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28 Feb. 2022

あなたにとっての“正しい”とは?―【レポート】WCW2022「食と栄養~あなたにとってのおいしいってなに~」ー

中曽根彩華
統合マーケティングプロデューサー
中曽根彩華

がんの社会課題を解決させようと活動している一般社団法人CancerXが主催した、World Cancer Week 2022。1月30日から2月5日で実施された30のセッションの中から、5件目の記事となる今回は「食と栄養~あなたにとってのおいしいってなに~」を取り上げ「どういう基準で情報を選択していくか」について迫ります。     

 

情報で一番大切なことは、その人にとって必要かどうか。

2022年は、「がんと食と栄養の情報」と「楽しむための食」について取り上げています。

 

登壇者:がん治療と栄養管理の専門医師:荒金英樹さん

登壇者:がんサバイバーで料理研究家:栗原友さん

登壇者:(医療)人類学者:磯野真穂さん

モデレーター:CancerX理事で理学療法士:糟谷明範さん

で本年は、さらに「がんと食と栄養」に向き合っていきました。

 

がんに“効果的だ”、という食や栄養における情報は世にあふれていますが、果たして科学的な根拠はあるのでしょうか?

荒金さん中心に、考えていきました。

がんによる栄養障害は2つあると言います。「①栄養の利用障害」と「②栄養の摂取不足」です。

特に②の原因には、がんに直接関連する内容に加え“情報過多”があると言います。

実際に、インターネット上は「赤身肉やお酒の摂取によるがんリスク」について言及している情報であふれかえっています。

がん患者さんはこうした情報を目にした時、該当するものを日常的に食べたり飲んだりしていても、急にやめてしまうと言います。 

しかし、荒金さんはこの事実について医学的な面から解説をしてくれました。

(ⒸCancerX)

荒金さん

「1)がんは筋肉がどんどん痩せていってしまいます。そのためタンパク質が取れるお肉はとても有効的な食べ物です。

2)食欲がない患者さんにとって、適度なお酒は食欲を促進させます。」

 

つまり患者が独自で制限し始めている食の内容については、科学的には証明されておらず、禁止する根拠はないとおっしゃられておりました。

「世の中にはがんにとっての良し悪しの情報が多岐に渡っています。しかし、個々によって病態はさまざまです。一番重要なことはその情報が“その人にとって必要かどうか”。病態と本人の意思に応じて、適切な判断が大切であることを忘れないでほしい。」

と強く訴えていました。

 

この内容を受けて栗友さんは

「疑問があれば、自分の主治医に聞き、主治医に言われたことだけを信じていました。抗がん剤治療中は、お酒も食事も量は今までと同じようにいただけなくなるかもしれない、とは言われましたが、先生は何も禁止はしませんでした。

味覚障害には波があったので、自分の状態で食べるものを変えていました。味はわからなくても、食事は噛むことや舌で食べているものを感じて、美味しいを楽しんでいました。」

 

がんの予防時と治療時では、食の考え方は異なる

磯野さんはがんと食事と栄養について、世の中に出回る情報を以下のように分析をしています。

(ⒸCancerX)

「がんの予防には「糖質を控える」「断食をしたほうがいい」という情報が見受けられるようになってきました。最近のダイエットでは糖質制限や断食がブームになっています。

がんだから食べてはいけないと言われるものとダイエットとして流行っているものは連動しているのではないでしょうか。そう考えると、食とがんリスクついての情報が誕生する距離が縮まるように感じます。」

これに対し荒金さん

「がんの予防、という観点での食事は疫学的な研究で明確に提唱されていることはあります。食物繊維を増やしたり、赤身肉を控えたり。

ただ、がん治療中の人は話しを変えなければいけません。味覚障害や栄養障害などの症状が出てくるので、たんぱく質が豊富な食事をしてもらうことは治療において非常に助かります。

禁止をするとなると、患者の生活を変えることを強いる可能性があるため、科学的根拠を私たち医師は突き詰めていますが、禁止するものは極めて少ないと考えています。

たくさん食べられるようになったら、バランスを取った食事にしていく必要があるので制限していくことも考えていく必要が出てくるかもしれません。

 

あなたにとっての“生きる”とは?

(ⒸCancerX)

1つは「生きるための食」、もう1つは「楽しむための食」。

前者は生きるために必要な栄養を摂取する考え方であり、後者は品質や栄養成分ではなく、「誰と食べるか」や「どこで食べるか」、という考え方です。ここからはこの2つの考え方について話し合っていきました。

荒金さん

「がん患者さんに限っておいしい食事を考えると、1つは「家族と一緒に食べられるもの」だと思います。栄養指導をする際は必ず家族を交えてしています。家族はがんの患者さんに、何を食べさせてあげられるだろう、と悩まれている方が多いです。一緒になって食べられるもの、笑顔で食べられるものを栄養士さんと共に提案することを心がけています。味がおいしい、というよりは食べるときの環境が大切なのではないでしょうか。」

磯野さん

「“生きるための食”と“楽しむための食”と分けて考えることに違和感があります。分けて考えてしまうと、生きるためには、苦しいことが必然だ、のように聞こえてしまうのです。「楽しむこと=生きること」。がん患者は何を食べても良い、という話があるなら、「生きるための食=楽しむための食」なのではないでしょうか。」

荒金さん

「生命を繋ぐための栄養」という視点では、生きるために何とか食べさせなければいけないと躍起になっているご家族は少なからずいます。本人が食べたくなくても、がんに効くから食べて、と家族が言ってしまうことがあるのです。つまり、生きるために食事が悪役になっていることもあります。」

磯野さん

「“生きる=生物的な生命を存続させる”こと、であれば、いやでも食べさせる、ということが必要だと思います。でも、生きることはどういうことなのか、という思想が根底に流れているように感じました。」

 

正しい情報ってなんだろう?

栗原さん

「わたしは闘病中、何の情報を信じるかよりは、『誰が』言っていることを信じるのかを決めていました。何が“正しい”かは、誰にも分らないし決められません。自分が信じると決めた情報を受け入れていくことが重要だと思います。」

磯野さん

「日本語の“正しい”には、正確さの「accurate」と道徳的に正しい「right」が混ざり合っています。

ガイドラインなどは論文の結果を踏まえて人間の平均的な情報をもとに制作しているので、正確な情報ではあります。ただし、この情報がすべての人にとって“正しい”かというとわからないです。

“正しい”を判断するには、その人がどう生きたいか、何が欲しいか、何が手に入るかなどがすべて関わってくるので、その人にとっての“正しい”も日々変わっていると思います。

正しいを誰かに決めてもらうことが正しい、ということであればそういう生き方もありますが、医学はあなたにとって正しいを正確に提示できるものとは限らないのではないでしょうか。」

荒金さん

「自分の作っているガイドラインが正しい情報ということを伝えたいわけではありません。治療と向き合いながら、その時その時に話し合い、自分の中の“正しい”を見つけ、それぞれの“正しい”を決めていくことが重要だと考えています。」

(ⒸCancerX)

 

あなたにとっての“正しい”をみつけてみましょう

「あなたにとっての“正しい”は、だれにも決めつけることはできない。」このセッションを通じて最も印象に残りました。

いろんながんの予防対策の情報がありますが、がん治療中の食においては、身体が喜ぶ選択をすることも正しいことの1つなのかもしない、とこのセッションを聞いて感じたことです。

インターネットを通じて数多くの情報に出会える現代ですが、最も大切なことは自分にとっての“正しい”の軸を持っておくこと。

1点だけを捉えた情報に頼ってしまうと自身に制限をかけてしまうことに繋がる可能性があります。

制限をかけるのではなく、自分自身のありたい自分であるためにも、自分にとっての“正しい”を見つけ、無限にある選択肢の中から自分で選んで生きていく、これは充実した生活を送る1つのカギになるでしょう。

迷ったときは、自分の身体と心が喜ぶ情報を選択することを是非一度考えてみてはいかがでしょうか。

取材・文: 中曽根彩華
Reporting and Statement: saikanakasone

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