注目の新国家資格「キャリア・コンサルタント」が企業や社会にもたらす影響とは? – 「キャリア・サミット」ルポ
- 共同執筆
- ココカラー編集部
今年4月から「キャリア・コンサルタント」が改正・職業能力開発促進法によって国家資格となり、社会的に大きな関心を集めています。企業内キャリアのプロフェッショナルとして活動する「キャリア・コンサルタント」や「キャリア・カウンセラー」は、今後企業にどのような価値を創造していくのでしょうか。電通ダイバーシティ・ラボ(新しい働き方ワーキンググループ)の主催で6月22日に都内で開催された「キャリア・サミット」には、400人を超える企業関係者が集まり、登壇者による熱い議論に耳を傾けました。
社会変革に応える人材の育成を
グローバル化、IT化、少子高齢化などの社会的変化に対応するためには、働き手一人ひとりが自律的、主体的にキャリアを形成することが必要です。そこで厚生労働省は現在、社員が節目節目で、自身のキャリアについて専門家に相談できるようにする仕組み「セルフ・キャリアドック」の企業導入を進めています。ここで専門家としての役割を担うのが、4月に国家資格化された「キャリア・コンサルタント」。厚労省は、キャリア・コンサルタントの数を2024年度までに現在の2倍の10万人に増やすことを目標に掲げています。
企業にとっての最大の資産は人財
「キャリア・サミット」は、このような背景を受けて今年初めて開催されました。基調講演では、日中友好協会会長・前伊藤忠商事株式会社取締役会長の丹羽宇一郎氏が「〈心の時代〉ともいえる21世紀にキャリア・コンサルタントが果たすべき仕事」をテーマに講話しました。丹羽氏は「精神的な苦しみを誰もが抱え得るようになった時代こそ、経営のトップはキャリア・コンサルタントを会社の中枢に置き、”最大の資産”である社員を大事にしなければならない」「それができれば日本は世界から信頼を得ることができ、その信頼・信用はひいては日本の財産になるだろう」と語り、「企業にとって最大の資産はお金ではなく〈人〉」という強いメッセージを届けました。
キャリア・コンサルタントの価値
続いて、「キャリア・コンサルタントが提供できる価値」をテーマに、キャリアサポートを専門とする4名の有識者の方々がパネルディスカッションを行いました。
サントリーホールディングス株式会社キャリア開発部の山田昇氏と、筑波大学大学院人間総合科学研究科の岡田昌毅教授は、「人材育成」の視点から提言。
山田氏の部署が活動を支えるのが、グループ会社の役職勇退者自らが自発的に立ち上げた「TOO(隣のお節介おじさん)」なる現場でのキャリア・働き方支援の取り組み。この経験を踏まえ、山田氏は「会社にキャリアサポートの組織がなくても、資格をもつ人が現場で積極的に始めることが大切」と語ります。
岡田教授は、企業勤務時代に、新卒社員を対象にした、本人と上司、キャリア・コンサルタントによる「若手三者面談」を実施してきました。キャリア・コンサルタントが関わることは、本人や上司が、キャリア形成を客観的観点から考えるサポートになります。
株式会社日本マンパワー研修事業部の水野みち氏は「違いは面倒、分かり合えているメンバーの方が仕事がしやすい。そこにドライブをかけるのがキャリア・コンサルタントの役割です」として、「違いの尊重こそがダイバーシティであり、インクルージョン(受容)こそがこれからの組織のあり方」というビジョンを提示しました。
また、独立行政法人労働政策研究・研修機構の主任研究員、下村英雄氏は国際的に注目を集めている「ソーシャル・ジャスティス」というキーワードを掲げ、「公正な評価のもとで、持続可能なキャリア支援政策を、コストを抑えて迅速に整備すること」の重要性を説きました。
セルフ・キャリアドックが形になろうとしている今、「キャリア・コンサルタント」や「ソーシャル・ジャスティス」といったキーワードへの関心は、日本でも高まっていきそうです。
ダイバーシティがキャリアの分野においてもキーワード
キャリア・コンサルタントが国家資格となった後の最初の大きなイベントとあり、多くの企業担当者が関心を寄せたこのイベント。主催者・電通ダイバーシティ・ラボの酒井章氏は、「LGBTや外国人、障害といった言葉で表現される“現象としての”ダイバーシティがある一方で、雇用形態や仕事観、スキルといったダイバーシティは、” 深層のダイバーシティ”とも捉えることができます。環境変化の中で置き忘れられた人に目を配り、ダイバーシティ豊かな人財を真に企業経営に活かしていくことが、これからの多様な世界に求められているのではないでしょうか」と語りました。
社会変革に応える強い人材を育てるための、新しいこの歩みは、今後の日本人の「働き方」にも影響を与えていきそうです。
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