日本の空港のおもてなしが、すごい。
- プランナー
- 吉澤彩香
みなさん、最近、空港を利用されましたか?スポーツインベントの開催や、観光などたくさんの人が日本の空港を利用され、近年では国内・国外ともに増便もあり、年々賑わいを増しているように感じます。お店や設備も充実している日本の空港は、海外からも好評とのこと。日本の第一印象の場となる空港で、羽田・成田空港内のお土産屋さんやブランドショップ、免税店等を約100店舗を運営する「株式会社羽田エアポートエンタープライズ(以下:HAE)」さんの「接客」についての取り組みをご紹介します!
■色々なカタチの「会話」に向き合う
接客の取り組みについて、HAE品質管理課・副課長の原裕美さんにお話をお伺いしました。
たくさんの方に空港をご利用いただく機会が多くなり、これからますます増えるであろう外国からのお客様に、日本ならではの丁寧な接客をご提供できればと思い、英語、中国語、外国籍のスタッフの日本語などの、語学スキルを学ぶトレーニングを行っております。また、さらに多様なお客様に対応できるよう3年ほど前から、言語のひとつとしての手話でもお客様と会話できるようにと手話ができる人を増やすプロジェクトが発足しました。自身が接客のイメージをもてなければ、現場では逃げ腰になってしまうことがあります。どのようなお客様にも心地よくお買い物をしていただくために、最低限、みんなが手話で挨拶やご案内をできるようになり、積極的にお声掛けできるようになろうと目標を決め、「ふやそう!手話ができるスタッフプロジェクト」を立ち上げました。聴覚障害のある講師と手話通訳でもある講師を迎え、各店舗から選定された手話推進委員がトレーニングに参加します。推進委員は、学んだことを自身の店舗で指導して広めていく形式です。まずは、手話や聴覚障害のことを学び、挨拶とご案内等の基礎からステップアップ編を勉強していきます。各店舗、毎週手話の日や、英語の日など勉強することを曜日できめて継続して学べる体制を作っています。また、聴覚障害のあるかたにモニタリングをしていただき、手話のレベルチェックや、ロールプレイングコンテストも開催しています。
■講師として・当事者としての視点
「ふやそう!手話ができるスタッフプロジェクト」の企画・講師をされている、聞こえる世界と聞こえない世界をつなぐユニバーサルデザインアドバイザーの松森果林さんに、現場についてお伺いしました。松森さんは、右耳の聴力を小学四年生で失い、左耳も高校生で聞こえなくなられた中途失聴者です。聞こえる世界と聞こえない世界両方を知る立場から、ユニバーサルデザインのアドバイスや講演、大学講師、研修講師などを空港からエンターテイメントまで幅広く活躍されています。わたしは、以前、音のない世界で対話をするプログラム、「ダイアログ・イン・サイレンス」の取材で果林さんにアテンドいたただき、今日は感動の再会です!※以前の記事はこちら→https://cococolor.jp/dialoginthedarkexperience
聴覚障害の当事者としてお買い物で感じる不便なことは、店員さんからの声掛けに気づけない、お薦めの商品や、商品に関する情報が分からない、聞きたくても聞けない、などがありますが、聞こえるお客様のように、店員さんに相談しながら買い物を楽しめたらいいなって思うんです。HAEさんは、わたしを講師として迎えるだけでなく、手話モニタリングやロールプレイングコンテストなどで、「お客様役にはろう者を」と積極的に当事者を巻き込んだりと、プロジェクトを進化させている所も素晴らしく、プロジェクトを推進しているメンバーは、とっても柔軟でフットワークが軽く、手話技能検定、手話のピンバッジや筆談ボードの導入などのアイデアを、どんどん実現化されていきます。管理職も現場も女性が多く、女性ならではの視点や、多様性を受け入れる土壌など、すべてが素晴らしいです。プロジェクトメンバーも一緒に手話技能検定に挑戦されるのも凄いです!「接客手話を長期的に学んでいくシステムの構築」をされている企業はなかなかないので、ロールモデルとなって広がっていくといいなと思います。
受講されているみなさんは、学びながら手話という言語の面白さを、楽しんでくれているように感じます。みなさん接客のプロなので、講座の最初に「手話」×「接客」とは?を考えてもらうようにもしています。プロたちがさらに手話を学ぶことによって、接客そのものが変わってきているのではと感じることもあるんです。手話って、手の形だけではなく、顔の表情も大切で、例えば、眉毛の上げ下げ、眉間にしわをよせたり、目の大きさ、首の傾け方、それから身体の動きも全部ふくめて手話になります。「こちらへどうぞ」というときにも、声だけではなく、手でいざなえば簡単に通じますよね。笑顔で案内する方向へ手と視線を動かすだけで分かりやすくなり、言葉がわからなくても伝えることが出来るんです。手話はもちろんのこと、「ちょっとした視線や表情や身体の動き」を接客の中に自然と取り入れられるようになるといいなと思いながら、毎回一緒に講師をしている手話通訳士の飯塚佳代さんとアイデアを練っています。
今年の手話モニタリングに協力いただいた難聴者は、難聴であることを伝えると拒絶されたり迷惑そうな顔をされたりという幼少期の経験が重なったこともあり、大人になっても難聴であることをオープンにできずに生きてきたそうです。そんな彼女が、手話モニタリングで店舗のスタッフのかたに「聞こえにくい」ことを伝えたところ、手話や筆談や身振りを、自然な笑顔で対応してくれた様子にとても感激し、「今後はもっと聞こえにくいことを発信していこうと思えるようになった」と言ってくれました。スタッフたちが、手話を学び、豊かなコミュニケーションで接客ができるようになると、彼女のようにコミュニケーションに消極的になっていた人たちがどんどんオープンになっていけるんですね。その先にどんな光景が広がるのか…、想像しただけでワクワクします!
■再現性の高いロールプレイング
HAEさんが年に一度開催されている「接客ロールプレイングコンテスト」を見学させていただきました。コンテストは、「日本語(外国籍スタッフ)」、「日本語」、「英語」、「中国語」、「手話」の部門に分かれて、語学スキルはもちろんですが、接客スキル、コミュニケーションスキルも含めて総合的に評価されるコンテストです。言語がわからなくても、接客レベルの高さは一目瞭然なのですが、言語がわからない人のために、UDトーク(※)による文字情報を舞台のスクリーンに投影しているのも印象的でした。
食品や服飾雑貨店、免税店、ブランドブティックのスタッフの方々が手話で接客スキルを競い、お客様役も実際に聴覚障害のある方が演じております。出場者が自己紹介の冒頭で、「みなさんこんにちは」と手話を交えて話すと、オーディエンスの方々も手話で「こんにちは」とレスポンスされていたのは驚きました。
お客様の欲しい物を一緒に探すということは、お客様のニーズをより具体的に、聞き出す力が必要で、手話での会話力だけでなく、どんなことを掘り起こして聞くかという判断力も必要になり、同時に、手で会話する姿は、見入ってしまいました。
出場された方々は、実際の現場で、お客様と会話できたときに自分の成長を感じ、何より嬉しいそうです。こつこつと続けられている練習の積み重ねが現場で発揮できることがモチベーションアップにも繋がります。
2020年には、スタッフ一人一人が、積極的にお客様に寄り添い、空港を利用するみなさまに満足していただけるサービスができるように努めたいと、原さんは仰られておりました。現在、手話技能検定4級(基本的な接客が可能レベル)のスタッフは90名以上で、手話ピンバッジを着用されているそうです。また、全店舗に筆談用具を「見えるところ」に設置されています。
原さん、松森さん、ありがとうございました!
■進化するおもてなしの可能性
今回は手話での接客についてお話をお伺いしましたが、車椅子の使い方や、高齢者の接客、筆談のコツ、表情の作り方、ボディランゲージなども取り入れて、ハンディキャップのある方や外国人にも対応できるコミュニケーションなど、様々なプログラムがあり、日々進化しているそうです。海外旅行から戻るたびに、日本の空港って本当に安心できて素晴らしいなと毎回思います。2020年はさらに、みんなが日本で楽しめるように、多様なコミュニケーションのあり方をご参考にされてください!
株式会社羽田エアポートエンタープライズ公式サイト
※「UDトーク」とは、コミュニケーションの「UD=ユニバーサルデザイン」を支援するための会話を見える化するアプリです。
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