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Nov.

2024

interview
27 Jul. 2022

日本の10代はジェンダーバイアスにどこまでかかっている?

子どもに対する「女の子らしさ」「男の子らしさ」意識調査の発表に伴い、「子どもにまつわるジェンダーバイアス」をさまざまな視点で紐解くリレーコラム。第3回の今回は「日本の10代のジェンダーバイアスは海外と比べて?」「学校の影響は?」をテーマに識者インタビューを行いました。

今回ご紹介するのは、世界中の女の子や女性のエンパワーメントをサポートする国際NGOプラン・インターナショナルの長島美紀さん。今年プランで実施した日本の女子中高生のリーダーシップ意識に関する調査と、ジェンダー・ステレオタイプの調査結果をもとに日本の学校や社会の影響について海外と比較しながらお話しを伺いしました。

長島 美紀さん(ながしま・みき)

国際NGO「プラン・インターナショナル」アドボカシーグループリーダー。黎明期の女子大に通った祖母のいる家庭で、父からは女性でも学びたいなら投資するという方針のもとに育つ。早稲田大学大学院で先進国の難民受け入れ政策を研究。UNHCR駐日事務所や難民支援を行うNPO法人にインターン/リサーチャーとして関わる。プランでは、政策提言事業、特にジェンダー主流化、「女性の社会での活躍」を中心に啓発・提言活動を行う。

 

目次

プラン・インターナショナルが規定する女の子のエンパワーメントに必要なキーワード

日本の女子中高生のリーダーシップ意識が育ちにくい社会背景

ジェンダーステレオタイプが内在化していく日本の学校の影響

社会の望ましい取り組み。そして自分たちがまず心掛けること。

お話のまとめ

 

 

プラン・インターナショナルが規定する女の子のエンパワーメントに必要なキーワード

1 learn  女の子が適切に学べること。アクションを起こすには知識と理解が必要です。

2 lead   声をあげていくこと。学校、家庭、職場でも自らの意見を発することが出来る環境が大切。これがリーダーシップにもつながる。

3 decide 自分の人生を決められる。世界にはこれがかなえられない国地域も多く存在する。

4 thrive 差別や暴力のない 環境で成長できるようにする。

長島さん(以下お名前省略)

「今の若い世代は日本に限らずSNS,グローバル化の進展によって“lead”をでき始めている。このことを社会が受け止められるかが重要。日本はこの点に関してまだ発展途上の状態。これが子どものリーダーシップ意識を育てるのに壁になっている。」

 

日本の女子中高生のリーダーシップ意識が育ちにくい社会背景

― 今回の調査から読み取れる日本特有の社会背景とは?

「まず、2019年に実施した調査があります。
世界19 カ国で約1 万人の女の子と若い女性を対象に実施したリーダー像に関する意識調査では19か国の平均で76%が「リーダーになりたい」と思っていると回答したのに対し、日本では53%でした。一方リーダーとしての能力に「自信がある」と答えたのは平均が62%だったのに対して日本は27%。このギャップに対しては、学校もさることながら実は日本の家庭の影響が大きいのではという仮説を立てました。

 今の子どもたちが育った家庭は共働きが過半数をこえている。しかし母は残業せず帰宅する一方で父親は深夜まで残業し自ら猛烈に働き周りをリードしていく「俺についてこい」タイプが多かった。まだ父が主、母親がサポートという関係。その父の姿を通して見てきたリーダー像が刷り込まれた結果、リーダーにはなりたいが、そのようなリーダーに自分はなれないという自信のなさにつながっている。今年の調査では日本の子どもたちも頭ではサーバントリーダーシップといわれる新しいリーダー像を理解している一方で内在化したリーダー像に今も引っ張られているとも言えます。

2022年リーダーシップ意識調査  両データとも提供:プラン・インターナショナル

 

ジェンダー・ステレオタイプが内在化していく日本の学校の影響

データ提供:プラン・インターナショナル

― ジェンダー・ステレオタイプ調査の中で 高校生が持つ「女の子」「男の子」と聞いて思い浮かぶイメージという質問の回答に衝撃を受けました。今の10代でもこれほどステレオタイプ化しているのかと。これについて学校や家庭の影響は海外と比べ何があるでしょう?

「まずステレオタイプに高校生自身が囚われているのは、子どものころから「○○するべき」「○○しちゃだめ。」と言われ続けていくうちにそれが自分の意見となってしまう。子どものステレオタイプは社会のステレオタイプといえます。そして調査からわかることは、学校がジェンダー・ステレオタイプを育んでしまう発言や表現を受ける一番の場所であること。」

「具体的に「どのようなジェンダー・ステレオタイプ的な表現や発言をされたか」という質問に対し、女の子だから「家事をしなさい」、「おしとやかにしなさい」、男の子だから「泣いてはだめ」、「運動ができないとだめ」などと言われたほか、男女ともに「理系は男子、文系は女子」など、学習面においてもステレオタイプを押しつけられていることが分かりました。

 日本も時代の変化に合わせて教科書でもジェンダーを取り上げるようになっていますが、ここもまだ課題がある。先日話題になった高校の倫理国語でのスーパーマリオについての問題では、「マリオはお姫様を助ける。ジェンダーの観点で問題があります」→ 答えは「お姫様が自分で脱出してもいい」と。しかし答えはそれだけではないはずなのに、試験ではこれが〇×になってしまう。」

「また別の調査から見えてきたジェンダー・ステレオタイプに影響するものとして性教育があげられます。日本と海外の一番の違いは学校での性教育だと思います。欧州の性教育は、早い段階から体の性差を教える。そこで子どもたちは性の違いと人権の尊重も学んでいく。男性女性だけじゃないという知識も合わさってジェンダーに捉われないことを学んでいきます。

 一方の日本では、相変わらず生理 性行為 性に関する知識を教えている。なので、早くから性教育を受けると10代の妊娠が増えるという意見に押されて正面から性の違いを学ぶ機会がない。本当は逆で体の違いを知ると 安易にセックスをしない、避妊もしないでセックスをするのは違うという考えに結びつく。日本は性教育の捉え方を変えることがまず必要だと提言しています。」

― 調査では男の子と聞いて頭に浮かぶイメージも旧来のステレオタイプに囚われています。

「調査を詳しく見ると男性のほうがより、ステレオタイプが強い。子どものステレオタイプは社会のステレオタイプだと捉えると、学校や家庭で「男はこうあるべき」という価値観がまだ強く残っているといえる。これは日本に限らず、欧米でも同じ傾向。最近「男性学」が出てきてようやく男性のステレオタイプについて取り組むことが始まっていますが、女性に比べてまだ遅れている。」

― 改めて学校がキーになっていることが分かりました

「学校は子どもが生きる力を身につける場でもありますが、ステレオタイプを再生産させる場でもあることには注意が必要です。教員自身に対するジェンダーや、リーダーシップを育む研修が不十分なのが現状です。国の理解がまだ足りていないことが原因です。」

 

社会の望ましい取り組み。そして自分たちがまず心掛けること。

-ここまで見てきた多くの課題の解決に向けて社会や国の望ましい取り組みは何でしょう?

「学校は国が考える理想を教える。その理想を変えない限りジェンダー平等は達成しません。先日「女性版骨太の方針 2022」が発表されましたが、女性を労働力ととらえ、男性と同じように働き続けることを求め、そのための環境整備とアンコンシャス・バイアスの解消を掲げていて個人の幸福にむかっていないように見えます。子どもたちはこのような国の方針を冷静に見ているし理解している。そのことを大人は自覚して施策を作っていくのが望ましいですね。」

― 国の考えを一朝一夕で変えることが難しい中で、我々大人ができることは何でしょう。

「家庭、学校、親、先生の影響が大きいということ自覚して、まずは安易に「男だから」「女だから」って言わない。これは小さなことですが大切な一歩です。子どもが小さいからってわからないと思わない。そして一番大切なのは「大人も学ぶ」ということ。今日のはじめに「learn」というキーワードを出しましたが小さなアクションを起こすにもまずは学ぶところから始めてほしい。」

― すぐにできる、とても大切な一歩ですね。最後に長島さんご自身で取り組むべきだと考えていることは?

「「ジェンダー」という言葉の認知と理解をもっと広げること。SDGsの認知はすごく上がりました。それは言われ続けることで上がったのです。「ジェンダー」は「ジェンダーギャップ指数」という言葉がこの10年ぐらいで使われ始めましたが、まだ政策決定者や一部の人の間だけでとどまっている。多くの人は「ジェンダー」はいまだ聞きなじみがない。ここは自分も反省していて ジェンダーの中身を簡単に理解できるように言語化して全方位でもっと発信していくつもりです。

―本日は貴重なお話しどうもありがとうございました。

 

長島さんのお話のまとめ

子どものジェンダーに関する問題は、社会のジェンダー問題の鏡です。国、社会、学校、親それぞれがそのことを自覚して大きな政策方針から身近に取り組めることまで一つずつ変えていくことが大切。それには個人が学び続けることが出発点になります。

取材を終えて

子どもたちのジェンダーに関わる日本の学校や社会の影響についてお聞きしましたが、あらゆる視点からのお話しで非常に勉強になりました。日本と海外の性教育の違いがジェンダーの問題につながっているという指摘は特に新鮮でした。また、『子どもに対する「女の子らしさ」「男の子らしさ」意識調査』でも 「ジェンダーバイアス」を知らない保護者が6割もいるという結果が出ましたが、長島さんの課題意識と重なっておりcococolor としても認知理解を広げるために努力を続けていかなければと感じました。

 

参考:

国際NGO プラン・インターナショナル

https://www.plan-international.jp/

(今回取り上げた調査結果詳細もこちらのサイトに掲載されています。)

 

取材・執筆 有利 英明

 

取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor

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