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May.

2022

interview
8 Apr. 2022

スポーツメーカーが視覚障害者のための「白杖」をつくると、何が変わるのか。

高橋慶生
コピーライター
高橋慶生

総合スポーツメーカーとして知られるミズノ。その新製品は、視覚障害者の方が使う白杖(はくじょう)でした。発売に先立ち、2022年3月に行われた発表会・体験会を取材しました。

なぜ、ミズノが白杖を? そのカギは、「カーボン」という素材にありました。同社は50年以上にわたり、ゴルフクラブの製造・販売を手掛けています。カーボン素材の特性を知り尽くしていること。技術者がいて、生産設備を持っていること。そうした強みを活かしながら、ミズノにとっても大きなチャレンジとなる「ミズノケーンST」の開発はスタートします。

しかし、いくらカーボンやゴルフクラブについての技術やデータがあると言っても、未経験のカテゴリーにおける製品開発は手探りでした。そこで共創パートナーとしてタッグを組んだのは、プロトタイピングチームのPLAYERS(プレイヤーズ)。社会課題の解決や、視覚障害に関して豊富な知見を持っています。ミズノ社の想いに共鳴し、ゼロから作り上げる「プロトタイピング」の段階から視覚障害者や支援者を巻き込み、共にプロジェクトを推進しました。

 

左からミズノ株式会社 長谷川氏、久保田氏、PLAYERS中川氏、タキザワ氏

 

 

白杖を取り巻く社会課題

PLAYERSリーダーのタキザワケイタ氏からは、白杖に関する視覚障害者の現実が紹介されました。聞いている中で驚いたのは、「白杖を持つことに抵抗を感じる」と話す当事者が多いことでした。ある弱視の方の「本当は見えているのではないか、と陰口を叩かれたことがある」という声や、人混みの中で蹴られたり、足に当たって怒鳴られたりしたという例が挙げられました。

一方で、スポーツメーカーのミズノが白杖を開発することに対して、約9割の当事者が「期待する」と回答してくれたことは、プロジェクト推進の大きな力になったと言います。

 

PLAYERS タキザワ氏のスライドより

 

 

当事者と共につくりあげるプロセス

そして、PLAYERS理事で視覚障害当事者の中川テルヒロ氏からは、白杖の使用シーンについての説明です。外に出かける時、白杖は文字通り「命を守る」ものであり、地面からの情報を得るために、常に左右に振りながら歩くことになります。そのため「持ったときのバランス感」「ふりやすさ」「しなり」と言った繊細な設計が、身体の面でも気持ちの面でも、大きく影響してくるということです。「どんな天気でも、つねに傘を持って歩かなければいけないようなもの」というお話で、その感覚を少しイメージすることができました。

今回の開発にあたっては、1年以上に渡って視覚障害者はもちろんのこと、歩行訓練士、ガイドヘルパーの方などの支援者とも共創。アンケートやインタビューだけでなく、ワークショップ、ユーザーテストなど、対話と試作を繰り返しながら、アップデートを重ねていきました。

 

一般社団法人PLAYERS理事 中川テルヒロ氏

 

 

視覚障害者にも、それ以外の人にも知ってほしい「コンセプト」

そうして導き出されたコンセプトは、「持って出掛けたくなる白杖」。ユーザーにもっとアクティブに外へ出てほしい、というメッセージです。それだけでなく、当事者「以外」の人にとっても、街で白杖を見かける機会が増えることで、少しずつでも人々の認識が変わるきっかけをつくりたい。そんな想いも込められています。ミズノケーンSTが、視覚障害者と世の中の新たな「接点」になれれば、とタキザワ氏は話してくれました。

また、開発を推進してきたミズノの長谷川知也氏は、率直な想いを伝えてくれました。「自分は街で白杖を使う方に声をかけたこともないし、このプロダクトひとつで全ての問題が解決するとも思っていない。でも、絶対にミズノがやるべき事業だと考え、発売にこぎつけられて本当に嬉しく思います」。

この日の取材を通して、開発に携わった方々の「熱量」がひしひしと伝わってきました。技術をもった企業が自社の強みに気づき、ユーザーの声を徹底的に聞き、それを事業として成立させるために奔走する。「社会課題の解決」と大きな視点で捉えても意義の大きい取り組みではありますが、それ以上に感じたのは「やるべき人が、やるべきことを真摯にやり抜く」ことのインパクトでした。ミズノとPLAYERSが力を合わせて取り組んできたこのプロセスは、さまざまな企業や業界においても、大いに参考にできるものではないでしょうか。

 

ミズノケーンSTの使用シーン(ミズノ株式会社 プレスリリースより)

 

 

「出掛けたくなる白杖」から広がるもの

筆者自身、この取材のあと電車に乗っていて、白杖を持っている方を見かけました(発売前のタイミングだったため、今回の製品ではなかったのですが)。逆に言えば、今までは自分が意識を向けていなかった、ということなのかもしれません。もし困っている様子の白杖ユーザーを見かけたら、「そこの白杖を持っている方、どうされましたか?」と声をかけてくれると安心するということを、取材の中で教えてもらいました。心に留めておきたいと思います。

プロジェクトに関わる一人ひとりの知恵と、工夫と、そして情熱を集めることで生まれた白杖、ミズノケーンST。

中川氏は、「その白杖かっこいいね」と家族から声をかけられ、ユーザーとしても嬉しかったと語ります。このブルーとホワイトの白杖を街で見かける日を、楽しみにしています。

ミズノケーンST (ミズノ公式サイト

 

メディアには「点字プレスリリース」も配布されました

 

 

 

取材・文: 高橋慶生
Reporting and Statement: yoshiotakahashi

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