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30 Jul. 2021

ヘルスケアにおけるダイバーシティを考えてみる vol.1 体質と健康

池田真梨子
統合マーケティング・プロデューサー
池田真梨子

1.コントロールできない自分の体と他人の目線の違和感。 

ここ数年、私は自分の体がうまくコントロールできなくなり、「体の弱い人」とタギングされることが多くなった。 
ただ、その度に「強靭な肉体こそ全てなのか」「弱くてはいけないのか」「人間の体はそんなに均一的なのか」と考えるようになった。
 ヘルスケアとは、健康の管理・維持・増進の行為のことを言う。 
ひとりひとりが違う人間である以上、その”ヘルスケア”も多様なものなのではないだろうか。
 ヘルスケアにおけるダイバーシティについて、vol.1は「体質と健康」、vol.2は「フェムテックの現在」の2回に分けえ考えてみたい。


2.人の体質は均一ではない。違うし、違ってくる。 

体質は、人や環境、その人の時間軸、時代によっても変化していくものであるはずだ。 下記、いくつかの例を洗い出してみた。

■性による違い 

PMS(月経前症候群)は、女性特有の症状だ。 
「月経開始の 3 ~ 10 日くらい前から始まる精神的、身体的症状で月経開始とともに減退ないし消失するもの」と日本産科婦人科学会においては定義される病であり、メインの症状としては「イライラ」等、激しい感情起伏があげられる。その感情起伏はさらに、PMDD(月経前不快気分障害)と呼ばれ、2013 年に米国精神医学会で正式な病名として登録されている。 
また、PMSは、現代の女性の 7 割(※1)が悩んでいる病だが、近日のツムラが実施した調査では、「⼥性の8割が、不調を我慢して仕事や家事をこなしている。」ことがわかっている。(※2)
※1:ゼリア新薬工業株式会社「PMS と人間関係に関する意識調査」(2015 年 6 月)またゼリア新薬工業株式会社では、PMSに関する情報や治療薬に関するページも公開中。
※2:株式会社ツムラ「隠れ我慢に関する実態調査」(2021年1⽉)


■時代・時間軸による違い

現代女性の生涯における「生理の回数」は1900年代と比較して「400 回」も増えている。(※3・4)出産回数が減ったためだ。さらに、月経や排卵には大きなエネルギーを伴うため、子宮内膜症、子宮体がん、卵巣がん、乳がんなどの増加に影響を与えていると考えられている。
また、前述した「PMS」も、
20 代…頭痛、肩こり、乳腺のハリ
30 代…むくみ、食欲増加、攻撃的になる
40 代…頭痛、肩こり、イライラ
等、年代によっても、ホルモンバランスによっても症状が変わってくる。
※3:American Journal of Obstetrics and Gynecology Volume 223, Issue 5, November 2020, Pages 624-664”Menstruation: science and society”
※4:ウィメンズ・ヘルス・アクション実行委員会 ウィメンズ・ヘルス・アクション DATA BOOK2019


■環境による違い
 
スウェーデンで産業ストレスを研究するロバート・カラセック氏は、職業ストレスを「仕事の要求度(仕事量、時間、内容)」と「仕事のコントロール度(裁量など)」の2つの軸から分析しており、最もストレスの高い状態は、「要求度が高く、コントロール度が低い仕事(緊張を強いられる)」と発表した。
また、日本において、堤 明純氏が日本人従業員6553人を11年間経過観察し、「ストレスがもっとも低い「要求度が低く、コントロール度が高い仕事」を1とすると、ストレスがもっとも高い「要求度が高く、コントロール度が低い仕事」は、脳卒中になるリスクが2.73倍も高くなる」という事実を導き出している。
そして、同記事内にて、上司のリーダーシップの質の違いにおける、虚血性心疾患発症の相対危険度もテーマになっており、①情報提供 ②目的提示 ③期待 ④育成管理 があるリーダーの元においては、部下の心臓病になるリスクが23〜35%低いことも分かっている。(※5)
※5:参考記事:東洋経済「病気になりやすい職場」「なりにくい職場」の差 福島県立医科大学医学部疫学講座主任教授 大平 哲也氏



上記の例だけでも、人の体は多様な変数によって左右されていることがわかる。いつ・誰が・どこで・どんな状況に陥るかによって、体質や体調は変動し続ける、いうことになる。
自分には自分の、他者には他者の変数が存在するのであれば、全て一律ではなく、各々における健康づくりやお互いの配慮が必要になってくるのではないだろうか。

 

3.どうやって自分の”今”の体質を見抜くか。
体が可変的である以上、自分の現状をどう見抜くかも重要だ。
今の自分の立ち位置の提示や、そこに合わせたソリューションを提供するツールも多く出てきている。

■盛り上がりをみせる「フェムテック」ツール
月経・不妊・産後ケア・(セクシャル)ウェルネス・更年期・メンタルヘルス、など様々なジャンルに跨るフェムテック業界だが、今回は、月経や自分の緊張感など、自身のリズムが掴めるプロダクトをいくつかご紹介したい。

☑「わたしの温度」 トッパン・フォームズ(株)

専用デバイスを専用ナイトブラにつけて寝るだけで女性特有のリズムを手間なく把握。取得したデータから女性特有のリズムを計算し、美容やダイエット、PMS、妊活などをサポート。例えばPMSケアとして、不調の出やすい生理前・排卵日を見える化し、事前に備えたスケジューリングが可能になる。(※6)
※6:参照:「わたしの温度」公式ページ2020年10月20日 女性特有の温度リズムを自動計測するヘルスケアIoTサービス 「わたしの温度」をクラウドファンディングで先行販売


☑「iBreve」

呼吸パターンからストレスレベルを計測し、専用アプリと連携することで、自身に合うようカスタマイズされたアドバイスを得られるウェアラブルデバイス。ブラジャーに装着し、計測する。自分では気づきにくい「呼吸」のパターンで、ストレスレベルやそこにあったメディテーション等が提供される。自身のストレスが起きやすいタイミングの察知やそこへの対処が可能になる。(※7)
※7:参照:「iBreve」公式ページ

■身近なバイタルデータの進化

2021年6月8日に出されたAppleのニュースリリースにおいて、iOS15からのiPhoneとApple Watchのユーザーにおけるヘルスケアネットワークにおける家族間のデータの共有やトレンドのチェック、歩行安定性を測定できるようにアップデートが入ることが発表された。心電図の記録と不規則な心拍の通知機能に次いで、Appleの予防医療的なアップデートが止まらない。米国のユーザーは、より情報に基づいた会話をするために、心拍数や、検知された転倒、睡眠時間、運動時間など、特定の種類のヘルスケアデータを医師と共有することを選択できるようになり、対応している医療機関では、ユーザーが電子カルテシステムに直接共有することを選択したAppleヘルスケアアプリケーションのデータを、医師が確認することができるようになるという。(※8)
※8:参照:2021 年 6 月 8 日 Apple、安全な共有と新しい洞察の導入により個人の健康を促進



自身では意識することも難しい機微をセンシングし、記録を積み重ねることで、自分の現状や予防するきっかけを得ることができる。時間の経過や環境の変化によって、体質が流動的に変化するからこそ、日々のログが重要になってくると考える。

 

Vol.1を通して、考えたいことは、自分と他者との間で、体調や体質を左右する変数と健康のつくり方がそれぞれ異なるということだ。変数の組み合わせによっては、”健康であること”は、いとも簡単に崩れてしまいかねない。それ程、私たちの体は日々、無意識的にも環境から影響を受け続けているということだ。
私個人としては、何よりもまずは、自分の体質・体調のリズムの特徴を掴んでいきたい。そして、自分や他者が”健康であること”を当たり前にせず、各々が異なる環境で生きていることを意識できる・配慮できる社会を築きたい。

取材・文: 池田真梨子
Reporting and Statement: marikoikeda

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