15の夏のレモネードは、どんな味がしますか。 ~小児がんと生きる 榮島四郎さん~
- DEIディレクター
- 濱崎伸洋
〈みんなのレモネードの会〉を、ご存じでしょうか?小児がんを経験した小学3年生の榮島四郎さんが、同じように小児がんと闘っている子供たちを支援するために、2016年、レモネードスタンドを開いたことをきっかけに誕生した会です。自らの病気と向きあうだけで精一杯のはずの少年が始めた活動に、多くの人が注目しました。その後も四郎さんは〈ぼくはレモードやさん〉という絵本を出版するなど、活動の幅をどんどん広げていきます。
あれから6年、この8月で15歳になる四郎さんは今どんなことを考え、何をしようとしているのか。気になった私は、今回、リモート取材の機会をいただきました。
※リモート取材に応じる榮島四郎さん(左)
Q ここ数年、コロナウイルスの感染拡大という出来事もあり、四郎さんの環境も目まぐるしく変わったかとおもいます。どのように過ごしていましたか?
「学校は休校になったり、出席番号の前半と後半で分散登校になったりと、家で過ごす時間が多くなりました。でも、自分は基本的に“インドア派”なので、それほど苦ではありませんでした(笑)。本が大好きなんで」
Q 〈みんなのレモネードの会〉も思うように活動できなかったのでは?
「レモネードスタンドはもちろん開けませんでしたが、その分、オンラインで遠くの人ともつながったり、いろんな“部活動”をしました」
Q “部活動”ですか。どんな“部”があるんですか?
「毎月一回開催するオンライン交流会で、“犬部”から始まりました」
Q ‟犬部”って、ワンワンと鳴く“犬”のことですか?
「はい、でその次は“読書部”や“UNO部”、あとは”ミュージカルで遊ぼう部“、”おしゃべり部“とか、みんなでアイデアを出していろんな”部“をつくりました」
Q ちなみに、“犬部”って何をする部ですか?
「セラピードッグ※とその認定パートナーの方に、犬の話とか接し方とかをみんなで教えてもらう会です。犬も参加してくれて、とっても楽しかったです。あと、ミュージカルのほうは、ボンボンを用意してみんなで踊ったりしました。それも楽しかったです」
※セラピードッグは、病院や施設などで高齢者や障がい者、患者さんの心身の機能回復を補助する活動をしている犬です。
Q 遠くの人とつながって、とくに心に残っていることはありますか?
「オンライン自習室では、沖縄から参加してくれた小学生がいました。みんなで“沖縄クイズ”で盛り上がりました」
Q すごく楽しそうですね。皆さん、小児がんの方々ですか?
「はい。患児ときょうだい児です。みんな仲間です」
Q 四郎さんは仲間と交流することで、どんないいことがありますか?
「みんなが集まって、楽しいことをしていると、がんばろうって気になれます」
Q 病院から参加する人もいるんですか?
「います。退院したら司会をやりたいって言ってくれます。あと家から出られない人とか」
Q 四郎さんも家から出られない時期があったんですよね?
「退院から半年ぐらいは免疫が落ちているので家から出られませんでした。たまに出るときも、人気のない公園を歩いたり」
Q なるほど、四郎さんもそういう経験をされているから、なおさら仲間と交流することの大切さがわかるんですね?
「はい」
Q 四郎さんが家から出られなかったとき、四郎さんが今やっているような活動をしている人はいましたか?
「いなかったです。同じ病院に入院していた人たちとの同窓会があったくらいです」
Q 四郎さんご自身は、今はご病気とどのように向き合っていますか?
「成長ホルモンという注射を打っています。いつも疲れやすいのですが、昔よりは転ばなくなりました」
絵本では注射の苦痛にも言及している ※「ぼくはレモネードやさん」(生活の医療社〉より
Q 少しずつ強くなっているんですね?
「はい。とはいえ、病院のほうも“脳外科”は1年に1回、“内分泌”は3か月に1回、“心理”は半年に1回ほど、通わなくてはなりません」
Q “心理”というのは、どのような治療ですか?
「放射線を脳に当てる治療をしたせいか、物を覚えるのが少し苦手になっているので、そういう日常生活で困ることを相談する時間です」
Q 四郎さんはレモネードスタンドをもう30回以上開いていますよね。うれしかったこと、辛かったことはありますか?
「たくさんの人が来てくれて、仲間が増えたことがうれしかったです。レモネードスタンドに来てくれた人が、〈みんなのレモネードの会〉を手伝ってくれるようになったりと、どんどん輪が広がっていくのがうれしかったです」
「辛いとおもったことは、僕は小児がんのことをもっと知ってほしくてレモネードスタンドを開いているのに、なぜか僕の話が中心になってしまうことです」
Q なぜそれが辛いんですか?
「僕じゃなくて、他の小児がんの人たちを応援してほしいんです」
Q 小児がんのような病気を抱えていると、どうしても自分のことで精一杯のような気もするのですが、四郎さんはどうして、他の患者さんのことまで考えることができるんですか?
「僕も退院した頃はちょっと動くとぐったりして、自分の体力作りのことで精一杯でした。でも5年ぐらいたったある時、お母さんに誘われて地域のイベントでレモネードスタンドを開いたら、仲間が増えて、それが楽しくて会を作ったり仲間のことも考えるようになりました。つまり、“楽しいから”というのが答えになります」
Q そういった“楽しい”という気持ちが、四郎さんが小児がんと向きあう原動力になっているんですね。
「はい」
Q これまで、とくに四郎さんに元気をくれた人っていますか?
「集まってくれる一人ひとりが元気をくれます。あとは、絵本作りを手伝ってくれた編集者の秋元さん、主治医の先生、もちろん家族からはいつも元気をもらっています。すごく感謝しています」
Q 感謝したい人がたくさんいるって、幸せなことですよね?
「はい」
Q ちなみに絵本を作るって、どんなことが面白かったり難しかったりしますか?
「文章をまとめることが難しいです。あと絵のほうも、お母さんやお婆ちゃんに色を塗るのを少し手伝ってもらいました」
Q 小児がんと闘っている子どもたちに、いちばん必要なことって何だとおもいますか?
「一人じゃないということ、仲間がいるということです。だから〈みんなのレモネードの会〉をやっているんです」
絵本では病院で出会ったたくさんの仲間たちが紹介されている ※「ぼくはレモネードやさん」〈生活の医療社〉より
Q 昨年は弟の一歩さんも絵本〈ぼくはチョココロネやさん)を出しましたね。四郎さんにとって、一歩さんはどんな存在ですか?
「ずっと欲しかった弟ができて、とてもうれしかったです。僕の自慢の弟です」
Q ケンカとかはしないんですか?
「向こうが吹っ掛けてくることはありますね(笑)。でも、かわいいから許しちゃいます」
Q お母さんはどんな存在ですか?
「お母さんはいろいろなことを助けてくれて、頼りになります。そして、いつも優しいです」
Q 弟の一歩さんも〈みんなのレモネードの会〉を手伝ってくれたりしますか?
「はい。手伝ってくれます。一歩も仲間です」
Q 少し話題は変わりますが、四郎さんが今いちばんハマっていることって何ですか?
「ハマっているのは読書です。ミステリーが好きです。あと読書じゃないけど、芸人のデニスがやってる怖いYouTube動画とかもよく見ます。心霊ライブにも行って、魔女の骨とか座敷童子とか、いろいろな呪物を見ました(笑)。たまに絵を投稿します。今日もライブ配信があるので楽しみです」
Q ミステリーとか心霊とか、ドキドキするものが好きなんですね?
「はい、本だとハリーポッターとか、あと〈本好きの下剋上〉という小説が大好きで、27巻まで出ていてまだ続きがあるので、とても楽しみです」
Q 長い物語を読みとおすパワーと根気があって、すばらしいですね。私がまったく知らない世界も教えてくれて、ありがとうございます(笑)
Q 四郎さんはもうすぐ15歳になるわけですが、自分でいちばん変わったなあと思うことって何ですか?
「体力がついて転ばなくなったことです。小学生のときは登下校のときによく転んでいました。あとは、仲間が増えたことです」
Q 最後に将来の夢を教えてください。
「高校生になったら、〈ぼくはレモネードやさん〉のエピソード2を書きたいです」
Q エピソード2、面白いですね。〈本好きの下剋上〉のように、エピソード27まで続けてください(笑)
「あと将来の夢は、図書館の司書になることです。本好きなので、本の楽しさをみんなに知ってもらいたいです」
Q それはすばらしい夢ですね。四郎さんが司書になったら、本好きの子どもがきっと増えますね!
「はい、がんばります」
* * * * * *
1時間があっという間に感じる、とても楽しい取材でした。四郎さんのどんなときも同じ病気と闘う仲間のことを想う姿が、とても印象的でした。
四郎さんの絵本、〈ぼくはレモネードやさん〉にはたくさんの仲間が登場します。中には不幸にしてお亡くなりになった方もいます。そんな一人ひとりの“生”と向き合う四郎さんのまなざしは、しかし、いつでも前向きです。どんな境遇にあっても、仲間がいることや仲間と過ごす時間が、何よりの治療薬なのだということを、改めて気づかせてくれます。
一方で、四郎さんは読書やYouTubeの話で盛り上がると、ごく普通の14歳の顔も見せてくれます。
絵本の中で“300歳まで生きる”と宣言している四郎さん。この先、どんどん新しい世界を体験していく中で、四郎さんのレモネードがどんな味に変化していくのか、楽しみでなりません。
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