乳児用液体ミルク、ようこそ日本へ
- 編集長 / プロデューサー
- 半澤絵里奈
産後すぐの授乳育児には多くの課題や疑問が付きまとう。
特に初産で、色々なことが気になるお母さんは授乳の度に、1グラム単位で体重が測量できるはかりに赤ちゃんをのせて毎日その増減を気にしているのではないだろうか。実際、私は、そんなお母さんのひとりだった。母乳を飲ませても、どのくらい飲んでいるのか?足りているのか?測量計を確認せずにはいられなかった。哺乳瓶で粉ミルクを飲ませているときは、何cc飲んだのかその場ですぐにわかりほっとしていた。
一般的に産後直ぐに出る母乳には特別な栄養が含まれると言われる。
ゆえに、最初はがんばって母乳をあげていたけれど、次第にくたびれ、いらだつこともあり、それほど良く出るわけでもないので、娘と私のしあわせを考え、娘の栄養は次第に粉ミルクの割合が増えていった。幸いなことに、娘は哺乳瓶を嫌がらず、牛さんのおかげで大きくなった。
私と夫は、娘が0歳のときから粉ミルクの調乳、哺乳瓶の洗浄・消毒、粉ミルクの購入も一緒にしてきた。だから、夫と娘2人のお留守番やお出かけの際にミルクに関する問題が起きたことはなかった。
さらに、日本においては、粉ミルクが1回分の量ごとにスティック状になって販売され、商業施設には清潔なベビールームと調乳用のお湯が設置され、レストランでは熱湯をもらうことができる。粉ミルクだからといって調乳に困るようなことはなかった。
娘が1歳を迎え、保育園に入園した際も、哺乳瓶を使用して粉ミルクを飲んだ。赤ちゃんにはそれぞれ個性があり、哺乳瓶で粉ミルクを飲む子もいれば、哺乳瓶でお母さんが搾乳した母乳を飲む子もいれば、お母さんから直接の母乳以外は完全拒否!という子もいた。
どのお母さんやお父さんにとっても、それぞれの悩みや苦労、そして喜びがあった。ミルク時間のたびに、子どもたちの体調を見ながら調乳の準備をしてくれた保育士さんにもありがとうと伝えたい。
一方で、私たちにとっても、災害時と海外旅行中の哺乳は課題となった。
乳児用液体ミルク解禁を後押しする契機ともなった熊本地震(2016年4月)など、災害時のミルク問題は乳児を育てている家庭すべての課題だ。普段、粉ミルクを使用している場合は、「どうやって調乳用のお湯を手に入れるか」という課題だが、母乳育児の家庭だとしても災害時にお母さんと乳児が一緒にいられるとは限らない。乳児の水分補給は待ったなし、他のものに換えることができない。
また、海外旅行中に粉ミルクの手持ちがなくなりスティック状の粉ミルクを探すも、旅行先のベビー用品店や薬局では全く販売していなかった。缶入り粉ミルクは陳列していたが、日本のそれよりひとつあたりのサイズが大きく、ホテルに持ち帰るにも大荷物になるので困ってしまった。代わりにLiquid Milkなるものが小さなペットボトルに入って売られていたが、当時液体ミルクを見慣れていない私にそれを買う決心はできず、娘は既に離乳食を始めていたので水分は他のもので代用することにした。もし私が液体ミルクの存在を良く知っていたならあの時すぐに購入し、封を開けて娘に飲ませることができたと思う。
日本における乳児用液体ミルクの解禁(2018年8月)は、災害時に起きうる乳児の哺乳問題の解決に加えて、生き方が加速度的に多様化する現代において乳児を育てる人たちに環境や思考に応じて選択できる可能性を広げた。
育児をするのは、母乳の出るお母さんだけではない。母乳が出ないこともあるし、お母さんがいない可能性もある。それは、母体の健康にかかる理由かもしれないし、養育者がゲイカップルなのかもしれないし、養育する家族が1日中働き詰めだったり、学生なのかもしれない。そして、これらは、すべて私の周囲に実在するケースでみんな色々な方法で授乳問題をクリアしようとしている。
だからこそ、「乳児用液体ミルク、ようこそ日本へ」と言いたい。
現在、日本国内では2つのメーカーが乳児用液体ミルクの製造・販売を開始している。販売量の伸びによっては他メーカーの参入も見込まれるだろう。粉ミルクの種類が豊富であるように液体ミルクの種類も増えていくかもしれない。日本における育児がもっと多様化し、海外から来日した人々も含め子育てのしやすい国になるといいなと願ってやまない。
Special thanks to Rin Shimizu (Illustrator).
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