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25 Jan. 2022

日本のジェンダーイクオリティはどこまで進んだのか

秋田ゆかり
ビジネスプロデューサー
秋田ゆかり

156ヵ国中120位。2021年3月に世界経済フォーラムが発表した「ジェンダー・ギャップ指数」における日本の順位です。この指数は、各国における政治、経済、教育、健康における男女格差を数値化したもので、2006年から毎年発表されています。120位という衝撃的な順位は各メディアに大きく取り上げられ、話題にもなりました。そんな驚愕の順位が発表されてから、はや1年が経とうとしています。この1年で日本のジェンダーイクオリティはどれほど進んだのでしょうか?また、この順位は2022年以降改善されるのでしょうか?この問いについて、MASHING UP conference vol.5で開催された「ジェンダーイクオリティはどこまで進んだのか」のセッションを踏まえて、政治・IT・ビジネスの3分野に分けて考えていきたいと思います。

 

2021年衆院選から考える政治のジェンダーイクオリティ

 

2021年10月に行われた衆議院選挙。みなさんの目にはこの選挙はどう映ったでしょうか?このテーマでは社会学者の上野千鶴子さんが登壇され、2021年の衆院選を中心に政治分野におけるジェンダーイクオリティについて、語りました。

上野さんはまず、前回の衆院選の女性候補者の割合について触れられました。日本政府は、2025年までに国政選挙の候補者に占める女性の割合を35%にする目標を掲げています。しかし、2021年の衆院選での女性候補者の割合は17.7%にとどまりました(総務省「令和3年10月31日執行 衆議院議員総選挙結果調」)。2017年の衆院選の女性候補者の割合17.8%と比べても、まったく改善されていません。

その結果、2021年の衆院選で当選した女性候補者の割合は、わずか9.7%(NHK「衆議院選挙速報2021開票速報」)。2017年の10.1%を下回る結果となりました。女性候補者が増えなければ、当選者も増えません。女性議員が増えなければ、女性にまつわる社会課題の認知が進まず、また解決もされにくいと上野さんは指摘します。

女性候補者や当選者の割合を見ると、まだまだ政治分野におけるジェンダーイクオリティは進んでいないようです。一方で、今回の衆院選ではジェンダー課題が政治の争点となりました。例えば、選択的夫婦別姓については、各政党や候補者が選択的夫婦別姓制度に関する立場を表明し、有権者はその立場を踏まえ、投票を行うことができました。また、選択的夫婦別姓や同性婚を進めない候補者に投票しないよう活動する「ヤシノミ作戦」なども大きな話題になりました。私たちが声をあげ行動を起こしていけば、少しずつ状況を変えることができると筆者は考えています。女性蔑視発言を行った森喜朗さんに対して声をあげた「#わきまえない女」たちを例に、上野さんはこう語ります。「わきまえない女性たちが増えつつあるらしいことが、私の希望です。」

 

理系女性をどう増やしていくか?IT分野のジェンダーイクオリティ

 

昨今目覚ましい成長を遂げるIT業界ですが、日本のIT業界における女性の技術者の割合に目を向けてみると、約2割程度にとどまってしまっています。そんな状況を打開しようと活動しているWaffleの田中沙弥果さんが、IT分野のジェンダーイクオリティの現在地について話をしてくれました。

 

(Waffle 田中沙弥果さん ⒸMASHING UP)

 

日本では女性の技術者の割合はなぜ少ないのでしょうか?その理由として、田中さんは文理選択が高校生で行われること、大学に入ってから理系分野への転向がしにくいことを挙げています。その結果、日本の工学部女子学生比率は15%でOECD加盟国最下位であることに加え、ICT関連の仕事に興味がある15歳女性の割合は3.4%になっています。

そんな日本のIT業界ですが、少しずつ明るい方向への動きも見せています。これまでは外資系の企業が積極的にIT分野のジェンダー・ギャップを解決しようと活動をしていたのが、徐々に日系企業の活動が目立つようになりました。例えば、メルカリの代表取締役社長である山田進太郎さんが設立した山田進太郎D&I財団では、女子高生向けの奨学金を設けるなど、企業が主体的に動いている事例も見られるようになっています。

また、独立系ベンチャーキャピタルのANRIでは、ファンド投資先において起業家が女性である企業の比率を最低でも20%に引き上げる投資方針を発表するなど、投資の動きも活発になっています。

しかし、まだまだD&I施策の社内合意が取りにくかったり、理解が得にくかったりしている状況も続いており、理系女性人材をどう育成していくかについては、今後も取り組んでいくべき課題になっています。

 

正のサイクル・負のサイクルが生み出すビジネス分野のジェンダーイクオリティ

 

最後に、ビジネス分野におけるジェンダーイクオリティについてThink Impactsの只松観智子さんのお話を基に考えていきたいと思います。

まず、図3の取締役会の女性比率と収益率(EBIT Margin)の推移を見てみましょう。上段の青い縦グラフが女性比率の高い企業、下段が女性比率の低い企業になっています。女性比率が高い企業は収益率がプラスになっており、低い企業はマイナスの収益率になっていることが分かります。加えて、年月が経るにつれ、この開きが大きくなっていることも見て取れます。この開きを只松さんは「正のサイクルと負のサイクルの二極化」と呼んでいます。

 

(図3:“Diversity Wins” McKinsey & Company, Inc.)

 

正のサイクルとは多様性がどんどん進むサイクル、負のサイクルは多様性を排除し続けるサイクルを指しています。ビジネスにおけるジェンダーイクオリティを達成するには、負のサイクルからの脱却を行う必要がありますが、この脱却の実現が難しいと只松さんは指摘します。なぜならば、負のサイクルでは多様性を排除し同質な人たちとしか会話をしないため、変革が起きにくいという危険な集団心理が生じるからです。

この負のサイクルの脱却を目指すために、私たち一人一人の発信力・受信力も重要になってきます。負のサイクルの企業に対し、私たち個人も厳しい目を向けていくことが、ビジネス分野におけるジェンダーイクオリティを実現するための一歩になるはずです。

 

「日本は泥船」になってしまうのか

 

政治・IT・ビジネス分野を中心にジェンダーイクオリティを考えてきましたが、いかがだったでしょうか?今回は、「ジェンダーイクオリティはどこまで進んだのか」のセッションを踏まえて考えていきましたが、最後に登壇者のみなさんの口から出てきた「日本は泥船」という言葉に触れたいと思います。

ジェンダーイクオリティの実現に向けて前進している部分もあるけれど、変化のスピードが遅く、世界からも見放され、どんどん後退していくという意味合いで使われた泥船という言葉に、私は大変寂しく悲しい気持ちを覚えました。また、この言葉がジェンダーイクオリティの実現に向けて誰よりも活動されている登壇者のみなさんから出てきたことに、焦りや切迫感を感じました。「2022年3月に発表されるジェンダー・ギャップ指数の順位は、日本は下がると思います。」上野さんがおっしゃったこの言葉は残念ながら2022年は的中してしまう可能性があります。それでは、今後どうしていきたいのか、どうすべきなのか。私たち一人一人に問いかけられたセッションでした。

 

以下のリンクもご参照いただけますと幸いです。

 

今年は120位。意識と実態がつりあわない、日本のジェンダー平等

いま、日本はどのくらいジェンダー平等ですか? ― 3,000人への意識調査から考える

メルカリの挑戦:ビジネス目標を達成するためのダイバーシティ&インクルージョン

取材・文: 秋田ゆかり
Reporting and Statement: yukariakita

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