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Mar.

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10 Jun. 2022

リサーチャーから見たダイバーシティ課題 ~調査xダイバーシティ 第1弾【後編】~

中曽根真麻
プランナー
中曽根真麻

本連載は「調査xダイバーシティ」をテーマとして、
「調査は、世の中の価値観形成に、どのように影響をもたらすのか?」
その可能性について探っていく企画です。

【前編】に引き続き、調査のプロフェッショナルを代表して、電通マクロミルインサイトより、鈴木利幸社長、リサーチャーの工藤陽子さん、武田互生さんにお話を伺いました。

リサーチャーとして、大事にしているのは「相手の靴を履くこと」

―前回は、「調査で世の中を動かす」という切り口で、さまざまな事例についてお聞かせいただきました。リサーチャーとして、日頃から意識されていることはありますか?

工藤さん:
エスノグラフィという、実際に対象者の生活環境に入り込んで観察する調査手法があります。全く知らない人の家に訪れると、モノは満たされているけど、社会課題的に満たされていないことがよくあると感じます。退職したお父さんが、毎日ひとりで昼ご飯を家で食べている、そのことに味気無さを感じている、など。そのとき必要な解決は、おいしい昼食の提供より、お父さんが誰かがつながることではないかと。

調査を通じて、自分とは全くちがう人の世界に入り込むことで、その人の視点から世界を見直す機会が得られます。リサーチャーとして「エンパシー・相手の靴を履く」視点を大事にしています。ブレイディみかこさんの『ぼくはイエローで、ホワイトで、ちょっとブルー』で知った用語です。

クライアントと調査結果について話すときには、写真などを見せながら、その人物の背景をストーリーとして説明します。「その人の視点から見たときに、どういう生活/世の中が理想だろうか?」「そのために、自分達は何ができるだろうか?」という文脈で話していく。そうすると、単純な商品開発プロセスよりも発想を深めて、よりリアルな課題意識で取り組むことできるという実感があります。

調査は「みんなの幻想の“普通”」のように捉えられてしまうこともあって、“普通”ではない結果が出てくると、「この人変わってるんじゃない?」と調査分析対象からはじかれてしまうケースも大いにあります。

しかし、調査パネルは、本来は多様な個人の集合体です。個々人のちがう価値観、生きている世界、社会を感じるためのものなのです。だからこそ、特に定性調査においては、相手の見ている世界を、いかに伝えていくか?が大事だと思っています。

 

 

性別… 家族のかたち… 調査業界で感じるダイバーシティ課題

―ダイバーシティに関して、調査会社の視点で、日頃から感じられている問題意識はありますか?

鈴木社長:
調査会社が聴取するモニタの方々の基本属性情報について、配慮しなければならない時代になってきていると感じます。
一般的に取られる選択肢が男女のみの「性別」は、性自認が多様化した昨今において最適とは言い難いでしょう。「未既婚」や「子どもの有無」の回答を必須で促すことも、人によっては非常にデリケートな情報であり注意を要すべきものです。

―クライアントが、マーケティング企画や商品開発をするときには、必ずと言っていいほど、男性向け・女性向けというワードが出てくると思います。そのプロセス自体が根本的に変わらない限り、クライアントはそのようなデータを求めるでしょうし、なかなか難しいですよね。

鈴木社長:
生物学的な男女でターゲティングをすることが妥当な商材ももちろんあります。ですが、そうでない限り、これだけ性自認が多様化している中で、いつまでそれに縛られた議論をしているの?ということを提案してゆけるのは、日々生活者を見ている私たちであるとも感じます。

武田さん:
実際に調査業務を進める中でも問題意識を感じることは多いです。アンケート上では、「未婚・子あり」は回答可能ですが、定量データ分析では、統計的に確からしいサンプル数で見る必要がある。となると、(夫と同居している)「既婚・子あり」として見て分析しよう、のようなことが起こり得るのが実態です。

また、商品についてのインタビュー調査でも、世の中には様々な家族のかたちがあるにも関わらず、「30代で20才の子どもがいるのは、おかしいよね」といった考え方から、対象から除外してしまうようなことも行われがちです。

マーケティングでの確率論を考えると、いわゆる“平均的イメージ”に合わない人たちのデータを均一化するような動きになってします。「未婚・子あり」がこんなに多いのは変では?とクライアントから言われるなど、ダイバーシティと調査設計・データ分析は、もともと思想的に相容れない部分があります。ただ、クライアントや私たちリサーチャーが潜在的にイメージしている“平均的な家族像”が更新されていないがために、ステレオタイプ的な属性の人だけを調査対象として選んでしまうことは、必ず避けなければいけないと考えています。

 

調査を通じて「世の中の問い」に対する解を導く。

―最後に、電通マクロミルインサイトが、どのようにダイバーシティ課題に取り組んで行きたいか、今後の展望についてお聞かせいただけますでしょうか。

鈴木社長:電通マクロミルインサイトの事業や仕事が、世の中に対して、どのような存在価値を発揮しているのか?改めて自分達で考えようということで、2021年の秋から約半年かけて社員が主体となり、パーパスを策定しました。

私たちはBtoB事業ですので、クライアント企業の依頼に答えるのが日々の仕事であることはもちろんですが、それ以外に「世の中の問い」にも対峙しているのである、と自己を定義しています。

昨今のダイバーシティへの注目をきっかけに、“問い”の種類がますます多様化しています。クライアント企業がマーケティングを進める上で、マスニーズを狙うことは十分に理解できますし、経済合理性の観点からも当然でしょう。ですが、その過程の中でマイノリティが削られてしまうこともあるかもしれません。

それでも、生活者に向き合い続けている私たちが、「マイノリティとされてきたが、実は数が増えている」「マイノリティのニーズや想いを無視してはいけないという世間の声も増えている」といった事実を、クライアント企業が持つビジネス課題に接続し提案を続けてゆければ、結果的により良い世の中の形成に貢献ができる、「世の中の問い」を解に導くことに繋がると信じています。

今回のインタビューは、私たちにとっても、自分達の社会的価値に改めて気づかせてもらえる良い機会になりました。

―本日は貴重なお話をありがとうございました。

 

調査”は、人や社会をポジティブに動かす道具

ダイバーシティが、もっと当たり前に受け入れられる世の中に変わっていくために、調査が果たし得る役割は、思っていた以上に大きいと可能性を感じました。

企業や自治体に対して、何か新しい提案をするときに、調査データがあることで、話を聞いてもらいやすく、前向きに動き出すことがあるかと思います。

ダイバーシティ領域においても、それは同じ。

企業や自治体はもちろん、個人レベルの意識も含めて、世の中が前向きな変化をするために、調査は、時にはスムーズな橋渡しを、時には解決策のコアに繋がるような発見へとつながっていく。今後も重要な役割を果たし続けるにちがいないでしょう。

 

参考情報:
電通マクロミルインサイト https://www.dm-insight.jp/

調査 x ダイバーシティ【前編】~調査で世の中を動かす~

取材・文: 中曽根真麻
Reporting and Statement: marthanakasone

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