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6 Nov. 2020

「アダルト・チルドレン」 ―その本当の意味と、助け合いの仕組みを知っていますか。

竹下雄一郎
コピーライター
竹下雄一郎

「アダルト・チルドレン」について、正しく理解をしてみたい。私がそう思ったのは、とある知人がふと、幼少期に複雑な家庭環境と親族関係の中で育ち、その傷をいまだに抱えていることを打ち明けてくれたことがきっかけでした。
実は私自身も、小学生に入りたてのころに両親が離婚し、その後青年期の頃に、周りの「普通の家庭との差」に相当思い悩んだことがあります。その苦悩を私自身は克服したつもりでしたが、過去の記憶に蓋をしただけで、知人のように、何かしら今の人生に影響しているかもしれない―。そんな風に感じた私は、アダルト・チルドレン当事者の自助団体のひとつ、「アダルト・チルドレン・アノニマス」(略称:ACA)を取材させていただくことにしたのです。

 

■「アダルト・チルドレン」(AC)の本当の定義。

お話いただいたのは、ACA西宮グループ(兵庫県西宮市)の代表であるヒロシさん(仮名)。「アダルト・チルドレン」の定義は、「幼少期をアルコール依存問題やネグレクト、虐待などの何かしらの“機能不全”のある家庭環境で過ごし、何かしらの“生きづらさ”を抱えて成長した人間」とのこと。言葉が1990年代に一般にも広まった際、ややもすると“大人になりきれない気質のままの成人”、いわゆる「ピーターパン症候群」的な意味で使われることもありますが、それは正しい理解ではないと主張されます。
ヒロシさんも、自身がいわゆる機能不全問題のある家庭で育った影響で、過度に仕事にのめり込む性格の大人になったと自己分析されています。そして承認欲求やストレスのはけ口として、アルコールや処方薬に過度に頼る日々を送った結果、今度は逆に自分自身が大切な家族に対し、機能不全を起こす存在になっていた過去をお持ちです。そして、依存からの回復の過程で自分自身を見直される中で、ACという概念を知り、その問題と「生きづらさ」が自分にぴったり当てはまることに衝撃を受け、ACAの活動に参加されるようになったとのことでした。

 

■過去や事情、目的は人それぞれ。だから、語り合う価値がある。


自分の中のACとしての性質に気づき、ACAに参加される理由や道のりは、当事者によってさまざまです。女性の当事者のひとり、Mさん(仮名)の場合の抱える「生きづらさ」は、人の顔色を伺って合わせてしまう気質と、それゆえのストレスでした。それが、自分にとって問題であることには学生時代から気づき、過去には様々なカウンセリングも受けた経験があるそうです。しかし、カウンセラーという「立場が自分と違う人」相手には、心から信用して自分の気持ちを打ち明けられず、価値や効果を認めることはできませんでした。
そして背景に自分の育った家庭の問題が影響していることに気づき、ACAに繋がってはじめて「カウンセリングにはなかった、当事者同士という納得感」を感じ、徐々に心を開いていくことができるようになったそうです。「相談できなかった自分が、人に対し相談できるようになり、ときには敵とさえ思うこともあった他人の存在を認め、素直に助けを借りられるように変わった」と、彼女は言います。結果、いまは随分と生きやすくなったとのことです。

 

■ミーティング、そこは「言いっぱなし、聞きっぱなし」の場。

なぜこのように、AC当事者同士で繋がることが「生きづらさの克服」を支えるのでしょうか。そこには、ACAの主な活動の一つである「ミーティング」があります。今回私は、リモートで行われるACA西宮グループのミーティングに、リモートを通してオブザーバー参加させていただきました。
集まるメンバーは、すべてアノニマス(匿名)。当事者同士がわかるのはニックネームのみで、本名はおろか、どこに住んでいる、仕事は何…などのバックグラウンドは匿名性が担保されています。こうして集まった当事者同士が、当日決められたテーマを基本に(沿わなくてもOK)、ひとりひとり、自分が感じた考えや悩みを語っていきます。この際、他の参加者が意見や反対を述べたり、議論をしたりすることは禁じられています。「言いっぱなし、聞きっぱなし」と呼ばれるこの仕組みが、他の当事者と自分が同じ部分を抱えていることへの共感や、自分とは違う価値観の存在を認めることで、他人に影響されない「自立」「自信」の形成に繋がり、参加しているうちに徐々に内面の変化に繋がっていくとのことです。このようなミーティングが、リモート、リアル合わせて、全国各地のグループで開催されています。
特に、リモートのミーティングは、コロナ禍の影響で今春、全国で多数のリアルミーティングが休止に追い込まれてから一気に数が増えました。背景には、ミーティングがないことで心身の不調を来たす参加者が増えたから…という事情もあるとのこと。ACの当事者にとって、ミーティングで語る、聞くということの価値がいかに大きいかを物語るものと言えましょう。これは「新しい生活様式」が浸透し、リアルに顔を合わせて会話する機会が減っている今の世の中にとっても、見過ごせない部分のように感じました。

 

■自分の「生きづらさとの距離」を見直す、という方法の効用。

私が今回オブザーバー参加して興味を持ったのが、ニックネームを用いて自分を本来の自分とはちょっと違う存在に変えたうえで、悩みや苦悩を整理し、語りに整理するというミーティングの進行。これを繰り返すうち、自分の中に常に付きまとう「生きづらさ」が、「もう済んだ過去の話」「第三者視点からみたら、悩んでも仕方がない件」などと受け止められるようなり、ラクになっていくのかな…と思いました(実際、臨床心理学において「ナラティブ・アプローチ」など、近似の手法のものがあるようです)。
なお、私もACAミーティング参加者用のハンドブックをいただいたのですが、「ACの問題」と呼ばれる13の項目の中には、ずばり自分事そのものだと突き付けられたものもありました。しかし同時に、その「問題」と呼ばれる性格の傾向が、自分のコピーライターという職業ではむしろスキルとして胸を張れる部分もあるなとも感じさせられました。弱みも強みも表裏一体であり、あくまでも、個々人の受け止め方次第なのかもしれません。その点でも、ミーティングという場は、当事者同士が自分たちの助け合いで、ネガティブな捉え方を生きる力に変えていく、貴重な場所であると感じさせられました。

 

●アダルト・チルドレン、ACAの活動にご興味のある方は下記をご覧ください。
全国各地のグループが行うリアル、リモートのミーティングのスケジュールや詳細も掲載されています。

ACA事務局 WEBサイト
https://aca-japan.org/

 

※ミーティング写真提供協力:ACA西宮グループ

取材・文: 竹下雄一郎
Reporting and Statement: yuichirotakeshita

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