日本初の女性だけの義足ユーザーコミュニティ ハイヒール・フラミンゴは、なぜ生まれたか。
- 共同執筆
- ココカラー編集部
大阪府大東市に日本初の女性義足ユーザーコミュ二ティ「ハイヒール・フラミンゴ」という団体があると聞き、その活動と経緯について取材に伺った。
同団体は、義肢製作メーカーである川村義肢(株)内の活動としてスタートした後、企業の活動より独立し、現在はNPO法人設立に向けて準備中という。
最近の義足というと、パラリンピックのイメージからスポーティでアクティブな印象を持っていたが、着物会やスイーツ会など、いわゆる「普通の女子」が何気なく行なってるイベントを開催していると聞き、正直、日本女性学習財団未来大賞を受賞した団体だという事実と結びつかなかった。
一体なぜこの女性コミュニティ活動が、社会に必要とされ、未来をより良くする活動として見出されたのか、その背景にある当事者たちの想いを直接聞いてみたいと思った。お話をお聞きしたのは、ハイヒール・フラミンゴ共同代表の髙木庸子さんと野間麻子さん。
髙木さんは義足ユーザー、そしてその義足の開発、製作などを手掛ける川村義肢で勤務する野間さんは、まさに二人三脚でコミュニティを運営するパートナーだ。
私たちを優しい笑顔で出迎えてくれたお二人は、まず義足になることについてお話してくれた。
「義足ユーザーは男性が約8割、女性が2割なんです。」
「義足の人同士、普通に暮らしている分には、お互いあまり出会う機会がないんです。また技師と義足ユーザーも、最初の義足を製作した後は、医師や市役所を通じて修理や作り替えの依頼が無い限り接点がないことも多いんです」
そんな現状に、野間さんは、義足メーカーがお互いを繋ぐ使命があるのではないかと考え、少しでも義足ユーザー同士が出会える場所を作ろうと、スムーズに歩けるようになろう、綺麗に歩こうという趣旨のイベントを行なっていたそうだ。
そして、このイベントが野間さんと義足ユーザーである高木さんを結びつけることになる。
■情報がない!一人ではどうにもできなかった義足への不安
5年前、病気が原因で下腿部を切断することになったという高木さんは、この先の生活がいったいどうなってしまうのか、と不安で目の前が真っ暗になった。
これからどんな風に自分がなっていくのか、先がわからない恐怖。インターネットで調べても、切断した後の具体的な生活やどんな風に社会と関わっていけるのかなど、メーカーの一方的な情報しかなく、義足ユーザーのリアルな声はほとんど見つからなかったという。
「何かを選べる環境にすらなっていない。これからの生活のこと、義足の選び方すらわからない。自分の体のことを自分で選べないのは悔しいじゃないですか。」
元々、高校で教師をしていた高木さんは、足を切断するときも、車椅子ではなく義足を迷いなく選択した。そして、なるべく元の生活に戻れる位置を切断したいと考え、現在の義足の技術的なことを考慮し、患部よりも多く、足を切断することにした。手術後、義足となった高木さんは野間さんのコミュニティに参加したものの、毎回6~8人程度の参加者は、男性ばかり。
なぜ女性が少ないのか、女子だけのコミュニティはできないか、と相談したそうだ。お互い、なぜ女性が少ないのか、と話し合い、女性は引きこもる原因には、見られたくない、隠したい、自分の家族だけと接するだけの生活でもいい、
社会と距離を置いてしまってもいい、と思う女性が多いことにここで初めて気がついたという。
■女子による女子のためのコミュニティ
髙木さんと野間さんは、すぐに女性だけのコミュニティを立ち上げることにした。女性だけのコミュニティを求めている人たちがいるはず。みんながみんな義足でスポーツをしたいと思っているわけではない。アクティブな活動だけではなく、もっと普通に悩みを打ち明けられるようなコミュニティが必要なのではないか、と考えた。
障がい者スポーツセンターや、ランニングチームなど、男女混合のコミュニティはいくつか見つかったものの「そもそも別に私は走りたくないねん!」という高木さん。
野間さんも、「私が義足になってもランニングチームなんて絶対入らない」と笑う。
ハイヒール・フラミンゴは、義足に関わる女性が、ただお茶を飲みながら談笑したり、ちょっとした普段の悩みを聞いてもらったりする、それだけでいい。それがコミュニティの根幹。
最近話題となった義足ファッションモデルにフィーチャーした切断ビーナスや、世界で活躍するパラ選手などの存在は時代のアイコンだが、ハイヒール・フラミンゴはもっと身近な存在でいい。
彼女たちが作るコミュニティの目的は、同じ境遇の人たちで繋がることで守り合う、ひとつの社会を作ることだった。
■ハイヒール・フラミンゴの存在意義
コミュニティとしての形が出来上がったハイヒール・フラミンゴに転機が訪れる。ある日、日本女性学習財団の未来大賞のチラシを偶然受け取った高木さんは「フラミンゴのこと書いたら面白いんじゃないかな・・・」と感じたという。すぐにメンバーに声をかけた。
技師やユーザーそれぞれの立場で日々感じていることを4人のオムニバス形式のレポートを応募して、見事、大賞を受賞したのだ。
いままで内に秘めていた気持ちを、コミュニティ活動で昇華していたが、言語化し発信することが必要だと本能的に感じていたように思う。
「この受賞がなければ、ただお茶会をしたり、話したり、というだけでそのうち立ち消えになっていたかもしれない。このレポートを書いたことで、取材依頼や出会いのきっかけが生まれるようになり、私たちの意識も変化して、次のステージに上がったと感じた。」
現在までの参加者は、延べ116人を数える。その内訳は、義足ユーザーだけでなく、義足に興味がある人、義肢製作会社の社員などさまざまだ。
「みんなが変わってきてるのが目に見えてわかるんです。人生そのものが変化している。」
コミュニティに参加してもらい、人や社会に関わり、みんなの人生が変わっていってる!と感じる瞬間が活動を継続する原動力だという。
「あきらめていた乗馬にもう一度挑戦してみたくなった。」
引きこもりがちだった女性たちにそんな変化が訪れることが何より幸せなのだ。
■技術者の思いは届いているのか
一方で、技師としてユーザーに関わる人たちはどんな思いを持っているのか。
コミュニティのお話を聞いたあと、川村義肢の製造現場を見学させていただいた。
私自身、製造工場についてある程度知識はあるのだが、ここまでの多種多様な設備がひとつの企業に揃っている工場は初めてみた。
成形、縫製、切削、圧着、木工、金属加工、試験場などあらゆる製作加工がワンストップで動いている。
中には、ウミガメの義手まであった。それもそのはず。ひとりとして、同じ体型、欠損があることはなくすべてが文字通りオーダーメイドなのだ。
ひとつひとつのパーツは細かくオーダーシートに仕様が書き込まれ、それを丁寧にひとつずつ職人が作っていく。
分業制ではあるが、プロフェッショナルが徹底的に使いやすく仕上げ、また子供用ともなれば、成長に合わせて作り替えながら一生使い続ける体の一部を作り出す。
ひとりのユーザーのために、たくさんの職人が力を合わせ人生をよりよく過ごしてもらうための道具を作っていた。しかし技師たちは、直接ユーザーと顔を合わせることはない。
未来大賞のレポートのオムニバスの一編には、直接ユーザーと関わらない技師が自分のやっている仕事が本当にユーザーの満足につながっているのか不安だったがハイヒール・フラミンゴを通じ、直接ユーザーと繋がることで自分の仕事に自信を取り戻し、希望を見出したと記されている。
まだ私ができることがあるかもしれない、と退職希望を取り下げた社員もいたそうだ。
「義足ユーザーだけでなく、スタッフも人生が変わる体験をしているんです。」
野間さんは、googleの提唱するコミュニティ論の中で、精神的安全性が担保されることで、チームのパフォーマンスがあがるという話を聞き、義足に関わる人たちが直接繋がり、この時だけは本当の自分の気持ちをさらけ出していい場所、支えあっている関係ではなく、常にお互いがフラットな関係でいられる場所を作ることがハイヒール・フラミンゴのスタート地点になっていると考えている。
■今後描いている未来は?
「アフリカに行こうと思うんです。」あっけらかんと高木さんが言う。未来大賞を受賞した時に、ある動物カメラマンの方から、ハイヒール・フラミンゴのロゴをプレゼントされたという。
「フラミンゴが翼をひろげて羽ばたこうとするその姿は、私たちに前に進む大きな力を与えてくれました。」
このフラミンゴのイラストは、ケニアのボゴリア湖に生息する野生のフラミンゴがモデルと聞き、「ならば見に行こう!」と。
アフリカへ行こうと思えるメンタルをもった義足ユーザーがいることが社会に伝われば、もっとみんなの不安を取り除くことができるはず。次のカフェイベントでは、日本とアフリカをオンラインでライブ中継したいと考えているそうだ。
「誰もが何かしらの生き辛さを感じ、抱えて生きる現代で、ちょっとでもみんなが生きやすくなる社会、世の中になれば、と思っています。」
できっこないと思っていたことを次々とハードルを飛び越えて、「大丈夫だよ!」と伝えたい。そんな気持ちが高木さんの言葉から伝わってきた。
この一年半の活動で、どんどん規模やステージが変わってきたこのコミュニティだが、慰めや癒し合いの場とはまったく思っていない、
前向きにかわいく、きれいに、おしゃれでありたい。普通の女性が願う、等身大の思いがそこにはある。
「自分たちでいうのもなんですが、女性義足コミュニティはコンテンツとして唯一無二なのかもしれないなと感じています。」
彼女たちが作り出した本当に安心できる義足コミュニティは、まだまだ認知も理解もこれから。けれど一歩ずつ自分たちのペースで進みながら出会って引っ張り上げてくれる仲間とともに、成長を続けていくだろう。
いま社会に必要とされるこのコミュニティも、いつか当たり前に溶け込み、境界線が消える日が近いのかもしれない。
執筆者 田中 友規
共同取材 増山晶
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