会では、パラリンピック種目にはないビーム種目も多く行われていたため、よりバラエティに富んだ種目数となっていたのです。

 

クラス分けは、たったの2種類。姿勢や道具の工夫が、競技性を高める。

 

種目数が多い一方で、驚いたのはクラス分けがほとんどないことでした。ライフル種目はSH1(下肢障害)とSH2(上肢障害)の2種類、ピストル種目はSH1(上肢または下肢障害)の1種類のみのクラスで競技が行われます。とはいえ障害の重さは一人ひとり異なるので、公平に競えるように、各クラスの中で障害の重さに応じて使用できる補助具や背もたれの高さが規定されています。たとえば下肢障害の選手であれば、体幹の障害の程度が最も軽度のAクラスの選手は車いすの背もたれを使用することができませんが、中度のBクラスの選手であれば低い背もたれを使用することができ、最も重度のCクラスの選手は高い背もたれを使用することができます。
 

背もたれを使用する選手と使用しない選手

 

パラ射撃では、射撃姿勢も特徴的です。立位の場合の射撃姿勢は、身体を床に伏せた状態で撃つ「伏射」、しゃがんだ状態で撃つ「膝射」、立った状態で撃つ「立射」の3つに分類されますが、伏せる・しゃがむ・立つといった姿勢を取ることができない選手の場合は、肘の安定度合いによって各姿勢に代わる3姿勢が定められています。「伏射」であれば、車いすに取り付けた台に両肘を乗せること、「膝射」であれば、車いすに取り付けた台に片肘のみを乗せること、「立射」であれば、両肘とも背もたれや膝には乗せずに銃を構えることで、各姿勢とみなされるルールになっています。

FR3×40の種目では、3姿勢で40弾発ずつ撃ちます。競技時間は約3時間にも及び、ライフルのマラソンとも呼ばれるほど過酷な競技です。

片肘のみ台に乗せる「膝射」

両肘とも台に乗せる「伏射」

両肘とも台に乗せない「立射」


また、種目によっては、男女の種別も分かれておらず、性別に関係なく順位が決まります。もちろん体力も必要ですが、遠く離れた的の中心を狙って正確に撃つ集中力も大きく問われる競技だからこそ、身体的特徴が異なる選手も同一種目内で競い合うことができるのです。性別や障害の種類に関係なく横並びで競技を行い、実力差で表彰を受ける選手たちの姿を見て、スポーツとしての間口の広さを感じました。

 

五感で楽しめる生観戦

 

私は、「0.25mmのズレも勝敗に影響してくる射撃の世界では、究極の集中力が求められて、きっと会場には息もできないほどの張り詰めた空気が流れているのだろう…」と思いながら会場に足を運びました。
しかし、いざ行ってみると射撃場には音楽が流れていて、しかも選手と観客の距離も会話ができるほどの近さで驚きました。10mのビーム射撃場では、観客と選手の距離はなんと1mほど。50mの射撃場でも、4〜5mほどしか離れていませんでした。選手の息遣いも伝わってくるほどの臨場感は、他の競技ではなかなか味わえないかもしれません。選手にとっては、会場のコンディションに関係なく集中することが求められます。
さらに、生観戦の魅力は何といっても胸に響くほど迫力のある音と火薬の匂い。五感を使って楽しめるのは、射撃競技ならではの魅力と言えます。

一弾発ごとの得点は、選手の近くに設置されたモニターですぐに確認することができるので、選手の心境を推し量りながら観戦するとメンタルスポーツとしての面白さも感じることができます。

 

観戦者用の通路に設置されたモニターでは累計得点も見ることができ、途中経過もすぐに分かります。

 

 

目の前で繰り広げられている勝負の戦況がその場でリアルタイムに数値化されていくので、観戦者は選手以上に戦況を把握することができ、気がつくと応援にも力が入ってしまいました。

 

オリジナリティの高さに注目!

 

パラ射撃ならではの魅力は、選手一人ひとりのオリジナリティの高さ。
先述の通り、クラス分けがほとんどない分、道具の工夫が重要になります。使用する銃の形や長さ、重さなどは、ある程度の規定はあるものの、厳密な規定はなく、既定の範囲内で選手の体格や射撃姿勢に合わせてパーツを交換したり調整したりできるようになっています。持ち手や引き金などには、選手一人ひとりの身体の形や力の入り方に合わせて、様々な工夫が施されているのです。自らが使いやすいようにカスタマイズされた銃は、選手と一体化しているようにも見えてきます。

銃の形や持ち方も、一人ひとり異なります

 

おわりに

 

クラス分けが少ない分、選手一人ひとりにとって撃ちやすいようにカスタマイズされた銃の多様性や、射撃姿勢・補助具の工夫が見どころのパラ射撃。一発のミスも許されない中での選手それぞれのリズムや息遣い、そして大迫力の音や匂いは、会場に行って初めて感じることができる、とても贅沢な体験でした。老若男女が極限の精神力でライバルと自分自身に挑む、パラ射撃の引き込まれるような世界、ぜひ競技会場で体感してみてください。

取材・文: 杉浦愛実
Reporting and Statement: manamisugiura

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