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27

Apr.

2024

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1 Mar. 2022

今「教育」の多様性を考えてみる。

様々な多様性が謳われる中で「教育の多様性」と聞いたら何をイメージしますか?

「アクティブラーニング」がすぐに浮かぶ方がいると思います。もう少し詳しければPBL(problem-based learningもしくは project-based learning)と答える方もいるかもしれません。今回は、教育の多様性の現状について知り、そこにある課題感を考えるきっかけになるセミナーのレポートをします。毎年繰り返される受験シーズンが終わるタイミングだからこそちょっと立ち止まって考えても良いテーマだと思いました。

私が参加したのは MASHING UP vol.5 の「これからの教育」セッション。

新しい教育の可能性を広げたり、自らそこに飛び込んだりしている方たち4人のスピーカーのお話をご紹介します。
(冒頭写真@MASHING UP)

 

「実践しながらスキルとマインドを鍛えるアントレプレナーシップ学部」

伊藤 羊一さん 
Zアカデミア学長 / 武蔵野大学アントレプレナーシップ学部 学部長

この学部は2021年開設されたばかりです。伊藤氏は学部のコンセプトとして「この学部は起業家を育てるのではなく、起業家精神を育てるのが目的。この精神って人が生きていく上でみんな持っていた方がいいものですよね。」と発言されていました。彼によると企業家精神とは「自分の人生を生きる。楽しかったら先に進む。結果社会に貢献する。」とのこと。さらに「従来大学はスキルとマインドを学ぶところ、実践は社会に出てから。でもここではスキルとマインドに加えて常に実践してみてそのループの中で企業家精神を養っていきたい。」とも。授業の中で実際に会社を起こしてみたりe-commerceを展開したりしながら学ぶようです。理系文系いう従来の2元的な分け方ではなく、新しい社会を作っていく為に学ぶというコンセプトが今日的ではないかというのが私の印象です。

 

文科省指導要領を英語で学ぶ日本初のインターナショナル小学校

末松 弥奈子 
ジャパンタイムズ 代表取締役会長兼社長

末松氏は、一方でジャパンタイムズの代表をしながら自ら日本初の文科省指導要領を英語で学ぶ小学校を広島で開学しました。コンセプトは中学校から欧州のボーディングスクールに入る子供のための全寮制小学校。教育方針としてご本人曰く「グローバルリーダーを育てるよりも一人一人が好きなものを見つけたときにパッションとスキルを持てるように育てたい。だから大切にしているのは地元の自然の中での体験から学ぶこと。」これについて面白い例えとして「ヒーローものの多くが昆虫がモチーフ。人間がコントロールできないものから新しい発想が生まれる。」との持論をお持ちでした。

小さい時からコンピュータのcodeを学ばせるトレンドの真逆の考え方もあることを彼女の話から気付くことができました。

 

クックパッドが提供する「料理を通してSDGsを考える家庭科授業」

横尾 祐介 
クックパッド コーポレートブランディング部長 / クックパッドの家庭科 プロデューサー

横尾氏はクックパッドの社員をしながら中学高校の家庭科の先生でもあるというユニークな存在。彼からは「料理」「食」は生きていく上で大切な社会や世界を学ぶのに最適なものだというコンセプトをベースにした家庭科授業が紹介されました。ビデオでは生徒たちが食とカーボンフットプリントを学んだり、一人一人おむすびを作ることで多様性を実感したり、家事分担劇を自分たちで演じることでジェンダーバイアスに気付く様子が紹介されました。続いてご自身が授業を通して学んだ事として「自分は先生役じゃなくてファシリテーターをやっている。生徒たちに考える主導権を渡す事でこれからの先生の役割が変わるんじゃないかと感じている。」と発言されていました。少し横道にそれますがそのビデオの中で中学生の男子が「家事は女性がやるべきだと思っていた。男は力仕事だけ」と発言していました。私は「え、中学生ですでにそんなバイアスが掛かっているのか。」と思ってしまいました。

 

「全寮制、7都市を回りながら全てオンライン授業」のミネルバ大学

片山 晴菜 
King’s College London 脳神経科学修士課程

片山氏は昨年ミネルバ大学を卒業したばかりで、現在はロンドンの別の大学院で学んでいます。この大学の特徴として学生が世界の各都市に用意された寮に半年ごとに過ごしながら現地のリアルな課題に取り組み、質の高いオンライン授業を受ける。離脱しがちなオンライン授業にI Tを導入し学生が能動的に授業に向き合う工夫を挙げられていました。さらに、「科学的に立証された学びの効率化、その構造仕組みを作るというところが他との1番の違いでは。」と実感しているとのこと。そして卒業後の確信として、「大学教育は閉じられたキャンパスで学ぶのではなく『社会』の中でこそ学ぶべきだ。」と強調していました。これが世界の高等教育の最先端だとすると、日本の大学が参考にすべき所が多くあるなと実感した次第です。

 

 

まとめ:多様化する生き方に合わせた「学びの多様性」へ

そして最後に4人のディスカッションから出てきた共通のキーワードとして「学びの主役は本人、教師じゃない。教師の役割はファシリテーション。」「学びは現場、実践の場にある。抽象的な事を学ぶものではない」「以前から教育の課題はみんな分かっていたけど何故か変えられなかった。それは子育てが終わると教育が自分ごと化しなくて忘れてしまうから。」などがありました。このセッションを通して教育の多様性が広がっていることが分かりましたが一方で本当に広がっているのかという疑問が出てくるのも事実だと思います。そんな感覚を代弁してくれる中高の現場の教師をしている方からの質問がありました。「探求型授業を取り入れてはいるが結局受験のためのインプット型も必要でそのバランスをどう考えるか」。難しい問いですがこのような現実に向き合いながらもみんなで「教育の多様性」を考え続けられればと思います。

 

(参照URL)

https://www.musashino-u.ac.jp/academics/faculty/entrepreneurship/ (武蔵野大学アントレプレナーシップ学部)

https://jinis.jp (神石インターナショナルスクール)

https://education.cookpad.jp/ (クックパッド 家庭科授業)

https://www.minerva.edu/ (ミネルバ大学)

https://note.com/shinotsuchiya/n/nfda98399e534 (探求型学習と受験学習を考える非常に興味深い記事があったので参考に)

 

取材・執筆 有利 英明

取材・文: cococolor編集部
Reporting and Statement: cococolor

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