【後編】メンタル不調を経験しても、自分らしく働くためにできること
- ライター/メンタルヘルスラボ
- 北之坊公美
イベント「電通社員と心療内科医が語る、メンタル不調体験とその付き合い方」の後編です。前編・中編はこちら。(出演:渡邊はるかさん×並河進さん×医師 鈴木裕介さん)
メンタル不調経験のあるdentsu Japan社員同士で話す「メンタルヘルスカフェ」
メンタルヘルスラボの活動の一つに、臨床心理士の先生の下、メンタル不調経験者同士が話すピアグループ、「メンタルヘルスカフェ」があります。「メンタル不調にも多様性があることに気付いた」「社内の人同士で話せることが貴重」「自分の状況を客観的に話すことで、自分自身と向き合えた」と、参加者の気づきにつながっていきます。後半は、カフェ等で集まった約600件の声を元に、議論が進められました。(カフェは、隔月開催。23年9月時点で計12回実施。監修:沢哲司先生 臨床心理士/医学博士 FromU心理相談室代表)
①普段働く中で困った周囲の反応や接し方
「メンタル不調に対して、理解がなかなか得られなかった」「性格や能力のせいで病気になったと言われてしまった」「周囲からのプレッシャーをいつも以上に感じてしまう」「復職後の担当業務や評価に違和感がある」「コミュニケーションの距離感がすごく難しかった」など。
イラスト:渡邊はるか
②嬉しかった周囲の反応や接し方
「ただ寄り添ってくれるという距離感がすごく嬉しかった」「いつもと変わらない接し方」「タイミングや状況を見て声を掛けてくれる」「相談できる機会や相手がいる」など。
③自分らしく働ける会社を目指す上で、どんなことがあったらいいか
「メンタルヘルスセルフケア、セルフチェックの機会があればいい」「身近な人が不調になったときの接し方のヒントが欲しい」「成長や効率を追求し、休みにくい状況から、俯瞰して、休むことを受け入れる大切さを知ってもらう」「多様な不調のケースについて学ぶ機会があればいい」など。
これらの意見を受けて、特に評価の話について、評価する側・される側の観点からディスカッションが進められました。
評価が気になって本音を言えない・・・。
(並河)「上司に相談したら自分の苦労話をされて、『乗り越えていけるよ』と言われたのがつらかった」という回答があって、はっとしました。メンタルヘルスは本当に多種多様で、お医者さんでないと分からないこともたくさんあるので、僕も相談受けたときには、自分はこうだったからこうすれば解決できると決め付けないように気を付けたいと感じました。
メンタルヘルスの病気で評価が下がり、それから上がらないことを気にしている方も結構います。評価にバイアスがかかっていないのかは、僕も評価する側として自分に問わなければいけないことです。また、評価される側が、バイアスがかかっていないと信じられることも非常に重要だと思います。丁寧なコミュニケーションが必要ですし、信頼できる関係性をつくらなければいけないと思いました。
(渡邊)評価の話は難しいですよね。役に立つ存在でなければならないという思い込みが強く、「休みます」「できない」と言えない人は、多いと感じます。
会社としては成長しなければいけないけれども、「自分を大事に」「残業を減らしましょう」というメッセージもあって、どう折り合いをつけたらいいのかというのがテーマな気がします。
(鈴木)不調があって仕事量を落としている人と、通常量でやっている人をどう評価するのかは、本当に難しいと思います。ただ、 評価する側の上司は権力を持っているので、部下に本音を言ってもらうことは難しいです。そういう前提で、コミュニケーションの質を上げていくことを考えないと、うまくいかないのだろうなと思います。
しかし、カルチャーの強い電通のような会社が、カルチャーを維持したまま、本音を言ってもらうための作法を考えていくことは、すごく意義深いことだと思います。
(渡邊)メンタルヘルスとうまく付き合いながら働き続ける方法に答えはないと思うのですが、こういう話ができる場があることがすごく大事だと思います。
(鈴木)まず、難しさが可視化されるところから始まるのですよね。こういう痛みがあることを、どれだけ自覚できているかということが、全てのダイバーシティの問題に共通することだと思います。
(並河)成長や効率、売上などの話と、一人一人が弱さも含めて自分らしく働くという話を、対立軸のように捉えるのは少し危険かなと思っています。一人一人が生き生きと多様な価値を実現している結果として、売上や成長が出てくるというつながりがあるはずなので、二元論にせずに捉えた方がいいと思っています。
本当は逃げていいものもたくさんある
――― 最後に、「乗り越えるべきものと、避けていいものの違いは何でしょうか。『自分を守る』と『自分を甘やかす』の差が曖昧です」という質問が来ています。
(鈴木)超絶に良い質問ですね。まさに、そこの峻別を身に付けることが人生の大きな目的と言っていいぐらいのレベルだと思います。自分にとって一番いい境界線をどう育んでいくのか。一つヒントになるのは、自分の中にある「べき」を見直すことではないかと思っています。その「べき」が、本来の自分という存在から生まれているものではなく、周りから植え付けられているものだとすれば、手放すことを考えてもいいと思います。
逃げてはいけないものから逃げないこと誠実だと思いますが、逃げていいものも結構たくさんあります。それは本当に人によると思います。自分に余裕があるときに向き合っていけばいいと思います。休職は、それと急に向き合わされるタイミングでもあるのかなと思います。
(並河)一番つらいのは、周りから甘えていると思われるのではないかということだと思いますが、心の問題は周りから見えないので、甘えていると思われたら嫌だということはあまり考えない方がいいと思います。周りも、心は見えないけれども、肉体と同じように傷ついていて、治癒している時間は、甘えているわけではないということは理解してほしいと思います。
ただ、その後、少し元気になってきたときにどこまでチャレンジするかは、本当に難しいですよね。
(鈴木)難しいですね。過剰に自責的や他責的な状況に陥っていることが自分で分からないので、ヘルシーな自分を取り戻すまでは、やはり専門家や家族、身近な安心できる人のような他者の力が必要だと思います。切羽詰まっているときは、全部が全部、自分の甘えだと思ってしまう人の方が多いと思うので、そうではないと言ってもらえることも必要だと思います。
(渡邊)個人的には、自分を甘やかすことは悪いことではないと思うので、甘やかしていけばいいと思います。自分を堕落させてしまうのではないか、自分を甘やかしていると思われるのではないかと考えてしまうことも含めて、自分に厳しい人がすごく多い気がします。
(鈴木)思ったより甘やかし気味で全然大丈夫ということですよね。
(並河)今日のところはその結論が一番いいと思います。
(渡邊)メンタル不調って人に言いづらいとか、仕事に穴開けるのが申し訳ないとか、制約があるなかでどう働いていこうとか、いろいろな悩みがあると思います。そんな時に、似た境遇にいる人の体験談を聞けたり、話したりできる場があればと思い、メンタルヘルスラボを始めました。この2年で「こういう場があってよかった」とたくさんの声が寄せられました。とことん生の声に沿って活動していきたいですし、この動きを社外にも広げていければと考えています。
イベントを終えて(北之坊)
終了後、視聴者のみなさんからも、
「こういう話を社員の方から聞けたり話し合えたりする場はとても有意義ですね」
「とにかく共感の嵐でした!」
「メンタル不調を抱えたことがない社員にも、理解や寄り添うやさしさが広がるといいなと思います。」と、たくさんの気づきを共有していただきました。
休職経験を話すことは、とても難しく、勇気のいることだと思います。お二人の丁寧な振り返りとゆうすけ先生の専門的な視点私自身、このイベントを通じて、「働き方」「休み方」「人とのコミュニケーションの取り方」「気づかなかったバイアス」など、多くの発見がありました。このレポートが 休職経験のある人だけでなく、すべての人にとって、メンタルヘルスについて考える大切なきっかけにつながれば幸いです。
写真撮影:髙橋一宏
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【前編】「メンタル不調で会社を休んで気づいた大切なこと。」はこちら
【中編】「休むことはサボることではない。メンタルヘルスのマネジメントレベルを上げる方法とは?」はこちら
関連記事:メンタルヘルスラボ過去開催イベントレポート
【前編】「メンタル不調で会社を休んで気づいた、自分と仕事との付き合い方|並河進さん×医師 鈴木裕介さん」はこちら
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メンタルヘルスラボとは
メンタル不調や、それに起因する働く上での制約があっても、自分らしさを活かして働けるよう、2021年4月にスタートした電通のラボです。ボトムアップ型であることと、みなさんと一緒に考える姿勢を大事にします。活動の積み重ねを通じて、会社や社会の風潮を和らげていくことを目指します。
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13 Sep. 2023
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