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30 Jun. 2020

LGBTQも子どもがほしい!それを諦めなくていい日本へ【後編】

福居亜耶
CMプランナー/コピーライター
福居亜耶

先日公開した前編に続き、「LGBTQが子どもを持つこと」を支える団体である「一般社団法人こどまっぷ」共同代表理事の長村さと子さんへのインタビューの後編をお届けします!

※この記事では、「(一社)こどまっぷ」が採用している表記にならい、異性愛者ではない人たちの総称として“LGBTQ”という言葉を用います。また、「子どもを持つ」という記事のテーマ上、体の性のみで「男性・女性」と表現することがあります。

 

長村さと子(ながむら・さとこ)さん。「一般社団法人こどまっぷ」共同代表理事。子どもを持ちたいLGBTQ当事者の3人で、2014年4月に母体となる団体を立ち上げ。2018年に一般社団法人化。東京と大阪にある4つの飲食店の経営者でもある。

 


■子どもがかわいそう?親のエゴ?

LGBTQへの理解が進んでいるなか、もうそんなしょうもないこという人はいないと思うのですが『子どもがかわいそう』という声はまだありますか?

長村さん:個人的な感覚でいうと、減ってきてはいます。ただ、そういうしょうもないことを言うのが自分の親だったりしますからね…。あと、たしかに『子どもがかわいそう』という言い方は減ったけど、その言葉が『それは親のエゴだよ』という言葉に変わったのかな。言い方を変えて、言われていることはあまり変わらないです。そういう人は、新しくいろんな人に出会わないかぎり、変わらないし、変わると都合の悪い人たちだから、ほっておく。

『ほっておく』というソリューション。

長村さん:当事者じゃないとわからないことがあるのも事実ですからね。反対していた親御さんが実際に生まれた子ども(孫)を見てコロッと態度が変わるのも知っているし、保育園や幼稚園でそういう親がいて仲良くなっちゃうかもしれないし。ただ、これからLGBTQが親の子どもたちに出会う可能性は確実に増えてゆくと思いますよ。

長村さんは、実際にLBGTQ家族との交流もあると思いますが、みなさんどんな感じで暮らしているのでしょうか。

長村さん:どんな感じかというと、普通の子どもとなんら変わりないです。家族をつくってゆく過程に、さまざまな困難があったからこそ、必死に子どものことを大事にしている。なにか問題があったときは、出す答えをみんなで探して考えて、子どもたちに用意してあげている感じはします。

確実に、全員が望まれて生まれてきた子どもですもんね。

長村さん:ほんとに、そうなんです。ほんとに。だから、普通の家族と変わらないですが、あえて言うなら、試行錯誤しながら、子どもの気持ちを一番に考えながら生活をしているという感じですかね。高齢出産の人たちも多いから、成熟した気持ちで立ち向かってるように見えます。

たしかに、20代でやっと自分のセクシュアリティを受け入れて、それから自分の人生について考えていたら、出産するのは30代後半以降になっちゃいますよね。

長村さん:そうなんですよ。いまのところは、年齢的には30代半ば以降の人たちが多いかな。

 

■妊活はオンライン化できない

ここ数ヶ月、コロナ下の生活が続いていますが、それによってLGBTQの子づくり・子育てにはどんな影響が出ていますか?妊活はオンライン化できないですよね。

長村さん:子づくりの面でいうと、LBGTQの妊活にかかわらず、4~5月は全国の不妊クリニックがストップしてしまったんです※1。本来ならば、不妊治療というのは止まるべきものではないのですが…。また、子育て面で言うと、そもそも保証が十分でないLGBTQ家族の子育てに関する不安を、コロナが増幅させています。たとえば、こんな問題があります。

・PCR検査や入院する場合に家族として認められない可能性

・感染経路などの調査情報発表による個人特定の恐れ、それによるアウティング※2

・コロナによる不景気、社会保障が十分に受けられない

あと、子育てしながらのリモートワークについては、大変という人もいれば、働きやすいという人もいて、人それぞれかな。小学校に上がっている子どもが少ないので、まだわからないというのもあるかもしれないけど…。

リモートワーク中のオンライン会議で部屋の中が映されて、意図しないカミングアウトをしなければならなかったという話も聞きました。

長村さん:カミングアウトしていない人にとっては、隠すのが大変ですよね。部屋のサイズでもほかに家族がいるのがわかっちゃうし。

一人暮らしのはずなのに、「家ひろっ!!」ってなりますよね。

長村さん:たしかに、クローゼット※3の人たちは大変かもしれない…。

※1 不妊治療の専門医でつくる日本生殖医学会は4月1日、新型コロナウイルスに関して「終息か、妊婦に使える薬が開発されるまで、治療の延期を選択肢として示すように医師に勧める」とする声明を発表。

※2 他人のセクシュアリティを勝手に第三者に言いふらすこと。⇄「カミングアウト」:自分のセクシュアリティを自らの意志で相手に伝えること。

※3 LGBTQの人たちが社会生活において自分のセクシュアリティを隠している状態のこと。

 

「こどまっぷ」のイベントは、コロナ下でオンライン化。つながりの場所は絶やさないようにしている。

 

■誰もが子ども・子育てについて語っていい

長村さんはLGBTQの子づくり・子育てを含めて、これからどんな社会にしてゆきたいですか?

長村さん:私が思うことは、誰もが『自分の意見が尊重されて、自分で決められる権利』があるはずということ。妊娠や出産、生殖医療を必要としている人が、必要な時に、対等に受けられたり、LGBTQが後ろめたさを感じずに子どもを育てたりすることが、今はいろんな問題があってできていない。私は、問題や課題について、みんなで考えたり、助け合ったり、補えたりできる社会を目指したいんです。そういえば、私が強く思うことがあるんです。

なんでしょうか?

長村さん:例えば、私にはまだ子どもがいないけど、だからといって、子育てについて語っちゃいけないのかといったら、そうじゃないはず。子どもがいる人だけが、子どもについて話さないといけない、教育について話さないといけない、子育てがしやすい環境について話さないといけないというわけではないと思うんです。あらゆる立場の人が、もっと自由に関われて、交われて、語り合える場所や仕組みを作るためにも、当事者かそうじゃないかの違いに過敏になりすぎるのはどうかなぁ…と思っています。

SNSなどの発信の場でも、子育て・教育の分野に関わらず、『当事者じゃない人はだまっておけ』みたいな空気感もあったりしますよね…。

長村さん:LGBTQの子づくり・子育てにも、まだ解決していない、決着がついていない問題がたくさんあります。それを、みんなで助け合って、サポートし合える社会をつくってゆく必要があるんじゃないかなと思います。

さきほど、LGBTQが子どもを持つことの課題についてお話されているときに、「そもそも同性婚が認められていないので」とおっしゃっていました。現在、日本において同性婚を求める訴訟が行われていますが、長村さんは同性婚が成立することでLGBTQの子ども問題もある程度解決するとお考えでしょうか?

長村さん:お答えするのが難しい質問なのですが、例えば台湾は2019年に同性婚が認められましたよね。ですが、台湾国内では生殖補助医療はまだ合法化されていないんです。たとえば、婚姻関係のあるゲイカップルやレズビアンカップルだとしても、日本と同様に※4提供精子や提供卵子を用いた人工授精はできないと決まっています。

同性婚が認められているのに違法なんですか?!

長村さん:だから、あながち同性婚制度の問題だけではないとも言えます。ほかにも、トランス男性の人はメスを入れて体を変えないと、戸籍を男性に変えられない。つまり、子どもを作れない体に手術しないと、自分の性を認めてもらえないんです。

トランスジェンダーの方は、子どもを産む権利と自分らしい性別や生き方を、天秤にかけないといけないのが現状なんですね…。

長村さん:医療も法律も社会も、いろんな面で配慮や議論が足りていないと感じています。ただ、今いる子どもたちの親として、遺伝子上の親もそのパートナーも、どちらも親と認められることはとても大事なので、その点では同性婚が認められると前進はすると思います。実は、ある「こどまっぷ」メンバーのケースで、産みの親が亡くなったことがありました。そのときに、その子どもはどこにいくのかで様々な問題が起こりました。そういった有事の際には、『両親となった2人が結婚できていたら違ったんだろな』と思いましたね。

また、生まれてきた子どもたちに、選択肢がなかったことによる婚姻制度の劣等感を引き継がせるのはどうか、と思っています。同性婚ですべてが解決するわけではないけど、これらの面で進展するのは確かですね。

※4 詳しくは前編で。

 

■長村さんからのエール

では、最後に子どもを持つことを考えているLGBTQの方へのメッセージをお願いします!

長村さん:出産したLGBTQの方が言っていたのは、『案ずるよりも産むが易し』。悩んでいる人たちには、もちろん孤立してほしくはないし、協力者はいればいるほどいいとは思うのですが、あまりにもいろんな問題について考えていたら、なにもできなくなってしまいます。確実にここ数年で、世の中も前に進んでいます。今の環境は苦しくても変わってゆくから、諦めずに一緒にがんばりましょう。なにかあったら頼ってください。ひとりで悩んで抱え込まないでほしいです。

『案ずるよりが産むが易し』は、まさに文字通りの意味ですね。

長村さん:世の中にはまだまだ、伝統的な家族観※5こそが正しいと思って、LGBTQ家族や選択的シングルマザー※6を異常と見なす人たちがいます。本来、人と違うことは個性だったり、長所だったりするはずなんです。家族の形はそれぞれ違います。一見普通といわれてる家庭も実は崩壊してたり誰かの犠牲の上に成り立っていたり。家族というものは、本当は同じ形がなく、誰にも正しさを語れない存在であるからこそ、がんばって型にはまろうとする必要はないのではないかと感じています。そもそも多様性とはなんたるかを理解しきれていないまま、多様性が押し進められているので、違いを認め合うことがパワーになるということを体現していければと思っています。

長村さん、貴重なお話をありがとうございました!

※5 いわゆる家制度のこと。結婚した夫婦と夫婦の子どもがいる家族を指したりもする(解釈はさまざまです)。

※6 経済的にも精神的にも自立しており、結婚せずに母親となることを自らの意志で選択した女性のこと。

 

最後ちょっとだけ登場してくれた愛犬・さわちゃん。


以上、前編/後編にわたって、「一般社団法人こどまっぷ」共同代表理事の長村さと子さんのインタビューをお届けしました!今回の取材を通して、ひとくくりに『LGBTQ』と言えども、L・G・B・T・Qでもそれぞれ課題が違うように、置かれている立場が違うと出てくる問題も違ってくることがよくわかりました。

多様性を認め合うだけでなく、さらにそれぞれの多様な課題までを認め合い、社会全体で解決に向けて努力すること。これこそが、社会全体が発展していくための多様性の意義だと改めて感じました。なぜなら、LGBTQが子づくり・子育てしやすい環境は、きっとすべての人にとって子づくり・子育てしやすい環境であるはずですからね。

取材・文: 福居亜耶
Reporting and Statement: ayafukui

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