調査で世の中を動かす ~調査xダイバーシティ 第1弾【前編】~
- プランナー
- 中曽根真麻
みなさんは、“調査”に対して、どのようなイメージを持っていますか?
なんだか難しそう…
ちょっと堅苦しい感じがする…
データばかりで、机上の空論でしょ…
もしかすると、そんな印象を受ける方もいるかもしれません。
電通ダイバーシティ・ラボでは、LGBTQ+調査を実施し、結果をニュースリリースで発信しています。LGBTQ+当事者だけでなく、企業・自治体の担当者や、世の中の人たちにデータ情報が届くことで、日常の意識行動や、ビジネスの方向性、社会潮流までをも動かす可能性があると信じています。
本連載は「調査xダイバーシティ」をテーマとして、
「調査は、世の中の価値観形成に、どのように影響をもたらすのか?」
その可能性について探っていく企画です。
第1弾の今回は、調査のプロフェッショナルを代表して、電通マクロミルインサイトより、鈴木利幸社長、リサーチャーの工藤陽子さん、武田互生さんにお話を伺いました。
「みんなの会議」で見つかった“想定外”
―はじめに、普段どのような調査に取り組まれているか、お教えいただけますか?
武田さん:
普段のクライアント業務は、コミュニケーション効果測定、ブランド評価などの調査が中心ですが、個人的には、それに加えて、8年前から電通ダイバーシティ・ラボに参加しています。障害者の方と一緒に会議を行って、単純なユニバーサルデザインとは一味ちがった視点で商品企画をする「みんなの会議」を、共用品推進機構さまのご協力のもと実施しました。
世の中には、視覚障害者の団体、聴覚障害者の団体、など様々ありますが、それぞれの主張が異なっていることも多いかと思います。
「“みんなに心地いいクルマ”を考えてみよう」というテーマで話したときには、車いすの方は、身体が拡張する感じがして、自分で運転操作するのが楽しい。聴覚障害者の方は、静かなハイブリットカーは近づくのがわからず、クラクション以外の方法でも安全確認をしたい。視覚障害者の方は、車で走るときの風・街の音・エンジン音を大事にしたい。などの意見から「クルマ体験によって、普段は感じられないものを感じたい!」という共通したニーズが潜んでいることに気づきました。
私たちが安全安心・便利ばかりを追求すると、“これからの時代は自動運転がいいよね!それが障害を持つ人にもハッピーなのでは”と考えてしまいがちですが、障害を持つ方々は「非日常の楽しみとしてのクルマ」に期待をしている。このようなインサイトから“新種のオープンカー”のようなアイデアに繋がっていったのは、想定外の体験でした。
↑アイデア発想やイメージ伝達の際には、共有できる感覚をフルに使っていただくために、レゴやミニカーなども活用。
新しいアイデアは、エクストリームユーザーを追うことで生まれることもあると思います。例えば、目の見えない方をエクストリームユーザーとして捉えると、この化粧品でこんな使い方をするんだ!といった発見がある。「みんなの会議」では、様々なバックグラウンドの方を交えて協力してもらうことで、想定を超えた、新しいアイデアを生む場所にしたいという想いがあります。
調査データから生まれたアイデア「第2の婚姻届」
―調査によって、世の中の行動/価値観を動かしたエピソードについて、お教えいただけますか?
鈴木社長:
マクロミルでは、世の中で関心の高いトピックについて定期的に自主調査を行い、自社サイトでコンテンツを展開しています。新成人や新社会人、ハロウィンに関する意識調査など、トレンドを押さえた身近なテーマを扱う中で「夫婦間のコミュニケーションに関する調査」を実施しました。
その調査結果から浮き彫りになったのは「子どもが生まれると夫婦間のコミュニケーションが減る」こと、そして「仲良し夫婦とそうでない夫婦の間には、コミュニケーションの質に差がある」ことでした。なかでも特に着目したのは「子どもがいる夫婦のうち、76%が言葉で気持ちを伝えあっていない」、そして「離婚した夫婦の81%が結婚記念日を祝っていなかった」というデータ。
当時、離婚原因の一つとして社会的に話題になっていた、出産後に夫婦仲が急激に悪化する「産後クライシス」という現象も念頭に置き、出産後も記念日を祝い続けることを誓う「第2の婚姻届」を企画しました。
特設サイトでは、7色あるカラーバリエーションの中から好きな色の「第2の婚姻届」をダウンロードできる仕組みにしました。また記入後は、役所への提出の代わりに「#第2の婚姻届」をつけてInstagramに投稿してくれた方の中から、抽選でオリジナル台紙をプレゼントするキャンペーンも実施。沢山の方が記念日を祝う際に「第2の婚姻届」を活用してくださり、多くの反響をいただきました。
―調査を実施して、データを世の中に提示するだけではなく、
そこで見つけた課題に対して、身近なところから行動に変えられるアクティビティを提案する。素敵な企画ですね。
コロナ禍のウェルビーイング研究から生まれた「Happy Brain Card」
―「調査で世の中を動かす」という視点で、他にも取り組まれている事例はありますか?
工藤さん:
「コロナ禍で大変なことも多いが、いいこともあるのでは?」
「そのいいことって、どんなものだろう?見つめてみよう。」
そんな想いから、ウェルビーイング研究に取り組み始めました。
実際に、コロナ禍でメンタルに良い変化を感じている人は26%。
なぜ良い変化が起きたと思っているのか?自由回答を分析したところ、シガラミからの解放、余白時間が生まれた、家族のありがたみを感じた、自分を見つめて心の持ちようが変わった、などが主な理由でした。
このような結果に触れることで、「それって私もあるな」というように、「調査を通して、自分に気づく」こともあるかと思います。
けっきょく「物事は考え方、捉え方が大事」なのだと思います。直面している状態は同じでも、よく思う人、そうでない人がいる。よく思える方向に導いていくことで、世の中のマインドや価値観にアプローチできるのではないか。そのような考え方のもと作ったものが、「Happy Brain Card」です。
脳神経外科の「人がポジティブに感じているとき、脳では何が起きているか」といった脳的ハッピールールを活用しています。例えば、ドーパミン、セロトニンなど、幸福感に関係がある神経伝達物質がどういう状況で出やすいか、などです。
商品サービスによって、脳的ハッピーの状態を作り出すことができないか?ハッピーを感じる瞬間/経験へと、アシストできるような開発をできないか?という発想から、ニューロサイエンスの専門家である青砥瑞人さん監修のもと、開発のヒントとなる31種類のカードを作りました。ワークセッションなどのアイデア開発に活用するカードです。
―“ウェルビーイング”や”幸せ”って、なかなか計るのが難しいからこそ、マーケティング活動に直結させるのが難しい分野だと思います。その法則を、調査研究や専門家の力も借りて紐解くことで、世の中を“ウェルビーイング”に近づけていく。素晴らしいプロジェクトですね。
「調査 x ダイバーシティ」連載企画 第1弾【前編】では、「調査で世の中を動かす」という切り口で、事例について伺いました。
次回は、【後編】リサーチャーから見たダイバーシティ課題 へと続きます。
参考情報:
電通マクロミルインサイト https://www.dm-insight.jp/
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