LGBTQも子どもがほしい!それを諦めなくていい日本へ【前編】
- CMプランナー/コピーライター
- 福居亜耶
ここ数年の間に、日本では急速にLGBTQへの理解や制度の導入が進んでいます。ただ残念なことに、いまだにLGBTQの人たちは、さまざまな差別や困難に直面している毎日です。 その困難のひとつが「子どもを持つこと」。
同性同士であれば自然には授からないことに加え、日本では同性婚が認められていないため、法律や社会保障、医療制度の面で困難が伴います。さらに、いわゆる「伝統的な家族」のカタチではないため、『子どもがかわいそう』『いじめられるのでは?』という外野からの声も…。こんなたくさんの高い壁を前にして、子どもを持つという選択肢があることすら考えられなかったり、子どもを持ちたい気持ちから目をそらし続けたりするLGBTQもいるのが現状です。
…しかし!「子どもを持ちたい」という気持ちは、LGBTQだからといって諦めないといけないものではないはず!そして、家族のカタチにとらわれずに子どもを持てる社会は、LGBTQに関わらず、みんなにとって生きやすい社会なのでは?
そこで、「LGBTQが子どもを持つこと」を支える団体である「一般社団法人こどまっぷ」共同代表理事の長村さと子さんに、日本でLGBTQが子づくり・子育てすることについての現状や課題、そして展望をインタビューしました。とても気さくに、的確に、たまに鋭くお答えいただいたオンライン取材の様子を前編/後編にわけてお届けします!
※この記事では、「(一社)こどまっぷ」が採用している表記にならい、異性愛者ではない人たちの総称として“LGBTQ”という言葉を用います。また、『子どもを持つ』という記事のテーマ上、体の性のみで“男性・女性”と表現することがあります。
長村さと子(ながむら・さとこ)さん。「一般社団法人こどまっぷ」共同代表理事。子どもを持ちたいLGBTQ当事者の3人で、2014年4月に母体となる団体を立ち上げ。2018年に一般社団法人化。東京と大阪にある4つの飲食店の経営者でもある。
■「一般社団法人こどまっぷ」とは
―はじめに、長村さんが共同代表理事を務めていらっしゃる「一般社団法人こどまっぷ」とはどんな団体なのでしょうか?
長村さん:『LGBTQが子どもを持つ未来を当たり前に選択できる社会』を目指して活動しています。子どもがほしいLGBTQ向けの『妊活の初心者講座』や専門家による講演会を開催したり、ピクニックや交流会などのコミュニティづくりをしたり、子どもを持つためのパートナー探しのお手伝いもしたり。2019年にはクラウドファウンディングでマガジンも作りました。最近は、コロナ下で、「オンラインお茶会」を開催して、日本国内外の方々とつながって悩みを共有したり、相談を受けたりしています。
クラウドファウンディングで製作された『多様なかぞくへの アライアンス マガジン Love makes a family』
―立ち上げのきっかけを教えてください。
長村さん:元々、私がLGBTQの当事者であり、20歳頃から子どもがほしいと思っていたんです。10年程前からは、子どもに関心があるLGBTQの方を全国から集って交流会を開催していました。その後、私たちとは別のLGBTQの子育て団体ができたのですが、ステップファミリー※1など、すでに子どもがいる方たちが多かったんです。そのときに思ったのは、私のように「子どもがほしいLGBTQ」と、「子育て中のLGBTQ」の課題が違うということ。だから、子づくりに特化した団体が必要だと思い、2014年に当事者3人で母体となる団体を立ち上げました。
※1 どちらかもしくは両方に子どもがいる人がカップルとなり、新しく築かれる家族のこと。
■同性カップルはどうやって子どもを授かるの…?
―読者のみなさんも一番気になることを、最初に聞いておこうと思うのですが…。LGBTQと聞くと、まずは同性カップルが思い浮かぶかと思います。同性同士でどうやって子どもを授かるのでしょうか?
長村さん:う〜ん、そうですね…。個人的には全然答えられるんですけど、産婦人科学会の問題※2もあるし、オープンな場所でどこまで話せばいいか難しくて…。そうやって迷った末に、Youtubeをはじめました。かつて自分が体験者のブログをみて勇気や希望をもらえたように、正しい知識を伝えながら、どのように具体的に、どのようにより安全に妊活を進めていけばよいのか、その手がかりにしてもらえればと思っています。決して、Youtuberになりたいとうわけではありません(笑)。
―(笑)。ということで、どうやって授かるのか気になる方は、「こどまっぷ」運営のYoutubeチャンネル「コドちゃんねる」を見てみてください!
長村さん:編集作業を手伝ってくれる方がいらっしゃれば、ぜひお声かけお願いします!
※2 記事内にて後記します。
「コドちゃんねる」はこちらから(外部サイトへリンクします)
■子どもがいるLGBTQの数は
―いま、子どもがいるLGBTQはどれぐらいいるのでしょうか?
長村さん:先に言っておきますと、正確な数値はわかりません。LGBTQの中には、ステップファミリーやシングル女性、そして、男性女性問わず既婚の方もいます。そういった方々の全員がカミングアウトしているわけではないから、数えることはできないですよね。
―たしかに…。では、長村さんの肌感覚ではどうでしょうか?
長村さん:あえて、『法的な結婚をせずに、子づくりにチャレンジして子育てをしているLGBTQ』と限定するのであれば、200組はいると思います。この数字は、「こどまっぷ」イベントへの参加者数や出産報告を加味した感覚的な数字です。ただ、確実に言えることは、ここ2~3年で確実に増えているということ。私が聞いただけでも、この1年で20組の報告を受けています。
―長村さんは海外視察にも行かれているかと思いますが、日本と海外の違いはありますか?
長村さん:アメリカのサンフランシスコにある「こどまっぷ」と同じような団体には、2000組のファミリーが会員にいると聞きました。全体人口が日本と違うにしても、すごい数ですよね。アメリカでは同性婚が認められているというのもあるし、生殖医療※3や精子バンク※4などの制度も整えられています。これは、すでにLGBTQが子どもを持つことについて議論がなされているからこそ、進んでいるんですよね。日本は10年以上遅れていると感じます。
※3 人工授精や体外受精など妊娠するための医療のこと。
※4ドナーから採取した精子を保存・提供する施設や機関のこと。
■法律やガイドライン…日本での障壁
―アメリカに比べると日本は制度や対応が遅れているとのことでしたが、日本においてLGBTQが子どもを持つことの障壁はなんだとお考えでしょうか?
長村さん:ひとつには、同性婚が認められていないことですよね。シングル女性も含めて、日本では、婚姻関係がない(結婚していない)人は、提供精子を用いた人工授精はできないと決まっています。法律ではないところで。
―法律ではないのであれば、何で決まっているのでしょうか?
長村さん:法律が禁じているわけではないんですが、日本産婦人科学会のガイドラインで、提供精子を用いた人工授精ができるのは『法的に婚姻している夫婦(の妻)』と定められているんです。例えば、レズビアンカップルが病院にいって、精子バンクか協力者から精子提供をうけて人工授精をすると、産婦人科医の先生が、学会からペナルティを受けるリスクがあるんです。だから、先生としてもやりにくいですよね。同性婚が認められないと、精子提供を前提とした治療が受けにくい環境なんです。あと、婚姻制度がないと、子どもの福祉も守られないですしね。
―法律(婚姻制度)と法律でないところ、それぞれに障壁があるんですね。
長村さん:それと、心理面の障壁として、そもそもLGBTQは子どもを持てないと思い込んでしまっている人たちがいます。当事者も当事者じゃない人も。まわりにモデルケースがいないというのもあるし、カミングアウトの問題もあるし、親との関係性、恋人との関係性の問題もある。親世代には伝統的な家族観※5こそが正しいと思っている人もいる。そういう人たちにどう理解してもらうかが難しいですよね。
さらに、女性だったら、誰がドナーになってくれるか、どこで探すのか。男性だったら誰に生んでもらうのか。協力者を探すのが大変です。しかも、協力者の個人だけですまされない、協力者の親やパートナーの問題も出てきます。
そして、念願叶って「子どもができました!」となっても、パートナーはわざわざカミングアウトしないと育休が取れないですし、カミングアウトしたとしても会社にLGBTQのための育休制度が無いかもしれない。周囲の理解があるかどうかを含めて、世の中が子育てを全面的にしやすいかというとそうじゃないですよね。一部の会社にはLGBTQのための福利厚生や制度があるけど、ほとんどの会社はそうじゃない。
―「こどまっぷ」はKDDIの「ファミリーシップ申請※6」の制度立ち上げにも協力されていましたね。
長村さん:子育てがしやすい環境に、マイノリティだろうとマジョリティだろうと関係ないはずです。
※5 いわゆる家制度のこと。結婚した夫婦と夫婦の子どもがいる家族を指したりもする(解釈はさまざまです)。
※6 会社が認めた同性パートナーとの子を社内制度上「家族」として扱う社内制度。
(後編へ続く)
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