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Nov.

2024

interview
17 Jun. 2022

『ママ』のスペシャリスト集団と夫婦のカタチについて考える ~調査×ダイバーシティ第二弾~

酒井くるみ
コミュニケーションプランナー
酒井くるみ

ダイバーシティの観点からトップリサーチャーに取材を行う本企画。

前回のテーマは、「リサーチャーから見たダイバーシティ課題」でした。

第2弾のテーマは『ママ』

ママに注目した理由のひとつに、日本のジェンダーギャップの低さがあります。2021年の総合スコアは0.656、順位は156か国中120位。

先進国の中でも最低レベルという事実は、若い世代を中心に大きな衝撃を与えました。

 

そんな中でも身近な話題として、家庭内の性別役割分担をはじめとした夫婦・父母の在り方にいま注目が集まっています。

男は仕事、女は家庭。男子厨房に入るべからず。子育ては女の仕事。

このような前時代的なバイアスは、批判の対象でありながらも、いまだ私たちの意識の中に根強く残っています。

実際に、ママたちのSNSを覗いてみると「#クソ旦那」「#旦那デスノート」等のハッシュタグをつけてワンオペ育児の大変さを語る投稿を見かけます。

偏った意見だとは分かりつつ、切れ味の鋭い言葉に影響を受け、結婚や子育てに対して不安を募らせる方は少なくないのではないでしょうか。

 

そこで今回、ママに関する調査を長年実施している電通ママラボの皆さまにお話を伺うことにしました。

今でもママの負担が大きいままなのか、その現状についてどう感じているのか、現状だけではなく将来の展望まで教えていただきます。

目次

電通ママラボとは

家庭内の性別役割について

イーブン夫婦を増やすためには

多様な夫婦が暮らす社会を目指して

いち早く変化のきざしを掴み、世の中を動かすタネを撒く。

―はじめに、組織の紹介と設立背景をお聞かせください。

電通ママラボは「ママが笑えば、日本も笑う。ママが笑えば、世界も笑う。」をモットーに、ママと子どもの本心と真摯に向き合い、課題解決策を提案するワークタンクです。

メンバーはすべてママで構成されており、ママのインサイトや環境変化を研究するスペシャリストとして活動しています。

また、この組織は2009年にできたのですが、設立背景としては社会ないしクライアントからのニーズがありました。

加えて当時の電通に正社員として働く母親が多くなかったため、設立者を含めたママ社員の地位を高めようという意図もあったのではないかと思っています。

―全員がママということで、リアルな意見を伺えそうですね。では次に、今までどんな調査を実施されてきたのか教えていただけますでしょうか。

電通ママラボでは、毎年テーマを決めて調査を行っています。

例えば、2020年には教育というテーマで「ママたちの教育意識調査」を2021年12月には、コロナがファミリーに与えた影響を把握するために「コロナ禍に立ち向かうママたちの意識調査」を実施しました。

―過去には、2012年に「リア充ママレポート」という調査も行っていますね。当時、調査報告書の中で新しい兆しとして書かれていた「時短」「良妻賢母から一人の自立した女性へ」という話が今では当たり前になっているなど、電通ママラボは常に数年先に当たり前になる未来を見据えて調査や分析をされているのだと思います。

 

いまだ変わらない家庭内の性別役割。コロナで阻まれた夫婦のイーブン化。

―今まで様々な角度からママの声を聞いてこられたかと思いますが、その中でもダイバーシティに関するテーマの調査はございますか。

2017年に実施した「イーブン夫婦調査」をご紹介したいと思います。

イーブン夫婦とは、家事や育児など、家の中のことを平等にこなす夫婦のカタチです。そんな時代の先端を走る彼らの価値観を明らかにするため、850人のママにアンケートをとりました。

―イーブン夫婦ですか。調査を実施された背景が気になりますね。

この調査は、共働き世帯の割合が6割を超えたという社会背景をきっかけに実施しました。また実感値としても、例えば保育園の送り迎えの風景にパパが溶け込んでいるといったように、家事・育児をする男性が増えたと感じるメンバーが多くいました。

これらを踏まえた上で、家庭内の役割分担に変化が起きているのではないかという仮説のもと調査を行ったのです。

 

―男性の家事・育児参加は義務ではなく権利だといった意見も広まりつつありますよね。実際に調査をして、家庭内の性別役割に変化は感じられましたか。

調査結果を見ると、夫婦間の家事分担比率が5:5もしくは6:4の人(イーブン夫婦)は全体の5.6%しか出現せず、実はまだ発展途上の段階であることが分かりました。未だに多くの家庭で、家の用事を女性が負担する形となっています。

―5年前とはいえ、5.6%というのは思ったよりも少ないですね。まだこんなものかと落胆してしまいました。

2019年の調査では7.6%、ややイーブン夫婦も増加傾向にあったのですが、2021年12月に行った「コロナ禍に立ち向かうママたちの意識調査」では、ステイホームの最中で、ママの家事負担はまた増えてしまってしまったという声も多くありました。

―イーブン夫婦の浸透をコロナが阻んでしまったんですね。

ただ、そんな中でも、旦那さんに限らず子どもたちに家事をさせる機会を増やしたり、やらない家事を増やしたりと、また新たな動きが家庭の中で出てきています。例えば家事代行サービスなど、コロナ禍で家事を手助けするツールの浸透も加速しました。

―家族や夫婦での会話も同時に増えたことにより、家族で助け合おうとする意識は高まっているのかもしれませんね。

 

イーブン夫婦を増やすカギは、夫婦間の気遣いとスマホでの情報共有?

―続いての質問です。今後どうすればイーブン夫婦が増えると思いますか?

私たちは現イーブン夫婦の意識の中に、手掛かりがあると思っています。彼らの特徴がよく表れているデータを2つご紹介しますね。

まずひとつめ、イーブンパパの夫婦関係や子育てに対する満足度データです。現役ママとしても考えさせられるものがありました。

内容としては、ママは夫婦関係がイーブンになればなるほど満足度が高まる一方で、パパはややイーブンくらいが最も満足度が高いというもの。察するにイーブンパパは、ママからの高い要望に応えつづけることにプチストレスを感じているのです。

―すごくリアルな結果ですね。対等に家事・育児をすることで衝突が多くなりがちですが、互いに気遣いを忘れずに接することが関係維持の秘訣なのかもしれません。

ふたつめは、イーブン夫婦の情報意識データです。彼らの特徴として家事・育児に関する情報格差が少ないことが分かりました。

子供の学校での様子や配布物、買い物リストなど、最新のデジタルツールを活用して夫婦間での情報共有が活発に行われています。

また、先ほどの話と繋がりますが、共有する際のメッセージを見てみると一方的ではなく常に相談ベース、加えて感謝の言葉が多くみられるのです。

―5年前と比べると今はさらに使いやすいツールが登場しているので、今後ますますデジタルイノベーションがイーブン夫婦を後押ししてくれるかもしれませんね。

 

イーブンにこだわりすぎず、多様な夫婦が暮らす社会を目指して。

―最後に、いまの家庭内の性別役割分担についてどう感じているか教えてください。

ママの家事負担を減らすことは、多様な社会を作るためにも必要なことだと認識しています。そして、そのひとつの手段として、夫婦のイーブン化は有効だと思っています。

一方で、「コロナ禍に立ち向かうママたちの意識調査」を通して、イーブン夫婦という定義自体が古いのかもしれないとも考えています。家事を平等に分担することだけが正解ではなく、そもそもの家事を減らしたり、子どもや両親に頼ったり、それぞれの夫婦や家族のライフスタイルに合ったやり方があると感じました。

―社会環境の変化により、新しいやり方が見えてきたということですね。目的と手段を混同せず常にアップデートしていかなくてはと、はっとさせられました。

また、ママが配偶者に求めることは、家事だけではないということも分かっています。

というのも、「コロナ禍に立ち向かうママたちの意識調査」で、家事の負担は増えたにもかかわらず夫婦の関係性が良くなっているという傾向がありました。おそらくこれは、ステイホームで配偶者と話す機会が増えたからだと考えています。

―物理的に家事の負担を減らすことも大切ですが、精神的な繋がりでケアできる側面もあるということですね。

ひとりのママとしてお話すると、私の夫は仕事が忙しくほとんど家におらず、私が家事・育児を大きく担っています。実際、家事は面倒くさいですし、ワンオペに疲れることもあります。ただ、毎日LINEで夫から子どもの様子を聞かれて情報を共有すると、それだけで夫の存在意義を感じられるんですね。手を動かすことだけが子育てではないと、私個人としては思います。

―もちろん家事負担が減るに越したことはありませんが、ママが満足しているかが最も大切ですよね。どの夫婦・家族にも様々な背景や事情があることを認識し、特定の形を善とするなど、こだわりすぎるのは良くないと感じました。

電通ママラボは、今後もママに関する調査を継続して行っていきます。

インタビューを通して、家事や育児という尺度のみならず、ママの生活満足度と関係深い事象の調査や、幸福度の高い夫婦・家族の形の関係性など、次の調査のタネとなる新しい視点も得られたので、ぜひ期待していただけますと幸いです。

―電通ママラボのみなさん、ありがとうございました!

 

以上、電通ママラボのインタビューいかがでしたでしょうか。

私自身、イーブンにこだわりすぎてダイバーシティの本来の意味を忘れかけていました。

すべてのママが自分らしい夫婦像を描けるように、「こうあるべき」という同調圧力を無くすことが最も大切なのかもしれません。

 

一方、夫婦・家族の形は多様なので、イーブン夫婦という1つの形にこだわりすぎるべきではありませんが、働くママが増える中で依然としてママに家事育児の負担が偏っていることは事実です。

夫婦間で活発に対話がなされ、家事負担の偏りをなくしママが社会においても活躍しやすいよう夫婦の形が見直されることで、ママも日本社会ももっと元気になるのではないでしょうか。

家事を負担するママも、配偶者と分担するママも、配偶者にお任せするママも、どんなママも暮らしやすい社会をみんなでつくっていきたいですね。

 

最後になりますが、この記事を読んだ方の結婚や子育てに対するイメージが少しでも良い方向に変わっていると嬉しいです。

次回は、第3弾として電通総研のインタビュー記事を公開します。

 

《参考情報》

◇電通ママラボ公式サイト

 https://www.projects.dentsu.jp/project/mamalabo/

◇コロナ禍に立ち向かうママたちの意識調査2022

 第1弾:「コロナ禍で変わった!?ママたちの「お金」への意識と消費傾向」

 https://dentsu-ho.com/articles/8106

 第2弾:「前例のない時代、子どもの学びについて模索するママたちの声」

 https://dentsu-ho.com/articles/8207

◇イーブン夫婦調査

 「新しい兆し!「イーブン夫婦」ってどんな夫婦?」

 https://dentsu-ho.com/articles/6345

取材・文: 酒井くるみ
Reporting and Statement: kurumisakai

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