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Nov.

2024

interview
11 Apr. 2022

「服を着ることは、少し先の未来を生きるエネルギーを持つこと。」ファッションブランドMIKAGE SHINインタビュー

岸本かほり
副編集長 / ストラテジックプランナー
岸本かほり

ジェンダーレス、エイジレス、ボーダーレス…さまざまな枠組みを越えて、その人がよりその人らしく生きるためのクリエイティブアートを体現するファッションブランド“MIKAGE SHIN”。創始者でCEO・デザイナーの進美影氏の作る洋服は、単なる機能としてのファッションに留まらず、アートとして人々・社会へのメッセージ性を強く感じられるものである。現在活動拠点を東京に移している進氏に、クリエイションと情熱の裏側を聞いた。

 

MIKAGE SHINの唯一無二性

MIKAGE SHINブランドのユニークネスは、その時代の世相へのこだわり。コンセプトは常に、注目されている社会問題や人々の感情を様々な視点から繊細に感じ取り表現されている。

「世の中に自分と関係のないことはない。ニュース・新聞・SNSなどから現在進行形の情報の変化を捉える。エッセンシャルに生きる上で、服は機能面だけでいえば今の時代に絶対量が足りないものではない。なくてもいいもの生み出してしまっているかもしれない責任を常に感じるからこそ、この時代に存在する意義のある服、なくてはならない服を作りたい。コンセプトメイキングの部分は今の社会に投げかけたいメッセージや、投げかけなくてはならないものを意識して作っている。」

 

また、もう一つのこだわりとして特殊な素材や技術のデザインへの活用に注目したい。例えば日本の伝統技法を活用したものや、サステナビリティに配慮した素材を活用したものが多くみられる。ニューヨークでの活動を通して気づいたことは、日本で当たり前に存在する技術が諸外国では当たり前ではないこと。実は、ビッグメゾン(大きなブランド)でも日本の各地方の中小企業・工場の職人の技量で支えられているケースが少なくない。進氏は、いろいろな素材や技術を日々リサーチすることを欠かさず、素材だけでなく、アートや歴史等様々な情報・アイデアを常に数百程はストックしている。

社会問題や政治・世相を受けて創られるコンセプトと、アート、歴史、素材や技術等からくるデザインアイデアをインタラクティブに往来し、最終的な作品を作り出していく。

さらに、ショーのモデルキャスティングや世界観づくりについても、純粋に個人の趣味嗜好や内面のアイデンティティでブランドを自由に選んで欲しいからこそ、なるべく多様なジェンダーやバックグラウンドの方をフラットに起用している。

 

Fashion is not an island. 

~ファッションは単体で孤立して成立するものではない~

「ファッションは陸の孤島のように単体で成立しているものではなく、社会のさまざまなものに影響を受け密接にリンクしているという言葉がある。日本ではファッションブランドが社会問題や国際情勢、人権問題に対してメッセージを発することはあまりないが、欧米だとBLMや#MeToo運動が起きた時に即座に反応をしていた。ブランドとしてというより、個々人の人権意識や当事者意識のリテラシーが高いと感じた。ファッションデザイナーは、日本においては少し独特で奇抜な人の職業だと思われているかもしれないが、本来的には知的創造性を体現する職業の一つだと思っている。それは視覚にも思考にも表れ、一人の人間として向き合わなくてはならないことは世界のどこにいても同じはずである。」

ニューヨークで暮らしている際、アメリカの社会に生きている者として、この部分の違いを強く感じたという。バブルの時代にも日本特有のファッションが存在したことは周知の事実だが、アメリカでも1920年代はフラッパーズのように従来の女性に求められる像から解放されたオープンでポジティブなスタイルや、世界恐慌後の1930年は保守的な落ち着いたスタイルが流行した。

「ファッションは世相や社会に密接に関係している。だから、その時代に人々が言語化することができない潜在的な欲求や気持ち、求める未来を表現することで人々の救いにもなりうる。」

 

クリエイティビティを突き動かすパワー

輝かしい実績やクリエイションの背景には、もちろん苦しみや葛藤が存在する。

「自分を突き動かすことの1つは、生きなければならないという気持ち。どんなことがあっても死んではいけないと思っている。服を着るということは、少し先の未来に対するエネルギーを持つこと。どんな人にもこれからの人生をよりよく生きてもらえるようにエンパワメントしていきたい。その思いがクリエイティビティの源泉になっている。」

また、ファッションは、悩みや孤独、不安や葛藤を消化してくれるポジティブな表現方法・拠り所であるという。その日着る服で、人生が少し変わるかもしれないし、ファッションは人が少し強くなれるソフトパワー。進自身がファッションに救われた経験があることから、自身のクリエイションによって救える人がいるといいと考えている。

 

海外のファッション業界で感じたこと

海外での活動を通して感じたこととして、人権意識や社会課題に対する当事者意識の強さという答えが返ってきた。例えば、2020年パリの展示会では、毛皮やレザー・リサイクル素材を使っているかどうかを確認する取引先が多かったという。その背景には社会問題に対する当事者意識はもちろんのこと、ヴィーガン人口の多さなども関係しており、動物保護の観点や、制作プロセスに環境負荷がかかっているかどうかに対してよりシリアスな傾向がある。この部分は日本も見習うべきだと進氏は考えている。

 

ブランドを通して作りたい社会

ブランドとして作りたい社会と、次のチャレンジについて聞くと、3つの答えが返ってきた。

1.ファッションを通じて人の人生を豊かにしたり、後押ししたり、生きる上での課題をソフトパワーで解決できるソリューションとしてアートを提案し続けたい。ファッションは、機能や社会からの強迫観念・同調圧力で選ぶのではなく、自分が純粋に欲しいからという気持ちで選べば、人生を動かせるすごい力を持っているものだと思う。

2.あらゆる人々のアイデンティティや個性を尊重し、「それもあるよね。」と過干渉にならず認めあえる社会の一助になること。

3.ファッションを支える素晴らしい技術を持つ方が稼げないから辞めていくという話をよく耳にする。ファッション業界で働く人々の生活が豊かになるように、まずは一つのブランドとして何ができるか?を考え、よりサステナブルなやり方を検討していきたい。」

ファッションデザイナーとしてだけでなく、いち経営者として、自分のブランドに何ができるか?を考える姿勢が印象的だった。

 

着ると感じる特別な力

ファッションという一見レッドオーシャンに見える市場で、彼女の作る作品は明らかに他ブランドとは一線を画している。筆者もMIKAGE SHINの服をいくつか愛用しているが、着るたびに誇らしく、いつもより胸を張って歩くことができる。

MIKAGE SHINが目指す、その人がよりその人らしく、良い人生を歩める服。ファッションが人に与えるポジティブで特別な力をひしひしと感じることができた。

 

進美影氏は1991年東京都出身。2014年早稲田大学卒業後、大手広告代理店を経て、ニューヨーク・パーソンズ美術大学へ進学。2019年ニューヨークで自身のブランド「MIKAGE SHIN」を創設後、N Y FWや東コレなどでコレクションを発表し注目を集めている気鋭のデザイナーである。

MIKAGE SHIN公式サイト / Instagram:@mikageshin_official

取材・文: 岸本かほり
Reporting and Statement: kahorikishimoto

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