アートが引き出す、ポジティブな私。〜臨床美術プログラムで、個性を楽しむ。
- 副編集長 / クリエーティブディレクター/DENTSU TOPPA!代表
- 増山晶
■臨床美術って、なんだろう。
通信販売会社のフェリシモで、アートのワークショップ体験をしてみた。
臨床美術という言葉は、最近あちこちで耳にするようになった。小さな子供の習い事だったり、ビジネスマンの研修だったり、高齢者のデイケアでのアクティビティであったり。 もともと、臨床美術とは、脳を活性化するために開発された芸術療法(アートセラピー) のひとつだという。絵やオブジェなどの作品作りを通じて、認知症の予防や働く人のスト レス緩和、子供の感性教育に寄与する・・・でも、どうやって?学校の授業で習う絵画の 時間と、どう違うの?という疑問が生まれた。
cococolor からは、夏に東京で開催されたワークショップにもメンバーが参加している。絵を描くこと以上に、どんな魔法をかけているのだろう?神戸のフェリシモ本社で定期的に ワークショップが開かれていると聞き、もともと絵を描くことが好きな関西メンバーも、 会社帰りに参加してみることにした。ルミナリエが彩る街並みを抜け、ワクワクしながら 会場に向かった。
■「Rin-b!(リンビー)」に込めた思い。
ワークショップの前に、同社内の臨床美術士が集まってつくった部活「Rin-b!(リンビー)」主催の木野内さんから、臨床美術をフェリシモで展開することになった、その思いと経緯を訊いた。
もともとチョコレートバイヤーとして働いていた木野内さん。臨床美術に出会ったきっかけは、肉親の介護に向き合った時だという。
「絵でも描いたら気分転換になるのに、と思っていたものの、なかなか日本人は自由に絵を描こうといってすんなりできるものではない。見送ってから臨床美術の存在を知り、これだ!と思い、悔いを残した。そして、知っていれば、どれだけたくさんの人が救われるだろうと思い、臨床心理士になりました。私の原動力は、それだけ。」
「今日、体験してもらうと分かるが、人との違いが あっていい。そう気づいた時に、すべてのことがうまくいくようになる。私もさまざまなことを受け入れることができるようになり、自分の思いを人にも説明しやすくなり、お客様とのコミュニケーションもうまくいくようになった。」
「Rin-b!(リンビー)」は何を生み出しているのだろう?
「一般的には知られていない臨床美術を、通信販売という形態でのコミュニケーションの中で、キット化することで、いま全国で1万人に知ってもらえた。まだまだ途上だが、2006 年から現場でのワークショップの取り組みを続けている。」
「カナダのショコラティエで臨床美術ワークショップをした時、日本人、カナダ人、おばあちゃん、子供、発達障害の方もいた中、みんなお互いにリスペクトしあえる関係が築けた。臨床美術は、認知症ケアなどから始まった、もともとは医療。私は、サラリーマンにもいいと思っている。会社としては、どなたでも楽しめるキットを作っていきたい。」
「『Rin-b!(リンビー)』は、部活の名前。7 年間販売してきたキットを核に、臨床美術士の資格までは取らないまでも、講習を受け、自身のコミュニティで広めてくれる人を増やしていこうとしている。」
筆者の亡父もケア施設で絵画アクティビティを行っていたが、ただ描くことと、臨床美術 のプロセスで描くことはどう違うのだろう。みんなで描いて、みんなで認め合うことが大事なのだろうか?そこで生まれるものは?腑に落ちない表情の私に、木野内さんは満面の笑みで語りかけた。
「今日体験して、ぜひご自身で答えを見つけてください!」
■「さあ、りんごを食べましょう。」この一声から、今まで見たことのない体験が始まった。
まずは、りんごを味わい、触り、眺め、嗅ぎ、じっくり観察するところからスタート。
「りんごって実は、五角形」など、新しい気づきも。
オイルパステルからりんごの中側の色を 2 色選び、白い画用紙へりんごのカタチをイメージしながら色を広げていく。 さらに、りんごの外側の色を 5 色選び、どんどん色を重ねる。
割りばしを使って塗った色を削ったり、指でこすって色を混ぜ合わせたり、 自分自身が感じたりんごがどんどん現れてくる。
ベビーパウダーの粉を全体的に振りかけて、 手のひらでなじませてテッシュで拭き取ると表面がさらさらに。
描いたりんごを収穫(切り取り)!
りんごに合う台紙を選び、飾りを貼り付けて完成。
■ワークショップを終えて
「Rin-b!(リンビー)」のワークショップ体験を終えて、まず気づいたのは、参加者みんながとてもいい笑顔になっていること。当初の「他の絵画アクティビティとどう違うのか?」という疑問の答えは、肌で理解できた。自分自身の中にある見知らぬポジティブな感情や、「りんごは赤くて丸いもの、だから誰が描いてもだいたい同じ絵になる」という思い込みに気づかされた。
ひとつひとつの作品の素晴らしさを伝える木野内さん。
個性溢れる参加者の作品。
ずらりと並んだりんごの絵に、どれ一つとして同じものはない。そして、それぞれに独自の素晴らしさがある。「自分を含め、良さを認め合う体験」をシンプルに楽しくできた。
久しぶりの「お絵描き」だから、だけでない高揚感は、丁寧に構成されたプログラムあってこそだと感じた。今後も「Rin-b!(リンビー)」のさまざまなコミュニティでの広がりに期待したい。
木野内さん(左から 2 人目)を囲んで。
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〈木野内美里(きのうち みさと)氏プロフィール〉
フェリシモ「Rin-b!(リンビー)」クリエイティブディレクター
<「Rin-b!(リンビー)」ウェブサイト>
https://rin-b.felissimo.co.jp
共同取材:小川百合
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