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Dec.

2024

interview
15 Jan. 2020

“点毎(てんまい)”への想い~日本唯一の点字新聞「点字毎日」ができるまで

國富友希愛
コミュニケーション・プランナー
國富友希愛

あなたは、“点字毎日”をご存じですか。

「点字の新聞?」

「毎日新聞を点字にしているんですか。」

という声を聞くことがあります。

点字毎日は、毎日新聞を単純に点字にしているものではなく、視覚障害がある方を対象読者とした独自のメディアです。その記事は、視覚障害がある人々が、まさに必要とするニュースや興味関心事にフォーカスされており、点字毎日という新聞のカタチをした、ひとつの盲界(※1)のコミュニティとなっています。100年の歴史をもつ点字毎日。その制作現場には、ダイバーシティの“魂”を感じさせるオーラや文化があり、記事を日々構成するチームの皆様の努力やその制作風景、点字毎日のポリシーには、感激させられます。

cococolor読者の皆様に、点字毎日の素晴らしさや、私の感激の熱量が、少しでも伝われば嬉しいです。

※1 盲界 視覚障害がある人々のコミュニティの自称。

点字毎日編集部チームの皆様

今回は、(最左)遠藤哲也編集長 

   (前列左下)佐木理人記者

   (奥列中央)濱井良文編集次長にお話を伺いました。

【点字毎日のここが尊い!!】

■発刊の言葉が素晴らしい。

↑初代編集長中村京太郎氏の発刊の言葉です。

『失明者に対して自ら読み得る新聞を提供し…(略)…一方には盲人に対し、一個の独立せる市民として社会に活動するに必要な知識と勇気と慰安とを与え、他方には、これまで盲人に対して眠れる社会の良心を呼び覚まさんとするにあります。盲人教育発達し、盲人の自覚せる欧米には今日、普通人と失明者との差別、ほとんど撤廃せられ…』

國富心の声(これ100年前の方が書かれた言葉なんですよねえ…。驚)

点字毎日初代編集長の中村京太郎氏は、100年前に、現在のダイバーシティ&インクルージョンに通じる考え方を持ち、その理念のもと点字大阪毎日は発刊されました。『点字毎日は、目の見えない人のためであり、かつ目の見える人の意識を変える存在』だと。欧米の人々の障害に対する意識は、日本のそれと異なり、日本は“遅れている”というのは、未だによく耳にする話ですが、100年前から障害があってもさまざまなジャンルで活躍できていると中村氏が評価した欧米に対して、それから100年後のいまの日本では、社会がインクルージョンを目指し、社会側の障壁を減らそうという動きとその意識は追いつけているのだろうか、とドキッとさせられます。

濱井編集次長「日本では、D&Iが“まだまだ”と感じます。意識が高い人や、当事者、関心がある人のものになってしまっているかもしれません…。」

点字毎日第一号の創刊は1922年。創刊が提案された当初は「そんなもうからんもん、あかん」と反対の声が強かったそうです。大阪毎日新聞社(当時)社長・本山彦一氏の「これはいい案だ、ぜひやろう。“損得などの問題ではない”」の一言で点字毎日の創刊が実現されたそうです。2020年ですね。改めて中村氏の発刊の言葉を振り返ると、この国の「社会の良心」は目覚めているかどうか、考えずにはいられない、発刊の言葉でした。

 

■廊下がスゴイ!

毎日新聞大阪本社にある点字毎日編集部のフロアへ案内を受けて、すぐに目に飛びこんだのは、廊下の“点字ブロック”です。あたりまえのものとして、廊下の中央に点字ブロックが整えられています。頂戴した点字毎日で働く皆様の名刺には、点字が印字されていました。こういったちょっとした心配りや工夫。視覚障害がある人もない人も共に働いていることを前提にオフィス環境が整えられていることは、“D&I”の体現であると、廊下を歩きながら、はっとさせられました。

 

■宝ものがすごい!

オフィスに飾られている100年前の点字大阪毎日創刊号。

歴史を感じさせる褐色の輝きがあります。

國富心の質問(おいくら¥くらいの価値があるんでしょうか…)

大阪の毎日新聞本社は戦火を奇跡的に免れたと伺いました。実際に触ってもいいとおっしゃる(本当に私ごときが触っていいの…?!?!)ので、創刊号に触れさせていただきました。点字がいまなおしっかりしており、当時からの技術やクオリティの高さが100年の時を超え、実感されます。

 

■発刊までの工程がすごい!

大変珍しい機械×選ばれし職人の方々による手作業で一部一部大切に発行されています。

 

金属板が版になります。

インターポイント式という、両面に印刷しても点字がかぶらない

特殊な手法で、点字が、金属板に打ち込まれます。

出来上がった表用と裏用の2枚の版に、紙をはさんでローリングさせながら、印刷。

ページング後、最終工程の二つ折りにする際は、刷りたての点字をつぶさないように、手作業で一部一部織り込まれるそうです。

職人の方の手を通して、丁寧に畳まれた出来立ての点字毎日は、大切に作られた重みがありました。

 

■点字毎日を訪れる人がすごい!

國富心の声(へ、ヘレンケラー様じゃないですか・・・!!!)

他新聞社さんからも賞を授与されています。

点字毎日は、新聞社の垣根を越えて、世界的に注目され、尊重されています。

■全盲の記者が在籍する!

点字毎日には、視覚障害がある佐木理人記者が在籍しています。彼自身が、日本各地を巡り、当事者ならではの鋭い視点で、日本の今が切り出されています。

佐木記者「僕は、外国語大学出身で、英語の研究者を志望していましたが、縁あって障害者関係の支援センターで働いていました。点字をチェックするアルバイトにこないか、と点字毎日の当時の編集長に声をかけられ、点字の校正のアルバイトをして、そうこうするうちに、正社員になり、記者に転身しました。この10月からは、取材と執筆のみを担当することになりました。」

遠藤編集長「佐木さんは、社説をかく論説委員も兼務しています。」

校正のアルバイトからジャーナリストへ!かっこいい・・・!!

と私が思わず声を漏らしてしまうと、佐木さんは、「いえいえ・・・」とご謙遜されながら、ほほ笑まれました。

 

■読者からの愛がすごい!

遠藤編集長「そういえば・・・、2018年の大阪北部地震で、読者の方から、『点毎の皆様は大丈夫ですか。』というお問い合わせをいただきました。新聞社に対して、記事などのクレームがくることはあるけれど、記者や編集部を心配する、そういった“お問い合わせ”をいただいたことに大変驚きました。点字毎日と読者の方の関係性は、本当に家族とか親戚とかそういう存在にもなっているのかもしれません。」

そんな新聞他にありませんよね。先ほどご紹介のとおり、一部一部大切に発刊された点字毎日は、読者の方々の手元に渡ったその後も、日々愛されていることがわかります。

 

■ひとつの日本文化を守っている!

遠藤編集長「最近点字を読める人が少なくなっているのですが、それは一般で言われる“活字離れ”と同じ現象だと思います。」

佐木記者「インターネットの時代になって、情報が耳から入るとは言え、文字のほうが、読み直しも、飛ばし読みもでき、深い理解もしやすい。点字を読む人が少なくなるからといって、“もう点字がいらない”のかというと、そういうわけではないと思います。点字文化を守るということが大切で、もちろん時代の流れに合わせて、フレキシブルに点字毎日の音声版やデータ版も発行していますが、紙の点字も守る存在でありたいと思っています。」

 

■盲界コミュニティを進化させている!

佐木記者「点字毎日には3つの役割があります。一つ目は、“伝える”。わかりやすい言葉で、視覚障害者の方に“伝える”役割。二つ目は、“つながる”。盲界にとっての再会の場であり、出会いの場であり、つながりを生む媒体であること。三つ目は、“のこす”。100年近くも視覚障害について書き留めた媒体は他にないと思います。戦時中も不定期ではありましたが、発刊し続けました。その時代に、視覚障害者がどういうことを考えてきたのかを“のこして”、さらに、これからも残していく媒体。伝える・つながる・のこす、ことが点字毎日には、ずっと求められていると思っています。最近の視覚障害者の方のコミュニティの傾向の話をすると、視覚障害にはレイヤーがあって、生まれつき目が見えない方、中途で視覚障害になられた方、弱視の方などいらっしゃいますが、いま中途で視覚障害になられた方のコミュニティが“元気”なんです。それは、目が見えにくくなっても働ける復職についての取り組みが充実してきたという理由もあるのですが。」

遠藤編集長「たとえば、点字毎日の紙面で現在、人生の中途で全盲になった医師らにリレーエッセーを書いてもらっています。深く考えさせられる文章で、読者に好評を得ています。視覚障害のある医療従事者の存在はまだ社会に広く知らせていません。こうした連載企画などでも、視覚障害のある人のコミュニティ、サークルを内外に発信しています。」

 

■点字毎日の皆様が思うダイバーシティ&インクルージョンのいま

濱井記者「ダイバーシティがひろまっている一方で、それを“きれいごと”のようにとらえている人もいると思います。しかし、いざ当事者になったときに、そういった人々が同じ気持ちでずっといられるとは限りません。人間の立場というのは、いろんな立場があって変化しますから。そういう目で世の中を見ています。私は点字毎日にいることで、当事者の方の気持ちも理解しながら、客観的な世の中への視点も持ち続け、その間のバランスを常に大切にして、点字毎日を発刊し続けたいと思っています。」

遠藤編集長「毎日新聞社と大阪府豊中市教組主催の『インクルーシブ教育を考えるシンポジウム』を私は2003年から担当していますが、始めた当初は、“ソーシャルインクルージョン”という言葉さえ社会に認知されていませんでした。当時に比べ、言葉や考え方は広まってきていると思いますが、一方で、日本は今、分岐点にあると思っています。『点字毎日』は、社会の多様性を大切にし、共生を目指す点字新聞です。しかし、こうしたD&Iと逆ベクトルの動きや考え方もあります。たとえば、2016年に起きた相模原障害者施設殺傷事件、その被告を支持するような言説や世の中の無関心さには、胸を痛めています。ダイバーシティ&インクルージョンをより進めていかないと、少子高齢社会の日本は行き詰まると考えます。」

 

■取材をさせていただいて

私は、視覚障害者の方と共に、学んだことがありません。お仕事をしたことがありません。オフィスのエレベーターや看板に点字はないです。今回点字毎日編集部を取材させていただき、それが、“奇妙なこと”だと思うようになりました。障害がないことを、健常と思いこむのではなく、ただそれだけの違いだと認識して、自然に共生できる、すべての人の選択肢を奪わない社会が今こそ日本で求められていますし、まさに点字毎日はそれを100年間主張してきたかけがえのないメディアだと言えるのではないでしょうか。

 

取材・文: 國富友希愛
Reporting and Statement: yukiekunitomi

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